2013-6-10 15:52
過去の拍手お礼文です。
読んでない方は、よろしければどうぞ(*^^*)
私の理想のあかねちゃんなんですが、
「らんあ」ですので、苦手な方はご注意くださいm(__)m
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ガラッと開けた戸の向こうは、予想してた以上の眩しさで、おれは思わず手をかざした。
「こりゃ、ロードワークは無理だな。道場で朝稽古でもすっかな。」
昨夜から降り続いた雪は、見慣れた町をすっかり白銀の世界に変えていた。
寒っと震えて、急いで道場へと向かう。
地面は、足の踏み場に困るほど一面の雪に覆われている。
だか、その中に点々と続くおれより小さな足跡。
あかねだな。
あいつもロードワークは諦めたらしい。
あかねの足跡の上をひょいひょいと飛んで、おれは道場の戸に手をかけた。
その時――
ボスッ
おれの顔にヒットした雪の塊………。
「あははっ、隙あり!」
……あかねのやろー!
「冷てーじゃねーか!なにすんだよ!」
ボスッボスッ
「やったー!また当たりっ!乱馬あんた鈍ってんじゃないのー!」
……調子に乗りやがって、あんにゃろー!
おれは顔に付いた雪をブルッと振るって落とすと、あかねへ向かって飛び出した。
「くぉら、待てっ!あかね!」
「きゃーっ!」
おれの足に勝てるわけがねーのはあかねもわかっているから、踵を返して必死で駆け出して行く。
道場の角を曲がり、裏庭へ逃げる。
だが、あっという間に追い付いたおれの手が、あかねの肩を掴む寸前―――
「きゃあっ…!」
雪に足を取られてあかねがバランスを崩した。
「あぶねー!」
おれは瞬時にあかねを抱き込むと、自分の身体が下になるように雪の中へと突っ込んだ。
ドサッ
痛みは無いけど、とにかく冷てぇ。
多分、あかねも怪我は無いはずだ。
「…たくっ、調子に乗り過ぎ。」
「ごめんなさい…。」
ん?やけに素直じゃねーか?
腕の中のあかねは、頬を赤らめておれの胸に顔を埋めてい…………ってこれ……この態勢…ちょっと……!?
一瞬にして固まったおれに気付いて、はっとしたようにあかねが身体を少し起こした。
至近距離で目が合って、ドキドキしてんのにあかねの背中に回した腕を離すのが……なんだか惜しくなった。
もうちょっとくらい…こーしてたいかも………。
「乱馬……?」
殴るかなとは少しは頭をよぎったけど、そんなことよりおれを見つめてくるあかねが可愛くて、引き寄せられるように腕に力を込めていた。
「あかね…。」
おれの意図を計りかねてさ迷っていたあかねの瞳が、またおれの上で止まって大きく見開かれる。
何度目かの瞬きの後、あかねはゆっくりと瞳を閉じて、身体から力を抜いた。
あかねの短い髪が頬に当たる。
くすぐってーけど、そんなのも…もうどーでもよくて………。
微かに唇に感じた温もりに、おれも目を閉じて…………。
っ!?
ぐいんっ
へ?
なんだ?
急に消えた温もりと、全身にまとわりつく冷たさとで、おれは自分の身に起こったことを理解した。
はぁー……いいとこだったのに………。
何が起こったのかわからなくて、キョトンとするあかねの視線が、ゆっくりとおれの顔から下へ移動する。
「……ぷっ、あははっ。」
「笑うなよ…。」
「だぁってーっ、あははーっ!邪魔されちゃったね!」
……全くだよっ!
「普段の行いが悪いからよー。自業自得ね。散々人の胸をバカにするから。」
「う"……。」
おれとあかねの邪魔したのは、何を隠そうおれ自身。
おれの体温で溶けた雪が服に染み込んで、女に変わっちまってできた胸が、あかねの身体を押し上げたって訳だ。
本当におしい………いや、一瞬触れたけどさ…。
せめて、あと一秒っ………はあー……。
「乱馬…?へこんでるの?」
うるへー……。
おれはあかねごと上半身を少し起こした。
あかねは人の顔を可笑しそうに見ながらも、まだおれの上に乗ったままでいる。
「濡れんだろ?笑ってねーで、早くどけよなー。」
「重いの?」
「重かねーけど、おめーまで濡れるって言ってんの!」
実際、おれの服はほぼびしょびしょで、今にもあかねの服にまで染み込みそうなぐらいだ。
う"〜つめてぇっ。
こりゃ、朝から風呂だな………。
だけど、いつまで経っても、あかねは退こうとしない。
それどころか笑うのを止めて、今度はまじまじとおれの顔を見つめてきやがった。
な、なんなんだよ!?
おれの顔に何かついてんのか!?
「風邪ひくだろ!ほらっ、さっさと――」
「―――関係ないよ。気にしてないから、あたし。」
「なっ!?おめーが風邪ひいたら、おれが気にするんだよ!」
「あたしには関係ないから、乱馬は気にしないでね。」
はあー!?なんだよっ、それ!?
「だから、離れろって!」
無理矢理離そうとするおれの手を押さえて、あかねはおれを見つめたままグイッと身体を寄せてきた。
おれとあかねの胸がまた密着する。
ちょっ……近いんだって!
顔を赤らめて焦るおれとは対照的に、あかねは落ち着き払った様子で、軽く首を傾げた。
そして、ふわっと何とも優しげに笑った。
「―――乱馬は乱馬だよ。」
あかね?
その微笑みがあんまりにも綺麗で、おれは不覚にも見惚れてしまってたんだ。
その間に、あかねはまたゆっくりと顔を近づけて来て…………。
恥ずかしいとか今は女だとか、そんなこともう頭から消え失せてた。
あかねが瞳を閉じる少し前に、おれは可愛くないはずの許嫁の身体を、強引に引き寄せていた。
『乱馬は乱馬だよ。』
その言葉の意味を理解したのは、あかねがくれた温もりが、おれの全身に広がった頃だった。