「あ〜九能のやっろーっ、ベタベタしやがってっ!」
持って行ったケーキは無理矢理に全部九能に押し付けて、おれは全速力で屋根をつたい、店へと急いでいた。
何かにつけて九能がおれを引き留めようとするもんだから、かなり時間のロスをしちまって、辺りはすっかり暗くなってた。
九能を追い掛けた時は、まだ夕方だったってのに……。
夜になれば、商店街の客足は減る一方に違いない。
早く終わらせねーとな。
屋根から隣の店先へと降り立つと、売り場にはなぜか女性客が群がっていた。
後ろのケーキの山もかなり小さくなってて、先が見えて来たみてーだ。
おれがいねー間にあかねのやつ、結構頑張ったみてーじゃねーか。
けど、やけに女ばっかだな…?
客が多くてこっからじゃあ、あかねの姿は見えねぇ。
おれは客の頭上を前宙しながら飛び越えると、売り場の中へスタッと着地した。
ん?
あかねがいねー?
キラキラ野郎が接客してる……どーなってんだ?
「おいっ、あかねはどうし……っ!?」
キラキラ野郎に声をかけた途端、客の女どもが一斉におれをみた……とゆーより、睨まれてんのは……なんでだよっ!?
「あぁ、らんまさん。お帰りなさい。」
キラキラ野郎が、これでもかというぐらいキラキラを増幅させて振り向く。
それに合わせて、女達の視線がますます強くなって……こ、こえーってっ!
「あかねさんなら店の中に居ますよ。らんまさんも、ちょっと中で休憩して下さい。寒いでしょっ?ほらっ、早く早くっ!」
言いながら、キラキラ野郎はおれの背中をグイグイ押してくる。
顔は笑顔なんだが……こいつ、客が女ばっかだからって、おれを厄介払いしようとしてやがんなっ!
ケーキはまだ残ってんだぞっ!
冗談じゃねぇーっ!!
おれは、勢いよく背中を反らしてキラキラ野郎に頭突きをくらわすと、星を飛ばしながらよろけたそいつの胸ぐらをガシッと掴んだ。
「くぉらっ、ケーキ売り切るんじゃなかったのかよっ!?」
「あぁ、これだけ売れたら、もう充分ですよ。」
な、なんつった…こいつっ!?
しれっとした表情でヤツは、尚も続けた。
「残った分は商店街の他のお店に配るつもりでしたし。いやぁー衣装着て欲しかっただけなのに、こんなに売って貰って大助かりでした♪」
ぬぁんだとぉぉぉーーっ!
「……じゃあ、なにか?このバカみたいな衣装着せるためだけに、おれが必要だったってのかぁ……!?」
「バカみたいだなんて、ひどいなー。貴女しか着れないのにー。」
「……ケーキは売り切らなくても、良かったのかっ!?」
「えっ?僕、売り切って欲しいとは言ってませんよ?」
ほおぉ…そうか、そーゆーことか……。
「……ちょっ、ちょっと、らんまさん?うわぁー!ま、待って!落ち着いてっ!!」
ドカッ!バキッ!
ふんっ!
やってられっかっ!
「帰るぞっ、あかね!」
……………………あれ?
「あかねー?」
あっ、店ん中だっけ?
思い出して、店のドアの取っ手に手をかけた時だった。
ぞわっ
瞬間、背筋に悪寒が走る。
おれはビクッとして、取っ手へ伸ばした手を引っ込めていた。
な、なんだっ………この…いやーな感じは?
「あいたたたたた……。」
背後でキラキラ野郎が、よろよろと起き上がる。
そーいや、あの………。
おれはドアを見つめたまんまで、背後のキラキラ野郎に向かって口を開いた。
「――なぁ…オーブンの呪いは解けたのか?」
「えっ?あぁ、オーブンならさっき母が来て、最後のケーキを入れるからって、あかねさんを誘ってましたよ。きっと、もう呪いは解けてる頃……あっ!らんまさんっ!」
――最後の方は聞いちゃいなかった。
取っ手を握るのももどかしく、体当たりみたいにして飛び込んだ店内。
すぐに見つけた、扉が開かれたままの工房への入口から聞こえてくる、あかね達の楽しそうな話し声とケーキの焼ける芳ばしい香り………!?
「あかねっ!!」
「え?らんま、どうしたのっ!?」
一歩踏み入れた途端に感じる異様な気配………くっそっー間に合うか!?
急いで中央の調理台の上に置かれていた、氷水の入ったでっかいボールを抱えた。
電源落としてる時間はねぇっ。
「ちょっと、らんまっ!なにする気っ!?」
「離れてろっ!早くっ!!」
おれはオーブンへと近づくと、その蓋に手を掛けたっ―――!
ぼぼんっ!!!
飛び散るケーキ、散乱した器具、舞い上がる白粉と煙―――
はぁー遅かったか……。
「あの……らん…ま、大丈夫?」
「あかね…怪我は、ねーか?」
白い粉にまみれてあかねが頷く。
ラクガキとおばさんは、何が起こったのか解らず呆けたままだ。
ま、全員無事で良かったよ……。
「何があったんですかっ!?な、なっ、らんまさんっ…?……え"ぇーーっ!!!!」
キラキラ野郎が慌てて飛び込んで来たけど、アイツが驚いてるのは、おそらく室内の状況のせいじゃない。
オーブンが弾けた時、おれが持ってた氷水が熱風で一気にお湯になった。
んで、まあ…………かぶっちまったんだよ。
「お、男ぉーーーっ!?」
キラキラ野郎がこの世の終わりみてーに叫んで、その場に崩れ落ちた。
悪かったな、男でっ。
ずぶ濡れで煤とケーキだらけのおれと目が合うと、捨てられた犬っころみてーな目で「変態…。」と呟きやがった。
てめーが着せたんだろっ!
