2013-11-21 08:16
以下はユナ☆様の作品です。
サイトを閉鎖されましたので、当方へ移動させて頂きました。
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・・・あかねは…おれの・・・許嫁だっ!
・・・・・・・・・それなのに・・・・・・!!
あかねに否定されることが・・・
拒否されることが・・・
こんなにも苦しいことなんだって、改めて思い知らされる・・・
・・・・・・どうすりゃいいんだ!?
どうすりゃ、あかねを元に戻すことができんだよ!!
「・・・やっ・・・痛っ・・・・・・」
おれが腕に力を入れ過ぎたせいか、あかねが顔を歪める。
「あっ・・・わり〜!!」
そういや、腕けがしてたんだ!
あかねのその表情に、反射的に腕の力を緩めた。
「離してっていってるでしょ!!」
あかねは力を緩めた一瞬の隙におれの腕の中から逃れ、さらに攻撃を仕掛けようと右足を振り上げる。
おれは、あかねの右足をかわしながら後方へとジャンプした。
「あたしに馴れ馴れしく触るなんて許せない!!」
キッと睨み付けると同時に、おれ目掛けて一直線に向かってくる。
「わっ!バカ!!おめ〜、腕けがしてんだぞ!!拳で攻撃してくんじゃねぇ〜!!」
「問答無用!!」
両腕のギブスなんて気にしていないかのように、右、左と殴りかかってくる。
くそっ!!
男のおれの姿じゃ、埒が明かねぇ〜!
とにかく!
水!!
辺りを見渡しながら走り続けると、道端にホースがついた水道があるのが目に入った。
やった!!水だ!!
おれは素早く蛇口を捻り、勢いよく飛び出た水を自分目掛けてかけた。
おれの身体はみるみる縮み、今のおれの姿には大き過ぎる服が、水に濡れてまとわりつく。
「乱馬〜!覚悟!!」
「あかね!!」
おれの姿にはっとしたように、あかねの目が見開かれる。
さっきまでの憎悪に満ちた気は消え去り、ただ力なくおれを見つめて佇んだ。
「・・・大丈夫か?あかね」
「・・・ら・・・らんま」
「腕動かすんじゃねぇ〜よ。怪我してんだから」
「うん・・・分かってるんだけど・・・乱馬の顔見てると、やっぱり怒りが込み上げてきちゃって・・・どうすることもできないんだもの」
そう言うと、あかねの身体が急に傾き倒れかけた。
「おい!!あかね、大丈夫か!?」
咄嗟に、あかねの肩を抱き引き寄せる。
「・・・なんか・・・身体が重くって・・・それに、すっごく眠い・・・」
そう呟くあかねの表情はぼおっとしていて、今にも寝ちまいそうだ。
・・・そりゃ、そうだよな・・・
あんな馬鹿力で、いつも以上の動きして・・・
おれに対する敵意を剥き出しにし続けてたら、身体への負担なんて半端ねぇよな。
昼間に比べて闘志や技のキレが弱くなったと感じたのは・・・・・・
きっと、あかね自身の身体に限界がきたせいだ。
おれは、あかねに背を向けて腰をおろした。
「らんま?」
「乗れよ。眠いんだろ?」
「・・・でも・・・」
「いいから」
さっきまでのあかねの状態が信じられねぇ〜くらい、素直におれの背中へと身体を預けてきた。
「行くぞ」
「うん」
おれの背中で揺られて何分もしねぇうちに、あかねは眠っちまった。
あかねの気持ち良さそうな規則正しい寝息が、微かに聞こえる。
んとに、五寸釘のヤロー
厄介なことに巻き込みやがって!!
あのジュースを飲んでもいねぇのに、いまだに効果は切れねぇ〜。
・・・あかねのこと考えたら、暫くは・・・
やっぱ、女の姿の方がいいのかもしれねぇ・・・
五寸釘の思惑通りになるみてぇ〜で、頭にくっけど・・・
こんな疲れ果てたあかねの姿見ちまったら・・・・・・
あかねの身体の方が心配だ。
こりゃ、効果が切れるまで待ってるなんて流暢なこと言ってらんねぇ〜な・・・
そんなことを考えながらあかねを背負い、家へと歩き続けた。
**********
「らんまー、今日はどうしたんだ?一日中女のまんまでいるなんてよ」
「・・・別にいいだろ〜」
「まっ、おれはらんまちゃんの姿でも可愛いから構わないけどな」
一日の授業も終わり、騒々しい放課後の教室。
滅多に女の姿のままでなんて過ごしたことがねぇおれが、女でいることを疑問に思ったらしい大介とひろしが、おれの机に集まる。
「好きでこの姿でいんじゃねぇ〜よ」
「だったら、男の姿に戻ればいいじゃん」
「・・・・・・・・・」
大介の言葉に答えられないでいると、おれの視界の端に、おれを見ながら薄ら笑いを浮かべている五寸釘の姿が見えた。
あんのヤロー!ただじゃおかねぇ〜!!
