オレらのケンカのきっかけはいつも些細だ。
「浜田…おい浜田」
「…」
浜田は返事をせずに押し黙ったまま。さっきからずっとこんな調子だ。
原因は、プリン。
浜田がバイト後に食べようとしていたのをオレが食べてしまったのだ。浜田はいかにもボク不機嫌です、みたいな顔をしている。
確かにオレが悪い。けれど。
「楽しみにしてたのになぁ」
ボソリと浜田が呟いた。もう同じ台詞を3回も聞いている。最初は罪悪感なるものを感じていたが、いい加減腹が立ってきた。
「…プリンくらいでそんなうじうじすんなよ」
「食べた本人が言うなっつーの」
「だーかーらぁー、さっきから謝ってんだろ?!」
「…謝ってる態度じゃねーじゃん!」
「…コンビニで買ってくるって言ったじゃん!」
「そういう問題じゃねーし!」
ああ言えばこう言う、そんな状態だからお互い段々声がでかくなる。浜田はオレを睨んでいる。
くだらないってわかってる。けれどなんとなく引き下がれなくて浜田を睨み返す。
しばらくその状態が続いて、ふと浜田が溜め息をついた。
「…オレもう寝るわ」
悪かった、と小さく呟いて浜田はオレに背中を向けてベッドに入ってしまった。残されたオレはその背中を見つめるしかなくて。
泊まる予定だったけれど、どうしよう、帰ったほうがいいのだろうか。今の様子からして浜田は許してくれたんだろうと思うけれど、このままだとオレは謝らないままだ。
「は、浜田」
ベッドサイドに立って呼ぶと浜田がこちらを見上げた。
「悪かった、ごめん」
情けないコトに緊張で手が震える。だけれど浜田はちょっと情けない顔で笑って言った。
「いーよ」
浜田に腕を引っ張られた。バランスがとれなくてそのままベッドに倒れ込むと抱きしめられてキスをされた。オレがキス仕返したら浜田が驚いて言った。
「珍しー」
「…プっプリンの代わり!」
オレがそう言うと、浜田は笑って言った。
「プリンより美味しいや」
オレらのケンカのきっかけはいつも些細だ。だけれどそれと同じくらいに仲直りのきっかけも些細だ。
ケンカして、仲直りして、前よりもっと仲良くなれるのなら、そんなのも悪くはないかなって思ってしまうんだ。
なぁ、浜田?
End