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光を抱きて@?

たとえなにがあっても……


「乱あ乱祭3」への参加作品です。

暫く拍手に置いていたので、読まれた方いらっしゃるかと思いますが…。





―――――――――――――――――――



「乱馬ぁー。おじいさんがイタズラしないように、ちゃんと見張っててよ!」


「わぁってるよー!」



言うだけ言って廊下へと消えた許嫁を軽く睨んで、乱馬はまた視線を戻した。

胡座を組んだ畳の上から見上げると、鴨居に掛けられたそれは、純和風のこの部屋には似合わないように思えた。


ふわふわと風も無いのに、何層にも重ねられたレースが揺れている。
障子越しに射し込む朝陽を浴びて、散りばめられたビーズがキラキラと繊細な光を放っていた。



(やっぱ…あいつもこんなの着てぇのかな?)


ウェディングドレス―――
一般的にそうた呼ばれる純白のドレスが、今日包むべき主人の到来を待ちわびている。



乱馬は、組んだ膝の上に肘をついて自然な動きで顎を乗せた。


(………そーいや…可愛かったな……。)


男の彼ですら素直に綺麗だと思えるそれを着た彼女の姿を思い出し、はっとして乱馬は頭を何度も振った。



「可愛くなんか…ねーよ…。」

「何が可愛くないですって?」


ぷいっと反らした顔の先で、襖がタンッと勢いよく開かれた。


「別に、何でもねーよ…。」


鮮やかな振袖姿で入ってきたあかねから、気まずそうに目を反らす。


「もうすぐ、かすみお姉ちゃんの仕度始めるからもういいわ。ありがと、乱馬。」

「お、おぅ…。」

「どうせ、あたしがドレス着たって可愛くないとかそんなとこでしょ?」

(そーゆーのが可愛くねーんだよ。)

「ま、おれの方が似合うかもな。」

「なら………あんたが嫁に行けばいーでしょっ!!」

「うわぁっ!バカッ!やめろってっ!!」



ドガッ


「……つぅ…いってぇー…。たくっ…振袖姿で暴れんな…よ……ん?」


いきなり白くぼやけた視界と、ふわっと何かに覆われた感触とに驚いて、乱馬は顔を上げた。


「なんだ…これ?……ベールか?」

「ぷっ…あははっ、やっぱり男の姿じゃ似合わないわねっ。」

「なっ…!んなの、あったりめーだろ!」


恥ずかしさを隠すように、慌てて乱馬はベールを引っ張り落とす。


「もうっ、お姉ちゃんのなんだから、乱暴にしないでよ!」


言って乱馬の手からベールを奪い取ると、あかねははっとしたようにその白い花嫁の証を大事そうに腕に抱えた。


「かすみお姉ちゃん…綺麗だろうな…。」


無意識に呟かれた言葉に、乱馬は不思議そうにあかねの顔を覗き込む。


「なぁ…あかね。」

「なに?」

「おめーも、あれ着てぇとか思うのか?」


顎だけで示された方向に純白のドレスを認めて、あかねは眩しそうに目を細めた。


「そりゃ…あたしだって、いつかは着たいって思ってるわよ。」

「ほぉ…。」

「なんなのよ…似合わないとか言いたいわけ!?」

「だ、誰もそんなこと言ってねーだろっ。」

「ご心配なく。あんたに着せて貰おうなんて、思ってませんから!」

「あんだよ、ほんっとに可愛くねーな……。」


(………とは言っても…一応、許嫁なんだし…。おれが一番可能性としちゃ高いわけだよな……?)


「どうせ、あたしは可愛くないわよっ。」


(……もし…許嫁じゃなくなったら……こいつ…どーすんだろ?)


「あんたの方が似合うなんて、言われなくてもわかってるわよっ。」


(好きとか嫌いとかじゃなくて……例えば止水桶の水被った時みてーに、おれが男に戻れなくなったら……?)


「そんなに自信があるなら今すぐにでもっ………乱馬?…なによ、黙りこんじゃって。もうっ、乱馬ってば!」


「………へ?」

「なっ……!」


ようやく気付いて自分を見上げた乱馬の真剣な顔にふいを突かれて、あかねは思わず息を呑んだ。
予想外のその表情に、急激に早くなってゆく鼓動に耐えきれず、あかねは咄嗟に顔を背けた。
胸に抱いたベールが、苦しそうにカサッと微かな音を立てる。


数秒の沈黙の後、先に口を開いたのは乱馬だった。



「もしも、だけどさ……。」

「な、なに…?」

「おれが、男に戻れなくなったら、おめーどうする?」

「はぁ?なによ、それ?」

「ほら、ハーブん時みてーに女のままになっちまったら、どーするのかって聞いてんだよっ。」

「どうするって、あたしが?」

「だ、だって、おれとあかねは一応……その……い、許嫁なんだし……。」


今度は乱馬が照れ隠しに俯く。


「た、確かに許嫁だけど……あんたのことだし、何がなんでも男に戻れる方々探すんでしょ?」

「それは、そーだけどっ……。」

「なら、次は一緒に行くわ。」

「いや、そーじゃなくてっ……へ?一緒に…行くの?」


思ってもみない答えに照れていたことも忘れて、乱馬は顔を上げた。


「あんたが嫌じゃなければね。」

「……危なくねーなら…来てもい……じゃなくてっ。完全に男に戻る方法がなくなったとしての話だって!」

「男溺泉に行っても?何をしてもってこと?」

「そう、どーやっても戻れなくなったらだよ。」

「どうしても…?そうねぇ………。」


暫く考えたまま、あかねは周囲をぐるっと見回すと、最後に自分の腕の中で視線を止めた。


「どうしても…あんたが男に戻れなくなったら……。」


(当然、許嫁解消…だよな?)


「もしそうなったら……その時は……。」

「その時は……?」


裾がシワになるのも気にせず、あかねは乱馬の正面に膝を付くと、抱いていたベールを、おもむろに乱馬の頭上高くで広げた。


「あかね…?」


空気を含みながら、ゆっくりとベールがまた乱馬の上と舞い降りる。



「あたしが、男溺泉で溺れてあげるわよ。」
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