本日は、お日柄もよく  原田マハ



この本は冒頭1ページ目に
スピーチの極意10か条が書いてあります。




1.スピーチの目指すところを明確にすること


2.エピソード、具体例を盛りこんだ原稿を作り、
全文暗記すること


3.力を抜き、心静かに平常心で臨むこと


4.タイムキーパーを立てること


5.トップバッターとして登場するのは極力避けること


6.聴衆が静かになるのを待って始めること


7.しっかりと前を向き、左右を向いて、
会場全体を見渡しながら語りかけること


8.言葉はゆっくり、声は腹から出すこと


9.導入部は静かに、徐々に盛り上げ、
感動的にしめくくること


10.最後まで、決して泣かないこと




小説は、主人公の二ノ宮こと葉の幼なじみの披露宴での、吉原家の社長のスピーチから始まります。

それは、こと葉が思わず舟を漕ぎスープ皿に顔を突っ込んでしまうくらい退屈なものでした。




そして、もう一つのスピーチにも出会います。
それは会場の全員を惹き付け、あたたかな気持ちにさせ感動の涙を流させるものでした。


そのスピーチをした人こそ、やがて主人公の人生をも変えていく言葉のプロフェッショナル、
スピーチライターの久遠久美でした。



こと葉は、友人の披露宴でスピーチをすることになり、原稿を書いてもらおうと久遠久美を訪ねます。


そして、その友人の披露宴の当日、またまたあの吉原家の社長と遭遇します。

しかし、社長のスピーチは前回の退屈なスピーチとは打って変わって素晴らしいものになっていました。

余裕すら感じさせる落ち着き、エピソードに込められたユーモア、スピーチの長さもさることながら、何よりも話の中に登場する人物、つまりは新郎新婦が魅力的に輝いているのです。


なぜ…?


そこにはやはりスピーチライターの存在がありました。





私はこの本を読むまでスピーチライターという仕事を知らなかったのですが、単純にスピーチの原稿を作る専門家ではないのです。

相手の心に寄り添い、相手が思っていることや訴えたいことを引き出し、言葉の持つ限りない可能性を信じ、人の心をゆさぶる言葉を紡ぎあげていく。スピーチライターとは、そんな仕事です。


この本には披露宴の祝辞、弔辞、企業の社長の挨拶、選挙演説、さらには総理大臣と野党党首の党首討論など、心があたかかくなったり、思わず膝を打って納得したり、涙を誘われたり、心を打たれるスピーチがたくさん出てきます。


その中に印象深い指摘があります。

アメリカの大統領選挙の時の、オバマ前大統領とヒラリー候補の演説について。

当初圧倒的に不利だったオバマが、ヒラリーに勝つことができたのは、
とにもかくにも演説の力です。



オバマの「Yes, We can」はあまりにも有名ですが、その時彼が言い続けたのは
「we=私たち」でした。


一方、
ヒラリーは「I=私」と言い続けたそうです。



聴衆は「we」の中に自分も含まれていると確かに感じ取った…というくだりがあります。

そして、もう一つのキーワード
「c・h・a・n・g・e=チェンジ=変わる」。


この「change」の「g」を「c」に変えると、
そう「chance=チャンス」になるのです。


人間は自分を、そして国をよりよく変えたいという願望があると思います。

前オバマ大統領は「we」と「change」を
見事に自分の「chance」とし、
国民の気持ちを鼓舞し、歴史的な結果を残したと言えるのではないでしょうか。


物語の後半は、怒涛の展開が待っています。


政治家や政治の裏側、そこで影武者のように動き火花を散らす大手広告代理店社員とスピーチライター。私は読み終わったあとに、潜在的に人間が持っている豊かな感性を改めて感じ、それを言葉にできた時、その言葉が持つ力に感嘆しました。



読み終わったあとに、きっと冒頭1ページ目のスピーチの極意10か条を見直し、二度読みしたくなると思います。この本を読めばスピーチマスター間違いなしです。

私は人前に出るのがとても苦手なので
生涯スピーチすることはありませんが、
言葉の大切さを勉強できました。


感謝の一冊です。