店の片付けやなんかですっかり深夜近くなっちまって、おれとあかねは両手にもらったケーキをいくつも抱えて、天道家への道を急いでいた。
「ねぇ、乱馬。あのオーブンなんで壊れちゃったのかな?」
そりゃ、おめーのケーキのせいだ!
………とはさすがに言えねーな……。
おれの憶測に過ぎないが、おそらくあのオーブンは、「伝説の」なんていうぐらいだから、今まで旨いケーキしか焼いてこなかったはずだ。
それをいきなり、あかねのケーキを焼かされたんじゃ、耐えきれなかったに違いねぇ。
自分自身に呪いなんてかけちまうような道具だから、プライドが高いに決まってる。
「使いすぎだろ?古そうだったしな。」
「そーかな?あたしのケーキ焼いたせいだったりして……。」
「…………。」
「やっぱり、そうなのっ!?どーしよーっ、あたし………。」
あかねは泣きそうなって、ケーキの箱を抱きしめうつむいた。
あーもぅっ、仕方ねーな。
「原因なんて誰にもわかんねーよ。それに、厄介な呪いのオーブンなんて壊れて助かったって、ラクガ……おじさんもおばさんも喜んでただろ?」
おれはあかねの頭をに、ぽんっと手を乗せた。
「あんまり深く考えんなよ。」
「……うん。」
「それより、あれだけケーキ売ったのに、おれ達まだ一口も食ってねーだろ?早く帰って食おーぜ。」
うつむいたままの顔を覗きこむと、あかねは涙を拭って微笑んだ。
おしっ、帰ろう!
「おじさん達ケーキ待ってるだろうから、急ぐぞ!」
駆け出そうとしたおれの服を、あかねがつかむ。
「待ってっ、乱馬。」
まだ、何かあるのか?
「お父さん達は昼間いっぱい食べてたから、もういらないと思うの。だから……。」
確かに食ってたけど。だから?
「一緒に食べない?」
あ?
「たくさんあるし、一つくらい減っても………ね?ダメかな?」
なっ!?
それって…つまりは………二人で?
「そ、それもそーだな。じゃ、じゃあ、そうっすっか。」
おれは、ドキドキしてんのを気付かれないように、用も無いのに空を見上げた。
いつの間にか雪は止んで、澄んだ空に星が瞬いている。
「ちょっと持ってて。落とすなよ。」
あかねのケーキの上に、おれが持ってた分をトンッと積み上げた。
「えっ!?ちょ、ちょっとっ、何でっ!?………きゃあっ!」
アスファルトを蹴った瞬間、腕の中であかねが身体を強張らせながらも、ギュッとケーキを抱き締める。
冴え渡る空気を切るように、おれ達は静かな町の上を飛んだ。
並んで腰を下ろしたのは、天道家の屋根の上。
右隣に座ったあかねが、少し身震いしたのが気になって、聞いた。
「やっぱ、寒いか?」
あかねは、なぜか困ったような顔でおれの方をチラッと見ただけで黙ってしまった。
なっ?
何なんだ?
シビレを切らして、おれが口を開こうとした瞬間、
「いい。」
と、一言。
いいってどーゆー意味だ?
おれは寒いのか寒くないのかを聞いてんだよっ!?
困惑するおれの右腕に、ふいに感じた重み。
へ?
あかね?
「こうしてれば、寒くないもん。」
正面を向いたまま、ぎしっと固まった身体で何とか動かした視線の先では、おれの腕にもたれたあかねが不安そうに見上げていた。
「いや?」
ぶんぶんっと首を振るのが精一杯。
はあー……情けねー。
せめて、肩でも抱いて……。
ギッギッと音が鳴りそうな程、ぎこちなくつかんだ細い肩を引き寄せた。
あかねは、そんなおれの手をチラッと見てクスッと笑うと、自分の頭をおれの肩へと預けたんだ。
「乱馬……メリークリスマス。」
「おう。」
その後食べたケーキの味なんて、これっぽっちも覚えてねー。
コメントありがとうございます(*≧∀≦*)
一応クリスマスのお話しなんで、頑張って乱あで落としてみたんですが、萌えを感じて貰えたなら嬉しいです♪
お疲れ様と言って貰ってキュンッとなっちゃいましたよ( 〃▽〃)ラスト、また文字数足らなくなりそうで焦ったので ……(つд;*)
乱馬の衣装ですか?私はイラストかけないので(笑)ふふふ……ご想像にお任せします(^ー゜)ノ
ではまた、私からもお邪魔しに行きまーす(*^^*)
今年も宜しくお願いします〜♪
新年第一作目の「cake・・・」完結お疲れ様です(*^^*)
読みながら、ついついらんまのコスチュームはどんな感じなのか想像しちゃいました( ̄∇ ̄*)ゞ
らんまちゃんだけの登場だけで終わってしまうかな〜と思っていたら、乱馬くん&あかねちゃんの萌えシーン♪(/ω\*)
読みながら幸せ気分を頂きました(*ノ▽ノ)
あかねちゃんの仕草というかセリフが可愛い〜(*≧∀≦*)
あれじゃぁ、乱馬くんもギシギシとぎこちない動きになりますよ(笑)
二人にとって素敵なクリスマスになって、良かったですねd(⌒ー⌒)!