2012-11-13 15:54
二次創作小説です。何それ?という方は閲覧をお止め下さいm(_ _)m
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〜漂う違和感〜
乱馬の手が慣れた様子で閂(かんぬき)を外すのを、あかねはただ見ていた。
ーガチャン…
鉄と鉄とがぶつかり合う音に、あかねはハッとして顔を上げると、開門しようとする乱馬の襟元を掴んで鉄柵越しに引き寄せた。
「いだだだだっ!いってぇってっ…!」
「あんたねーっ、お帰りじゃないわよ!今まで何してたのよぉっ!」
「なっ何って!?お前らが帰って来んの待ってたんだろー!?」
「はぁっ!?帰りを待ってたのはこっちよ!何よっ着物なんか着てっ、ふざけるのもいい加減にしてっ!!」
「ちょっ、ちょっと待ちって、あかねちゃんっ!」
慌てて右京が乱馬からあかねを引き剥がす。
「いってぇーな…たくっ…。」
乱馬は片手で鉄柵にぶつけたところを擦りながら、もう一方の手で着物の襟を直すと、改めて門を開きにかかった。
「やっと帰って来たと思ったら、なんちゅー乱暴な女だ。」
そのぼやきに今度は良牙が反応する。「貴様ぁーー!あかねさんに心配をかけておきながら……その暴言許さーんっ!!」
「ちょっと待ちってゆーとるやろっ!?」
良牙が乱馬に飛び掛かるより早く、グワシャッと右京の振るったフライ返しが、良牙の頭に炸裂した。
「もうっ、二人共落ち着きって!ちょっとこっち来(き)ぃ!」
右京は未だ怒りが治まらない二人を、離れた場所で呆れた様子で佇むムースの側まで引き摺って行くと、顔を寄せて話し出した。
「あの乱ちゃんは、どう見ても普通やない。あかねちゃんかて、最初おかしい思ったやろ?」
「そ、それはっ……。」
右京の言葉に不服そうにしつつも、あかねは思わず口ごもった。
「ここは一つ、暫く乱ちゃんの様子を見たらどうやろ?」
「でも…様子を見るったって……。」
あかねはチラッと横目に乱馬を伺う。
見れば乱馬は、先程のあかねに引っ張られた時に落としたバラを、ぶつぶつ文句を言いながら拾い集めていた。
バラを集め終わると、花越しに品定めするかの様な目線であかねを見ている。
「な、なによっ…。」
「せっかく可愛い顔してんのに…。」
そこで言葉を切ると、乱馬はふっと目を細めて笑った。
「もったいねぇの。」
言ってクルッと踵を返すと、スタスタと玄関へ向かって行った。
「…い、今何てっ…!?」
「な、なんやてっ!?」
「ら、乱馬…貴様っ…!」
あかね、右京、良牙が同時に驚愕の声を上げる。
(可愛いって…私に言ったのよね…?)
あかねは頬を紅潮させ、惚けたように乱馬の背中を見つめていた。
「ふむ、乱馬の奴がおかしいのは、間違いないようじゃな。」
ムースだけがこの一幕を冷静に見ていた。
「何してんだ?さっさと来いよー?」
重厚な両開きのドアを全開にして、乱馬が手招きをする。
「おい、行かんのか?」
未だそれぞれに固まる三人を一瞥して、ムースは敷地内へと足を踏み入れた。
門をくぐった瞬間、強いバラの香りが彼を包み周囲の空気が一瞬揺れる。
(ん?なんじゃ…?)
だが歩みは緩めず、ムースは真っ直ぐ玄関へと向かって行った。
その後方、順番に我に帰った三人が慌ててムースの後を追い掛ける。
「ま、待ってよっ!」
駆け足で玄関へと向かうあかねの目に、庇の下へ手を伸ばして何かを取ろうとする乱馬の姿が映った。
乱馬は庇の下に掛けられた長方形の木の札を外すと、それに何かを囁いたようだった。
(サンキュ…って言った?)
