影が二つ、てくてくと歩いていた。無言で、静かな空気と共に。バンドで一緒に居るときとはまた違う感じだが、この雰囲気も、渚は嫌いではなかった。
「…」
西園寺は、ただ前を見て歩くだけ。話し出す雰囲気など微塵もない。そんなやつなのだ、こいつは。必要最低限しか話さない、不器用なやつ。渚はそう改めて思い、少しだけ微笑んだ。
―ちょっとだけ、変なやつ。
その第一印象は、今でも変わらない。
「西園寺は、今日のこと、どう?」
渚は不意に問いかけるが、西園寺の表情はあまり変わらない。若干、ほんの少しだけ、不思議そうな顔をするだけだ。
「今日のこと…とは?」
「順番のこと。杉原はめちゃくちゃ燃えてるし、浅倉は落ち着かせてるし。んじゃぁ、西園寺はどうなのかなって思ってさ」
「気にしてない、ことはないな」
さっきと変わりなく、ポケットに手を入れたまま、そう答える。
「それにしては、いつも通りだよね」
「俺は、仮にもあのバンドのドラマーだからな。俺がいつも通りじゃなかったら、皆を生かせなくなる」
体勢を変えないまま歩きつつ、そう言い終わるとふいにタバコを取り出した。
渚はふと微笑み、ただ一言、
「私たち、まだ未成年。それに歩きタバコは絶対だーめっ」
ライブハウスに着き、控室に入ると、二人は生気を失ったようにだらけきっていた。が、浅倉は渚、西園寺を見るなり、慌てて近寄ってきて、何かを言いたそうにあたふたとした。
「落ち着きなよ」
渚が冷静なツッコミを入れると、一度深い深呼吸をして、立ち直り、こうとだけ言った。
「絶対最後のバンドは見ろ」
8.手打ち料と色んな真実の序章‐4