おれが敵意を込めて一睨みすると、慌てふためきながら、すごすごと教室から出ていった。
窓際の席に目を向けると、あかねはさゆり達と楽しそうに話をしていた。
おれが女の姿だと、いつもと変わらねぇ〜あかねがそこにいる。
昨日、おれの背中で眠っちまったあかねは、そのまま朝まで目を覚ますことはなかった。
あかねのことを散々心配して、眠りについたのなんて明け方になってからだ。
でもおれの心配をよそに、あかねはいつも通りの調子でおれを叩き起こしにきた。
一晩過ぎて、ジュースの効果も消えたんじゃ・・・と、淡い期待を抱いたおやじ達が、おれにお湯を掛けてあかねの前に突き出しやがったが・・・
やっぱ、まだ効果が消えているわけもなく・・・
朝っぱらから追いかけ回される羽目に・・・。
どうやったら効果がなくなるかなんて、おれには分かんねぇ〜よ・・・
解毒剤もねぇみて〜だし・・・
こんなことに詳しい奴なんて・・・
・・・・・・・・・ん!!?
いるじゃねぇか!!!!
「あかね!!おれ寄るとこあっから、先に帰ってろ!」
おれは、急いで机に掛けてある鞄を掴むと、あかねにそう声を掛けながら窓から外へと飛び出した。
「えっ?ちょっと!らんま!」
おれを呼ぶあかねの声を背中で聞きながら、目的の場所へと足を速めた。
*************
「ほぉ・・・飲むと、最初に見た異姓に憎しみを持ち攻撃したくなるジュースとな」
「中国の怪しい商品をたくさん知ってるばあさんなら、この効果が消える方法とか、何か知らねぇか!?」
「う〜〜む・・・」
低く唸りながら、目を閉じ考え込むばあさん。
準備中で客のいねぇ〜猫飯店の店内で、ばあさんと向かい合って座り、あかねのことを話していた。
「普通、食べ物や飲物を利用した暗示なら、それが胃の中で消化されてしまえば効果は無くなるはずなんじゃが・・・」
「あかねは、そのジュース飲んでねぇんだ。頭からかぶっちまったくれぇで・・・」
「・・・頭からかぶったのか?」
「あぁ」
「飲んでもいないのに、効果が表れるのだとしたら・・・」
ばあさんは何か考えるような目で、おれを見た。
「あかねが婿どのに敵意を表している時に、何か変わったことや・・・気になるようなことはなかったかの?」
気になること・・・・・・??
・・・・・・そういや・・・・・・
「おれを倒すことしか頭にねぇみてぇに襲い掛かってきたかと思えば、泣きながらおれに逃げろって言ったり・・・矛盾してた時があったな」
「なるほどのう」
「暗示を解く鍵は、おそらく[涙]と[婿どのの危機]じゃ」
「涙とおれの危機??・・・どういうことだ?」
「これは、あくまでもわしの推測でしかないが・・・そのジュースを頭からかぶった時に、瞳にでも入ったんじゃろう。本来なら胃の中で消化されてしまうはずのものが、瞳の中に入り留まってしまっとるんじゃ。そして、暗示がかかった状態でも婿どのに逃げろと言ったのは、婿どのに危険が迫っていた時だな?」
「・・・あぁ」
「暗示というのは人の心を操り支配する。だが、その間のことをすべて分からないわけではない。本来のあかねが婿どのの危険を知り、心の奥底から表面へと出て来て助けようとしておったんじゃ」
「・・・あかねが・・・」
「暗示によって生み出される憎しみの心と、婿どのに対する本来のあかねの気持ちの差が大きければ大きい程、暗示に抵抗するあかねの体力の消耗は激しいはずじゃ。憎しみたくなくても、憎しむように差し向けられるのだからのぉ」
そんな、ばあさんの話を聞きながら、苦し気に絞り出されたあかねの声と、涙が溢れる瞳が頭に浮かんだ。
早く、なんとかしてやりてぇ〜!!
「ばあさん!!どうやったら、あかねを元に戻すことができんだ!?」
「暗示を解くには、暗示の効果が発揮されとる時に解けなければ意味がない。婿どのが男の姿に戻り、あかねが憎しみの心に満ちている時に、奥底に閉じ込められている本来の心を表面へと浮かび上がらせ、心を取り戻すしかない。・・・二人にとっては辛い状況に陥るかもしれんが・・・」
「・・・つまり、あかねの暗示が解けるか解けねぇ〜かは、おれの行動次第ってことか」
「簡単に言えば、そういうことだ。・・・わしが婿どのに教えてやれることは、これくらいじゃ。・・・すまんのぉ」
「いや、ばあさんに色々聞けて良かったぜ。・・・それにしても今回は、やけに協力してくれんだな」
「婿どのがこのまま女の姿で過ごすようになったのでは、シャンプーが困るのでな」
「そういうことか。まっ、ありがとよ。ばあさん」
「また何かあった時は、来なされ」
おれは、ばあさんの言葉に頷きながら、猫飯店を後にした。
追記に続く