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書き物:其の8


影が二つ、てくてくと歩いていた。無言で、静かな空気と共に。バンドで一緒に居るときとはまた違う感じだが、この雰囲気も、渚は嫌いではなかった。

「…」

西園寺は、ただ前を見て歩くだけ。話し出す雰囲気など微塵もない。そんなやつなのだ、こいつは。必要最低限しか話さない、不器用なやつ。渚はそう改めて思い、少しだけ微笑んだ。

―ちょっとだけ、変なやつ。

その第一印象は、今でも変わらない。

「西園寺は、今日のこと、どう?」

渚は不意に問いかけるが、西園寺の表情はあまり変わらない。若干、ほんの少しだけ、不思議そうな顔をするだけだ。

「今日のこと…とは?」

「順番のこと。杉原はめちゃくちゃ燃えてるし、浅倉は落ち着かせてるし。んじゃぁ、西園寺はどうなのかなって思ってさ」

「気にしてない、ことはないな」

さっきと変わりなく、ポケットに手を入れたまま、そう答える。

「それにしては、いつも通りだよね」

「俺は、仮にもあのバンドのドラマーだからな。俺がいつも通りじゃなかったら、皆を生かせなくなる」

体勢を変えないまま歩きつつ、そう言い終わるとふいにタバコを取り出した。
渚はふと微笑み、ただ一言、

「私たち、まだ未成年。それに歩きタバコは絶対だーめっ」






ライブハウスに着き、控室に入ると、二人は生気を失ったようにだらけきっていた。が、浅倉は渚、西園寺を見るなり、慌てて近寄ってきて、何かを言いたそうにあたふたとした。

「落ち着きなよ」

渚が冷静なツッコミを入れると、一度深い深呼吸をして、立ち直り、こうとだけ言った。

「絶対最後のバンドは見ろ」



8.手打ち料と色んな真実の序章‐4
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