2012-10-1 14:54
二次創作です。ご注意下さい。
未来のお話です。
苦手な方は閲覧をお控え下さいm(__)m
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〜潔白の証明〜
「ただいまー。」
少し目立つようになったお腹を支えながら、あかねは玄関に腰を下ろしてサンダルのボタンに手をかけた。
「お帰りなさい、あかねちゃん。暑かったでしょう?」
奥から出てきたのどかが、あかねの横に膝をつきながら、すっと人差し指を口許に当てた。
「お義母さん、ただいま帰りました。…あっ、寝かし付けてるとこなの?」
のどかの仕草の意図に気付いて、あかねはすぐに声を潜めた。
「ちょうど今、うとうとしてきたとこなの。さっきまでグズッて大変だったのよ。まだまだ機嫌が悪い時は、お母さんじゃないとダメみたいね。」
「じゃあ、急いで交替しなきゃっ。」
慌てて立ち上がったあかねに、のどかは笑顔で首を振る。
「大丈夫よ。たまには乱馬に任せなさいな。お昼御飯出来てるから、荷物置いてきてね。」
昨年長女かすみが嫁いでからは、天道家の家事はのどかが担っている。
三人姉妹の末娘ではあるが、一番先に人妻となったあかねは、当初出来る限りの家事をこなすつもりでいたが、のどかに『暫くは、育児に専念してね。」と言い渡された。
なので、現在は目下その言葉に甘える日々である。
「皆は食べたの?」
「これからなのよ。一緒にゆっくり食べましょうね。」
「じゃあ、すぐに降りてきます。」
少し早足で自室へ向かうあかねを見ながら、
(本当に可愛いお嫁さんで、乱馬は幸せ者ね。)
とのどかは微笑んだ。
自分の唯一の娘となり、孫の顔まで見せてくれた彼女がいとおしくて仕方なかった。
二階への階段を昇る途中、あかねはそおっと居間を覗き込んだ。
居間では、夫が小さな布団に我が子を寝かせようと屈んだところだった。
拳法の達人である彼は、すぐ気配に気付き顔をあかねに向けた。
「おかえり。」
声には出さず唇だけ動かすと、乱馬は少しホッとしたように目を細めた。
「ただいま。」
あかねも同じように唇だけ動かす。
子供の顔を見たい衝動に駆られたがそれを抑えて、あかねは足音を立てないようにそおっと階段を登って行った。
ドアを開けると、中から微かな花の香が彼女を包む。
窓際に目を向けたあかねは、そこに出掛ける前はなかった小さな花瓶を見つけた。
(そういえば、今朝…。)
家を出る間際、庭で咲かせた花をのどかが摘んで、乱馬に手渡していたのを思い出した。
花を飾るなどとは全く無縁な夫が、どんな風にこれを活けたのだろう。
無造作に挿されたそれが、彼の性格を現しているようであかねはクスッと笑った。
途端、ガチャッとドアが開いて、
「あかね、どっちだった?」
と、その当の本人が顔を覗かせた。
あかねは笑ったことを誤魔化すように、然り気無くサイドボードに鞄を置いて、ベッドに腰を下ろす。
花を見て笑ったことが乱馬に知れたら、少年っぽさが抜けない彼は照れて拗ねるだろうから。
「もう絶対やんねーからなっ。」
なんて、台詞を聞くのは少し勿体ないから。
あかねのそんな様子に気付かず、乱馬は彼女の足下の床に胡座をかいて嬉しいそうに顔を覗き込んだ。
「判ったんだろ?どっちだよっ。」
「…えへへ、内緒。」
「なっ…なんでっ!?教えろよ!」
思わず立ち上がった拍子に、たまたま床に転がっていた子供のガラガラを踏んで、乱馬はバランスを崩す。
「うわぁっっっ…とっ!」
「きゃあっ…。」
危うくあかねの上に倒れそうになったのを、寸でのところで両腕を着いて持ち堪えた。
「わっわりぃ…大丈夫か?」
「…うん。」
至近距離で驚いたように頷くあかねと目が合う。
見ればベッドに彼女を組敷いて、覆い被さっていた。
「ごっ、ごめんっ…!」
かぁっと顔を真っ赤にさせると、乱馬は慌ててベッドの端の壁まで飛び退いた。
(…ん?何、その反応?)
許嫁だったあの頃ならいざ知らず、今更照れる程のことではないはずだ。
もしくは、あかねが怒るとでも思って逃げたのか?
あかねは訝しげに、眉を寄せて乱馬を見る。
(そう言えば、この頃…妊娠してからかな?乱馬変かも…?)
思い起こしてみると、最近の乱馬の行動には違和感を感じることが多々あった。
必要でない限り、あかねに触れて来なくなったのだ。
それどころかつい二日前には、呼び止めようと腕を掴んだあかねの手を、「わっ」と叫んでに振りほどいた。
(何か、おかしい…。…まさかっ…!)
