10月下旬頃。暖かい陽光が降り注ぐ学園の中庭で、なつきと舞衣は昼食の弁当を広げていた。
「なあ、舞衣」
「んー?」
「来月、楯の誕生日だろう?」
「よく知ってるわね」
「たまたま小耳に挟んでな。で、なにあげるんだ?」
「それ悩んでるところなのよね
「そうか」
「……なつきも他人事じゃないんじゃない?」
「なにがだ?」
「会長さんの誕生日。12月でしょ?」
「よく知ってるな」
「まあ、毎年毎年その日になるとプレゼント持った取り巻きに囲まれてるの見てたからねぇ」
「なるほど」
「で?」
「で、って?」
「会長さんには何あげるか決まってるの?」
「いや、それがまだ何も思いつかなくてだな」
「まあ、なつきがあげたものなら何でも喜んでくれそうよね。会長さん」
「……ん」
「私はまあ、ありきたりだけど手編みのマフラーとかにしようかなぁ」
「お前は器用だからいいな」
「なつきも何か手作りのものにしたら?会長さん、お金で買えるものは取り巻きの子達からたっくさんもらうでしょ?」
「ぐ、やはりそう思うか。でもな……」
「うん?」
「私は料理も編み物も出来ないし、そもそも器用じゃないんだ」
「そっか」

−−−−−−

数日後。
「舞衣、すまないが。寮のお前の部屋使わせてくれないか?」
「いいけど。会長さんと喧嘩でもしたの?」
「いや、この前話しただろ?誕生日プレゼントのこと」
「ああ、うん」
「私も手作りのもの作ることにしたんだが、こっそり作業できる場所がなくてな」
「なるほどね。了解」
「静留には、しばらく補習で遅くなると言ってあるから口裏あわせてくれ」
「はいはい」
「すまないな」
「いいよ、親友の頼みだもん」
「あ、ありがとう」
「それで?何作るの?」
「わ、わらわないか?」
「笑わないよ」
「……本だ。手作りの、絵本」
「え!凄くいいじゃん!」
「ほ、ほんとか?」
「うん!でも、本って作るの大変そうだね」
「一応、ストーリーは思いついてるんだ」
「そっか。絶対会長さん喜んでくれると思うから頑張ってね!あ、でも、本物の課題はどうするの?」
「それは休みの日に何とかする」

−−−−−−

11月半ば。
「できた!」
「ほんと!?すごいじゃん、なつき!」
「うーん、でも、絵の具の塗り方が雑だなぁ。装丁ももうちょっと綺麗にしたい」
「そう?」
「やっぱり作り直す!もう少し、場所貸してくれ」
「はいはい」

−−−−−−

12月19日
「できた!!」
「もう夕方だよ、なつき。会長さん待ってるんじゃない?」
「ああ。すぐ行く!ありがとな、舞衣!」
「はいはい。いってらっしゃい」
舞衣は画材や色紙が散らばる床を見て「やれやれ」と片付けを始めた。

−−−−−−

後日。
「で?会長さんには無事渡せたの?」
「ああ。おかげさまで」
「喜んでくれた?」
「うん。大事にするって言ってくれた」
「それなら頑張った甲斐があったね」
「ああ。舞衣もありがとう」
「どういたしまして」