視線を感じて、急に乱馬が顔を上げる。
あかねはドキッとしてとっさに顔を伏せた。
さっきの言葉の余韻がまだ残っているようで、顔が火照るのを抑えられない。速まる鼓動を鎮めようと、あかねは大きく息を吐いた。
次の瞬間、彼女の背中をポンッと乱馬が押す。
「ほら、早く入れって!」
「きゃあぁっ…!」
反射的に逃げるように飛び退いて、あかねは玄関のタイルの上にへたりこんだ。
「さっきから、何をやっとんのじゃ?」
ムースの冷ややかな視線を感じなら、あかねは「べ、別にっ。」と立ち上がった。
(乱馬なんかに、何で動揺しなきゃなんないのよっ…!)
そんなあかねの気持ちなど露知らず、乱馬は靴箱の上に先程の木の札を大事そうに置いた。
「乱ちゃん、それ何やの?」
右京が札を覗き込むようにして訊ねる。
「あ?これか?おまじないみたいなもん。」
「まじない?何のや?」
「無事に帰って来ますようにって。」
「誰が?」
「誰って、おめぇらがだろ。」
「うちらがぁ?なんのこっちゃ?」
右京が札を手にとってみると、明らかに乱馬のものではない達筆でこう書かれていた。
『立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる 待つとし聞かば 今帰りこむ』
「これ…百人一首やんか?」
あかねも右京の手元を覗き込む。
「本当、乱馬あんた歌の意味知ってるの?」
「へ?知らねーけど?」
右京の肩越しに、良牙がひょいっと札を取り上げる。
「あほのこいつが知ってるわけないだろ?」
「コラッ!あほとは何だっ!あほとはっ!」
「あほだから、あほとゆーとるんだっ。」
「じゃあ、おめーは知ってんのかよっ。」
「しらんっ!」
良牙がキッパリと言い放つ。
後方で右京が「あのなあ…。」とつっこみ、あかねは「はぁー。」とため息をついた。
「ふぇめーばって、ひっひょじゃねーくぁ!」
乱馬はは指で口を横に引っ張って、「ぶぁーか、ぶぁーか!」と良牙の周りを飛び回った。
「き、貴様ぁっーーー!」
良牙が怒りに委せて繰り出した拳が空を切る。
軽く上体を反らしてそれをかわしたま乱馬は、そこから良牙の腕に手をつき支えにすると、良牙の頭の上に「よっ。」と腰掛けた。
和服の為足は揃えてはいるものの、片手をついて完全にくつろぐ体勢になった。
「つっくづく人のことをバカにしおって……。」
怒りに奮える良牙の言葉など全く気にせず、乱馬は左腕にずっと抱えいたバラを見て「いっけねぇっ!」と声を上げた。
見ればバラは少し生気を失いつつある。
「やべっ、忘れてたぁっ!水に入れねーとっ。」
軽やかに飛び降り、あっという間に廊下の奥へと消えていった。
ついでに良牙を踏んでいったことなど、本人は気付いていない。
良牙はガバッと起き上がると、乱馬を追うのではなく、後ろの右京へと詰め寄った。
「おいっ、あれのどこが普通じゃないだとっ?!いつものあいつにしか見えんぞっ!!」
「…まぁ、今のはいつもの乱ちゃんやけど……。」
良牙から目をそらして言い澱んだ右京だったが、すぐに「けどっ」と自分を見下ろす男の瞳を睨み返した。
「あんたかて、最初見た時変やと思ったんやろ?それに男の乱ちゃんが、女の格好で着物着てバラ摘んでんのが、普通なんか?」
「どうせ奴のことだ。ここの住人に食い物で頼まれたとか、なにか下心があってのことに決まってる。」
「…おいっ。」
横からムースが口を挟む。
「なんだ?」
「なんやねん?」
「この館、人が住んでおるのか?」
「えっ?」
「ん?」
「…あっ…。」
ムースの言葉に三人は思わず息をのみ、お互いの顔をただ見合わせていた。
Bに続きます。