どす黒い雲が空に広がっている。
ポツリポツリと徐々に強さを増した雨が窓を叩き、カーテンが光に瞬き始めた。そろそろだ。
…トントントン。
控えめにドアを叩く音がする。
どうぞと返せばまた控えめにドアは開き、中を窺うようにそろりと少女が顔を出す。
「ゆ、きお、先生、まだ起きてたの」
「ええ。次の授業に使う資料をまとめていました」
そう言えば彼女はあ、う、と言葉にならない声を漏らした。
目を泳がせ、そわそわと落ち着きのない様子でドアの前に留まっている。
「あ、お、お仕事中に…ご、ごめんなさい…。……あの…、その……」
彼女が何か言おうとしたその時、一瞬カッと部屋の中が明るくなり地鳴りのような音が響く。
ひ、と彼女は目を閉じると、両手でドアにしがみつく。
「……っはぁ…」
「雷、ですね」
音をやり過ごした後、外の様子を見遣る。
土砂降りの雨が降り、黒い雲が光っている。
ドアの向こうには、怯える彼女。
「…おいで」
卓上のランプを引き寄せてベッドに腰掛ける。
目を開けた彼女が小走りで向かえば、ぽすんとその胸に飛び込んだ。
「雷、怖いですか?」
「うん。雪男先生は怖くないの…?」
「僕は男ですから」
軽く笑えば身体を強ばらせた彼女もぎこちなく微笑む。
土砂降りの中を走ってきたのだろう。
彼女の傘で庇いきれなかった部分の髪や服がしっとりと濡れていた。
「…あ、で、でも雪男先生お仕事中だったよ…ね…」
やっぱり帰る、と言おうとしたのだろうその時に雷がまた鳴り響く。
小さく悲鳴を上げた彼女が、懸命にしがみついてきた。
「…構いません」
「え…?」
冷たい彼女の頬を両手で包み込む。
この熱が少しでも伝導するようにと。
「遠慮はしなくていい。
怖くなったらいつでもおいで」
「……う、ん」
ありがとうと言って顔を埋める。
背中に回された腕にこちらも腕を回し、片方で優しく頭を撫でる。
やがて安心した彼女が眠りに就いた頃、もう窓を叩く雨音も止んだ外は静まり返っていた。
―――――
え?甘い要素どこ?←
いやあんまり考えずに思いついたまま……やってたらこうなりました←
そして燐が完全空気化(爆)
アレだ、きっと爆睡してたに違いない←
しかし朝になって「昨日雷すごかったなー」とか言ってきたら雪男フリーズするだろうなーなんて思ったり(^p^)
「わたし、祓魔塾辞める」
「………ハァ!?」
思わず椅子から転がり落ちそうになった。
突然そんな事を言い出したソイツは、険しい表情で目線を落としている。
ずり落ちた身体を元の体勢に戻して、俺はソイツに訊ねてみた。
「なんで塾辞めんだよ?」
「……ゆきお…せんせいに……」
「雪男?……に?」
「……フられた…」
「………」
ハァーッ!?
数秒してから俺は、ソイツが言った事を理解した。
フられた!?コイツいつの間に告白してんだよ!っつーか何フってんだよ雪男の野郎ォォォ!!
「雪男先生が居るから塾に入ったのに…こうなったんじゃもう塾に行く意味もないよ…!」
うううと唸りながら膝の上に置いた手を強く握る。
そんな理由で塾に入ったのかと思いながらも、眉を寄せて懸命に涙を堪えるソイツの姿を見ていて、俺の胸も苦しくなる。
惚れっぽい性格が仇となり、増え続けるフられた回数。
そのたびにコイツはまたフられたと落ち込みながら俺の所へとやって来る。
俺は話を聞いて慰めるばかり。
俺の事なんてちっとも目に留めやしない。すぐそばに居るのに。
…それでも「俺にしとけよ」「俺じゃダメなのか?」なんて事言える筈もなく。
「…辞めるの、やめろよ」
「なにそれギャグ?」
「じゃなくてっ!」
意図せず出した言葉に一瞬冷めた空気が漂ったものの、俺はソイツを見遣って、俺なりに考えた事を口に出して言った。
「お前がいねーと、つまんねーよ」
雪男にフられたからには、コイツは関わりを無くそうとするだろう。
そうなればいくらクラスが同じでも、雪男と一緒に居る機会が多い俺は、自然と距離を置かれる事になる。
更に祓魔塾を辞めてしまえば、それこそ接点は減っていく。
やっとそれなりに楽しいと思えてきた高校生活、それがまたつまらないものになっていくなんて。
―――そんなの嫌だ。
「お前のおかげだよ。学校とかめんどくせーけど、お前が居るから楽しいし…その、こんな俺とも…仲良くしてくれる…し」
「燐…」
「…っあー!とにかく!辞めんなよっ!」
言葉を並べるのが面倒になって結局そう言い捨てた。
顔を上げて此方を見るソイツと目を合わせたまま、暫くの間沈黙する。