2012-12-23 17:06
二次創作小説です。何それ?という方は閲覧をお止め下さいませm(__)m
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〜台所での異変〜
「珍しくあの二人、上手くいっとるようじゃな?」
邪魔者が減ったとばかりに上機嫌なムースとは対称的に、その横で良牙は拳を握り締めて怒りのオーラを放っていた。
「乱馬のヤローっ…化け物だか幽霊だか知らねーが、今すぐぶん殴って連れて帰ってやる!行くぞっ、ムースっ!」
勢いよく走り出そうとした良牙の足を狙って、ムースは暗器を投げつける。
「まぁ、待つだ、良牙。」
案の定、顔面から床へビタッと突っ込んだ良牙に向かって、ムースは冷静に声を掛けた。
「き、貴様ぁー!どーいうつもりだっ!」
怒りに震えながら立ち上がると、良牙はムースの胸ぐらをつかんでにらみ付けた。
「おぬし、肝心な当初の目的を忘れとらんか?オラ達は乱馬を連れて帰る為に、わざわざ天道あかねと右京に付いて来たのではないだ。」
「……あぁ、確かにそーだったな。」
ムースの言う『当初の目的』を思い出し、良牙は渋々ムースから手を離した。
二人の目的それは――あかね達よりも先に乱馬を見つけ出し、彼女らに気付かれないうちに葬り去ること。
その為、に護衛だなどとあかねと右京を言いくるめてくっついて来たのだ。
まぁ良牙の場合は、それも強ち嘘ではないのだが。
「忘れてもらっては困るだ。」
「すまない。乱馬の様子に、ついカッとなって…。」
「まぁ、あのまま乱馬とあかねがくっついてもオラは構わねぇだが。」
「じょっ、冗談じゃないっ!」
「ならば、協力せんかっ!」
「お、おぅ……で、何か策でもあるのか?」
ムースは眼鏡をかけ直して、大袈裟に辺りをぐるっと見回した。
「まだ、この館を良く調べておらんから何とも言えないだが……確実に一つだけわかることは……乱馬を正気に戻してはならねぇだ。」
分厚いレンズの奥でムースがニヤッと笑った。
その頃、台所では――
クッキーが焼ける香ばしい匂いが漂う中、チーンと終了を知らせるオーブンの音が鳴った。
「出来たっ!乱ちゃん、味見してみて。」
右京に差し出されたクッキーの中から、乱馬は一つ摘まむと、ひょいっと口に放り込んだ。
「んっ、んまい!良く出来てるよ。」
「おおきに。」
「乱馬、私のも食べてみてっ。」
「おうっ…………っ!?」
勢いよく差し出されたモノが何か理解できず、乱馬は「うーん?」と首をひねった。
可愛らしい笑顔を浮かべながら、あかねが手にしている皿の上には、おおよそクッキーとは言い難い真っ黒な物体が並んでいた。
「何、これ?」
「何って、クッキーよ。」
「…焦がした?」
「まさか、右京のと一緒に焼いたのよ。」
「黒いけど……。」
「あぁ、黒いのはねーチョコ味にしてみたのっ。」
「………。」
乱馬は恐る恐るそのクッキーらしいものをつまみ上げ、じぃーとしばらく凝視していた。
「チョコ……なんて、おれ用意してたっけ?」
「やーねーっ。あったわよー。」
「あかねちゃん……チョコってこれか?」
右京は、手にした黒い液体の入った一生瓶のラベル部分を、あかねの前へかざして見せた。
「ん?ソース…?」
「おいっ、どーすりゃあれがチョコレートに見えるんだよ!」
「なによーちょっと間違えただけでしょー!」
「ちょっとじゃねーだろっ!」
「相変わらずやなぁ、あかねちゃん。」
「相変わらずって…おめーいつもこんなことしてんのかっ!?」
「あんた、なに言ってんの……?」
乱馬の言葉にあかねは首をかしげ、右京は眉間にシワを寄せた。
「手は早いし、料理は出来ねーしじゃ、おめー嫁の貰い手がないんじゃねーか?」
「な、なんですってーーっ!!」
側にあったポットを振り上げたあかねを「まぁまぁ」となだめながら、右京は探るような目を乱馬に向けた。
「乱ちゃん、うちが言うのもなんやけど……、あかねちゃんなぁ、許嫁おるで。」
「えっ、まじで!?物好きな奴がいんだなぁ。」
「乱ちゃんやで。」
右京はピシッと乱馬を指差す。
「へ……おれぇ?」
「そや。ちなみにうちも許嫁やで。………なんか、色々忘れとるみたいやなぁ……。」
最後の一文は、小声であかねに囁いた。
乱馬は「うーん」と首をひねったまま、納得がいかないといった表情で、あかねと右京を交互に見比べている。
「あのよー……。」
「な、なによ…?」
「おめーらってさぁ……男なのか?」
「は、はぁ?」
「だって、女ばっかじゃ結婚出来ねーだろ?」
「あ、あんたは男でしょーがっ!?こぉんの、変態がぁーっ!!」
あかねの怒号と共に、乱馬の頭上にポットのお湯が降り注がれた。
「どあっちーーぃっ!!」
もうもうと湯気が立ち上ぼり、辺りを白く染める。
「どう?自分が男だって思い出し………な、なんで?嘘でしょ…?」
「ら、乱ちゃん……どないなってんのや?」
湯気の中から現れたのは、二人の予想した男の姿ではなく、先程と変わらない女のままの乱馬だった。
「なんで、男に戻らないのよ…!?」
あかねはポットの蓋を外すと、中に残った湯を全て乱馬にかける。
「ぶわっ…!…熱いって言ってんだろっ!!」
「お湯をかけても男に戻らないなんて…。」
あかねは呆然と空のポットを抱きしめた。
「あったりめーだろうっ!?お湯なんかで
男になってたまるかよっ!?」
「じゃ、じゃあ、他にどうやれば戻るのよっ!?」
「んなこと知るかっ!元々おれは女なんでぃっ!」
「……は?あんた、それ本気で言ってんの?」
「本気に決まってんだろ。第一、母親のおれをつかまえて許嫁だとか、おめーらの方がどーかしてんじゃねーか?」
「い…今、なんて……?」
あかねは信じられないものを見るかのように、目を見開く。
「だから、母親のおれをつかまえて……って、おいっ、聞いてんのか!?」
「は、母親……。」
乱馬に背を向けて、あかねはテーブルに突っ伏すように、額に手を当てて考え込んだ。
「……なら、私達はあんたの娘ってわけ?」
乱馬は「そうだ」と大きく頷く。
やっぱりと言いたげな表情で、あかねは「はぁー」と深い溜め息をついたのだった。