温かな雪(過去拍手文)

過去の拍手お礼文です。
読んでない方は、よろしければどうぞ(*^^*)


私の理想のあかねちゃんなんですが、
「らんあ」ですので、苦手な方はご注意くださいm(__)m




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ガラッと開けた戸の向こうは、予想してた以上の眩しさで、おれは思わず手をかざした。


「こりゃ、ロードワークは無理だな。道場で朝稽古でもすっかな。」


昨夜から降り続いた雪は、見慣れた町をすっかり白銀の世界に変えていた。

寒っと震えて、急いで道場へと向かう。
地面は、足の踏み場に困るほど一面の雪に覆われている。
だか、その中に点々と続くおれより小さな足跡。

あかねだな。
あいつもロードワークは諦めたらしい。

あかねの足跡の上をひょいひょいと飛んで、おれは道場の戸に手をかけた。
その時――


ボスッ


おれの顔にヒットした雪の塊………。


「あははっ、隙あり!」

……あかねのやろー!

「冷てーじゃねーか!なにすんだよ!」


ボスッボスッ


「やったー!また当たりっ!乱馬あんた鈍ってんじゃないのー!」

……調子に乗りやがって、あんにゃろー!

おれは顔に付いた雪をブルッと振るって落とすと、あかねへ向かって飛び出した。

「くぉら、待てっ!あかね!」

「きゃーっ!」

おれの足に勝てるわけがねーのはあかねもわかっているから、踵を返して必死で駆け出して行く。
道場の角を曲がり、裏庭へ逃げる。
だが、あっという間に追い付いたおれの手が、あかねの肩を掴む寸前―――


「きゃあっ…!」


雪に足を取られてあかねがバランスを崩した。

「あぶねー!」

おれは瞬時にあかねを抱き込むと、自分の身体が下になるように雪の中へと突っ込んだ。

ドサッ

痛みは無いけど、とにかく冷てぇ。
多分、あかねも怪我は無いはずだ。


「…たくっ、調子に乗り過ぎ。」

「ごめんなさい…。」

ん?やけに素直じゃねーか?

腕の中のあかねは、頬を赤らめておれの胸に顔を埋めてい…………ってこれ……この態勢…ちょっと……!?


一瞬にして固まったおれに気付いて、はっとしたようにあかねが身体を少し起こした。
至近距離で目が合って、ドキドキしてんのにあかねの背中に回した腕を離すのが……なんだか惜しくなった。

もうちょっとくらい…こーしてたいかも………。


「乱馬……?」

殴るかなとは少しは頭をよぎったけど、そんなことよりおれを見つめてくるあかねが可愛くて、引き寄せられるように腕に力を込めていた。

「あかね…。」


おれの意図を計りかねてさ迷っていたあかねの瞳が、またおれの上で止まって大きく見開かれる。

何度目かの瞬きの後、あかねはゆっくりと瞳を閉じて、身体から力を抜いた。

あかねの短い髪が頬に当たる。

くすぐってーけど、そんなのも…もうどーでもよくて………。

微かに唇に感じた温もりに、おれも目を閉じて…………。

っ!?



ぐいんっ



へ?
なんだ?

急に消えた温もりと、全身にまとわりつく冷たさとで、おれは自分の身に起こったことを理解した。

はぁー……いいとこだったのに………。


何が起こったのかわからなくて、キョトンとするあかねの視線が、ゆっくりとおれの顔から下へ移動する。


「……ぷっ、あははっ。」

「笑うなよ…。」

「だぁってーっ、あははーっ!邪魔されちゃったね!」

……全くだよっ!

「普段の行いが悪いからよー。自業自得ね。散々人の胸をバカにするから。」

「う"……。」


おれとあかねの邪魔したのは、何を隠そうおれ自身。
おれの体温で溶けた雪が服に染み込んで、女に変わっちまってできた胸が、あかねの身体を押し上げたって訳だ。


本当におしい………いや、一瞬触れたけどさ…。
せめて、あと一秒っ………はあー……。


「乱馬…?へこんでるの?」

うるへー……。

おれはあかねごと上半身を少し起こした。
あかねは人の顔を可笑しそうに見ながらも、まだおれの上に乗ったままでいる。


「濡れんだろ?笑ってねーで、早くどけよなー。」

「重いの?」

「重かねーけど、おめーまで濡れるって言ってんの!」


実際、おれの服はほぼびしょびしょで、今にもあかねの服にまで染み込みそうなぐらいだ。
う"〜つめてぇっ。
こりゃ、朝から風呂だな………。


だけど、いつまで経っても、あかねは退こうとしない。
それどころか笑うのを止めて、今度はまじまじとおれの顔を見つめてきやがった。

な、なんなんだよ!?
おれの顔に何かついてんのか!?


「風邪ひくだろ!ほらっ、さっさと――」
「―――関係ないよ。気にしてないから、あたし。」


「なっ!?おめーが風邪ひいたら、おれが気にするんだよ!」

「あたしには関係ないから、乱馬は気にしないでね。」

はあー!?なんだよっ、それ!?

「だから、離れろって!」

無理矢理離そうとするおれの手を押さえて、あかねはおれを見つめたままグイッと身体を寄せてきた。
おれとあかねの胸がまた密着する。

ちょっ……近いんだって!

顔を赤らめて焦るおれとは対照的に、あかねは落ち着き払った様子で、軽く首を傾げた。
そして、ふわっと何とも優しげに笑った。


「―――乱馬は乱馬だよ。」


あかね?


その微笑みがあんまりにも綺麗で、おれは不覚にも見惚れてしまってたんだ。
その間に、あかねはまたゆっくりと顔を近づけて来て…………。

恥ずかしいとか今は女だとか、そんなこともう頭から消え失せてた。

あかねが瞳を閉じる少し前に、おれは可愛くないはずの許嫁の身体を、強引に引き寄せていた。



『乱馬は乱馬だよ。』



その言葉の意味を理解したのは、あかねがくれた温もりが、おれの全身に広がった頃だった。