あかねの脳裏に、数日前にチラッと見たワイドショーの浮気特集の映像が、稲妻のように浮かぶ。
『夫の態度が妙によそよそしい、急に優しくなりプレゼントを買ってくるなどがあれば要注意!』
あかねははっとして、先程の花に視線を走らせる。
(あの花ってそういう事っ!?…最近育児にも協力的だと思ったら、浮気を誤魔化す為だったって訳…!?)
握り締めた拳がワナワナと震える。
あかねの背後には怒りの妖気が渦巻いていた。
「おっ…おい、あかねっ!どうしたんだよっ…。」
「…相手は、誰…?」
「相手って?な、何の話だよ!?」
あかねは、カッとなって乱馬の襟元を掴み上げた。
「しらばっくれるつもりっ!?わかってるんだからっ…シャンプーっ?それとも右京なのっ!?」
「おめぇっ…なに言って…?…まさか…。俺が浮気してるとでも思ってんのかっ!?」
「惚けても無駄よっっ!!」
「ちょっと…待てってっ!なんでそーなるんだよっ!」
「問答無用っ!!」
あかねは側にあった竹刀を振り上げる。
「だぁ〜っ、落ち着けってっ!!」
降り下ろされた竹刀をギリギリでかわすと、乱馬はあかねの手首を掴む。
「俺が信じられねぇのかっ!?」
「信じるも何も、あんた最近あたしのこと避けてるじゃないっ!!」
「…そっそれは…。」
思わず口ごもった乱馬を見て、あかねは竹刀を持つ手に力を込めた。
「待てっ…だっだから、妊婦のおめぇに無理させちゃダメだから…我慢して近寄らないようにだな…。」
乱馬は顔を赤らめて俯き、上目遣いであかねの様子を伺いながら、ポツポツと話した。
「それで…?」
「それでって、なんだよ…?」
「…それで…我慢出来なくなって、他の女に手を出したんだ…。」
あかねの手の中で、竹刀がバキッと音を立てて折れる。
「…こぉの、女ったらしがぁっ!天誅ぅっ!」
「ぉわっ!あかねっ、やめろって!…たくっ仕方ねぇなっ…。」
あかねの竹刀を避けながら、乱馬はサイドボードに近づくとその上の花瓶をひょいっと掴むと、それを自分の頭上で逆さに向けた。
パシャッ
乱馬が水を被ると、同時に花瓶中の花が床に散らばる。
「…あっ…。」
あかねは呆然として床に座り込むと、そっと花を拾い上げた。
「これでいいだろ?」
あかねが見上げると、水を滴らせ見慣れた少女が真剣な目で彼女を見ていた。
「…はぁ?あんた何言ってんの?」
「だぁから、子供が産まれるまで女で過ごしてやるよ!」
「…何よ、それ?」
「わっかんねー女だなっ!お前が俺を信じねぇから、女でいてやるって言ってんだよ!?」
「…あんた、本気でそれが、浮気しない証明になるとでも思ってんの?」
「あったりめーだろっ!」
あかねは首を振りながら、「はぁーっ」とため息をついた。
(そんなの相手の所で男に戻ればいいだけじゃない…本当にバカなんだから……だけど…。)
手の中の花が目に留まる。
それを見てると、さっきまでの怒りがスッと消えていくような気がした。
(よく考えたら、別に証拠があるわけでもないのよね。第一、乱馬に浮気するような度胸なんて…。)
「このお花、乱馬が飾ってくれたんでしょ?」
「へっ?…花?あ、あぁ…そうだけど。」
「…また、お願いしてもいい?」
あかねの態度に拍子抜けして、口を開けたままらんまはこくんっと頷いた。
その様子にあかねはクスッと笑った。
「女の子よ、次は。」
「…へっ?女って?」
「もうっ、お腹の赤ちゃんのことよ!」
「本当なのかっ!?」
「嘘言ってどうすんのよっ。」
らんまは嬉しいそうに目をキラキラさせて、あかねを抱き上げた。
「あかねっ…おめぇっスゲェよっ!!」
「きゃぁっ!ちょっと、降ろしてよっ!」
「おぉっ、わりぃわりぃ。」
言って、らんまは優しくあかねをベッドへ降ろす。
その目はまだキラキラ輝いている。
「そっかぁー女かー…。」
「あんた、女の子欲しかったのよね?」
「おぅっ。だって、女は父親に似るんだろ?」
「確かに…そういうけど…。」
(…ってことは…この子が大きくなったらこんな感じ…?)
あかねは手を口許に当てて、らんまをマジマジと見つめた。
その視線に気付いたのか、らんまはあかねに目線を合わせると真剣な眼差しで呟く。
「顔はどっちに似てもいいよな?」
「えっ?」
(…そ、それってどういう意味…?)
ドキッとして、あかねは思わず顔を赤らめた。
「まぁでも、体は絶対俺じゃないとなっ!お前に似たんじゃ、寸胴間違いないもんなーっあははっ…は……」
「…寸胴で悪かったわねっ…!こぉのっ変態オカマ亭主がーーーっ!!」
この直後、天道家の遥か上空で何かがピカッと光ったのは言うまでもない。