「静留?」
がちゃ、とリビングの扉を開けて、すぐにノックしなかったことを後悔した。
ソファの上に身を沈めて、浴衣を乱し、自らの体を嬲っていた手を止めて、ショックを受けた様な顔でこちらを見た静留と目があった。
熱った顔の静留が何をしていたか、分からないほど鈍感じゃ無い。
「な、なつき」
中心に差し込まれていた指を慌てた様に引き抜いた。くちゃ、と粘液の音がした。なつきは知らず、ごくりと生唾を飲んだ。
さっきまで寝室で散々静留に可愛がられた身体は、静留の痴態を前に簡単に熱を持った。
後ろ手に扉を閉めた。
「……静留」
「あ、や、これは」
裸足の足でまっすぐに静留の元へ向かう。静留から濃い女の匂いが香った。静留が隠そうとした右手を捕まえて、顔の前に持ってきた。指先が濡れている。
「な、つき」
「どうして?」
舌を出して、粘液を舐めた。初めて味わった静留の味は甘かった。
「……っ」
「なんで、一人でしてたんだ?」
そう聞いたけれど、理由なんてどうでもよかった。熱い息を吐く。自分を見上げる静留を今すぐにでも欲しかった。
「かんに……」
悪い事を見られたと思っているのだろう。尻すぼみな言葉がなつきの耳に届いた。
「謝るのは私の方だ」
静留に抱かれて、いつもそのまま眠りについていた。静留はいつも、その間に、こうして自分を慰めていたのだろう。
掴み上げた右手にキスをして、ソファに膝をかけ、静留の身体にのし掛かった。
「抱かせてくれ」
静留はしばらく固まっていたが、突然何かを理解したようにふっと微笑んだ。
「なつきは優しいなぁ、おおきに。でも無理せんでええよ。うちはあんたにそう言ってもらえるだけで本当に嬉しいさかい」
「無理なんかしていない!私は本当にお前を…...」
その目に情欲の色が見えた気がして静留は戸惑った。
静留が困った様な顔で見上げてくる。普段は私を抱くくせに、いざ交代しようとすると、何故そんなに躊躇するのか。
「抱く言うても、やり方、わからんやろ?」
そんな言葉が飛んできた。
「お前がしてくれた様にする」
「でも」
「なんだ」
「あんな……うち、あんたみたいに綺麗やないよ?」
「いや、静留は綺麗だ」
真っ直ぐな目でなつきが見つめてくる。
「綺麗じゃありません」
「綺麗だ」
「ちゃいます」
「...強情だな。私が綺麗だと言ったら綺麗なんだ」
ジャイ◯ンか、というツッコミが喉元まで出かかって止まる。代わりに笑いが込み上げてきた。
なつきも思わず頬を緩める。
「なあ、もう大人しく私を受け入れろ」
くすくす笑いながら、静留をそっとソファに押す。
「かなんなぁ、なつきには」
静留が仕方ないとでも言うように、くしゃりと笑った。なつきの手が静留の浴衣の腰帯に触れた。
「む」
「なん?」
「なんでややこしい結び方してるんだ」
「そこからなん?ほら、こうやって解くんよ」
「あ、ああ、すまない」
なつきの視界に静留の裸体が広がった。見事な肢体にごくりと喉が鳴る。
「嫌なことしたら言ってくれ」
「……なつきの好きにしてええよ」
「そんなこと言うと止まらなくなるぞ」
「ええよ」
慈愛の篭った声が耳に届く。優しくしたい、でも乱したい。めちゃくちゃにしてしまいたい。腹の底から湧き上がった欲望をぶつける様に静留に顔を寄せた。