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現実

どうか彼を抱きしめる権利をください



「ひろ………っ」




血が滲む野球ボールを握りしめて泣く
アイツのあんな顔を初めて見た
いつもスカした嫌なやつだと思っていたのに





「なんで、……っ」





アイツの涙は太陽に溶けて夕日に混ざる
零れ落ちる雫は地の恵になって
いつか悲しい色をした花を咲かすのだろうか




右耳のピアス
きっと弘樹ってやつからのプレゼント




なんでそんな奴の為に泣くんだよ
お前を置いていっちまうような男
もう忘れちまえよ




そんで俺を見ろ




振り返れ




振り返れ




そんで、その視界を俺に向けろ
その目に映すのは俺だけでいい





ああ、きっと
初めて会った時から好きだったんだ
嫌いだと言いつつ
確実に惹かれていた




あんまりにも泣きそうな顔で笑うから
抱きしめてやりたくなる




愛を求めているような瞳をするから
守ってやりたくなってしまう





「こっち向け、馬鹿」





そんな呟きは届かず
アイツの背中ばかりを眺める俺





なにもできない無能な自分




どうしたらアイツは笑うのだろう




俺には何が出来るのだろう





なあ、どうしたらお前が手に入る?






渇いた唇がゆっくり動く





「好 き だ 。」





きっとアイツには聞こえない
風に消えた独り言




どうか彼を抱きしめる権利をください



(独りで泣くくらいなら)
(誰かを頼ればいい)
(それが俺だったなら)
(それ以上の幸せはない)










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