『ピンポーン』というチャイム音が邸宅に鳴り響く。
突然の来訪者に菊は慌て玄関へ駆ける。
本日の予定には来客の予定はない。
菊は頭のなかにある日程を巡らせながら玄関の扉を開けた。
「チャオー
菊ぅ〜
」
扉を開けて勢いよく入ってきたのはフェリシアーノだった。
「フェリシアーノくん。いらっしゃい。」
菊は快く彼を招き入れた。
しかし突然の来日に疑問を抱かざるを得ない菊は思いきってその理由を尋ねた。
「フェリシアーノくん。それはそうと何故突然来日されたのですか?一声教えて下さればお迎えにあがりましたのに……」
菊の質問にフェリシアーノはへらりと笑いながら答えた。
「だって急に菊に会いたくなったんだもん。突然来日することを菊に教えたらおれのせいで菊、色々気を使うでしょ?だったら突然行ってビックリさせた方がいいかなって思ってさ。菊は嫌だった?」
嬉しそうな顔で説明していたフェリシアーノだったが、最後の方は悲しそうな表情に変わっていた。
菊はそんなフェリシアーノを見て罪悪感に苛まされた。
「そんなことありませんよ。来ていただいたのはとても嬉しいです。フェリシアーノくんでしたらいつでも大歓迎ですよ。」
菊の言葉にフェリシアーノに明るさが甦る。
「菊は優しい子だね。だ〜い好きだよ。」
フェリシアーノは菊をその腕にぎゅっと抱きしめた。
「フェリシアーノくん
苦しいです!それに『子』はやめてください。私はあなたよりうんとじいさんですよ!!」
「だって菊、おれよりちっちゃくて可愛いんだもん
」
フェリシアーノは更に菊を抱きしめる腕の力を強める。
「わ、わかりましたから手を離して下さい。くっ、苦しいです
」
菊の訴えにようやくフェリシアーノはその腕を解放した。
二人はゆっくりと過ぎる時間をおしゃべりや料理、食事をして過ごしていく。
他愛ない日常や他の国との話をしたりして二人だけの緩やかな時間は通過していく。
夜も更けフェリシアーノは泊まることとなった。
風呂も済ませ寝床で湯冷めをしていると、この部屋の時計の音が鳴り響いた。
「Buon Compleanno 菊!!」
時計の音と共にフェリシアーノが菊に祝いの言葉を述べた。
「へっ?」
ただいまの時刻
二月十一日午前十二時
菊は建国記念日の今日が誕生日であることを思い出した。
「菊のことだからきっと忘れているんだろうと思ったんだ。菊は他人のことには関心を持つけど、自分のことになると本当に無関心だから。だから前の日から菊の所行って一番にお祝いしてあげようと思ったんだ!!はい、プレゼント!」
フェリシアーノは菊に何かを差し出した。
「いただいていいのですか?」
困惑しながらあいづちを打ったフェリシアーノを見て中を開けると小さな鬢のボトルが入っていた。
「おれの所のオリーブオイルで作った菊のところの花をブレンドしたアロマオイルだよっ。」
ボトルを開けると桜の香りがほのかにした。
「いい香りです。」
心休まるような春の温かみのこもった香りは菊を安らぎに満たさせる。
「でもそろそろ眠りましょう。これ以上起きているとせっかく温まった体が完全に湯冷めしてしまいます。」
フェリシアーノが布団に入ったのを確認すると菊は電気を消して自身も布団に入る。
「おやすみなさい、フェリシアーノくん。」
「おやすみ、菊。」
夜の静寂がそっと二人を包み込んだ。