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magic(2)

先程から必死に顔を隠していた細い腕を、あっさりと頭上に抑えつけると、涙ぐんだ薪の瞳と視線がぶつかった。

「ふざけるな…っ」


確かに怒るのも無理はないと、青木は思ったが、もうそんな言葉で収まる筈がないのに今更往生際が悪いなんて、勝手な事が頭を過ぎる。


「っ、力抜いて下さい」

「あ、止め…っ嫌」

きつく閉じられた瞳から涙が零れる。


「寝てる間に、準備出来ちゃいましたね」


ここ、と囁く青木の顔を、恥ずかしさの余り見る事が出来ない。

繋がった場所から広がる熱が、思考を侵しはじめる。


感情任せに与えられる熱で、薪はただただ息を紡ぐのが精一杯だった。


「っだめ、もう…」

「俺も」



こうして青木の秘密の実験は半ば強引に終了した。


悪戯心でとか出来心でとかは、言い訳に過ぎないと自覚はあった。
黙々と服を纏う薪の背中から発せられるオーラに、青木はただ固唾を飲む。


「……怒ってます?」
「……」

「よね、やっぱり」

「何度もいうようだが」

「はい、ここは職場で、仕事中ですよね」

「…で?」

「しかも寝込みを襲うなんて本当に最低でした。スミマセン」

「わかってるじゃないか、なのにどうして」
「わからないんですけど…薪さんを見てると身体が勝手に…」

「バカかお前」


冷たく言い放つと、振り返りもせずに部屋を後にしてしまう。

(ああ…また怒らせてしまった)

後悔しても遅い事だが、青木は枕に顔をうずめて深く深く反省した。

身体が勝手に。

それは多分、本当だ。
疲れて頭も痛くて、すっかり寝る気で来たというのに。

いつの間にか頭の中はいけない願望で一杯になって、あんな事をしてしまっていた。

魔力とも呼べる程、人を魅きつける力が薪にはある、と青木は思う。

魔法にかけられて、その夢から醒めた時にはいつだって後悔ばかりしているのだから。


「おい青木!とっとと出て来て仕事に戻れ!」


バンッと強くドアが開かれて、薪の冷ややかな怒号が響いた。


「…はい」


嘘みたいだ。
夢みたいだ。

ついさっきまで自分の下であんな、あんな表情をしていた筈なのに。

本当に魔法にかかって夢でも見ていたのかもしれない。

「……あれ?」


慌てて身仕度を整えている最中に、ふと気付く。

不思議な事に、重苦しい頭痛や疲労感は、いつの間にかどこかへ消え去っていた。



(終)

magic(1)

青木×薪、R15、青木が薪さんにいたずら。


magic



青木は疲れていた。

第九に籠って早くも3日目、風呂と着替え以外は自宅に帰っていない日々。

いい加減慣れたとはいえ、こう昼夜ぶっ続けでおぞましい映像を見続けていたら、いくら根明の青木と言えども頭痛がしてくる。


「ふぅ…」

こめかみを指で強く押さえてみても、じわりじわりと疲労感が襲ってくる。

少し仮眠をとらなくては、この状態では仕事にならない。


おぼつかない足取りで仮眠室に辿り着くと同時に、青木はベッドに先客が居た事を思い出した。

(あ、そうか、まだ薪さんが寝てたんだ)


2時間程前に薪が少し休むと言って仮眠室に入っていった事を青木は失念していた。

いつも薪は休むとは言っても大抵小1時間でいつの間にか仕事に戻っている事が多い。
今日は余程疲れていたのだろう。


(もう少し、寝かせておこうかな)


青木は静かに薪に歩み寄ると、そのあどけない寝顔を覗きこむ。


「……」


忙しくて疲れている時程、どうしてこういう事をしてみたくなるのだろうか。


青木の胸に沸き上がってきたのはささやかな悪戯心だった。


「…薪さん」


耳元で息を吹き掛ける様に呼び掛けてみる。
決して起こす為でなく、むしろよく寝ているのを確かめるように。

一瞬ぴくり、と薪の肩が揺れたが、またすぐに安らかな寝息が聞こえてくる。


(よく寝てる)


薪は珍しく深い眠りに落ちていた。青木が密かに仮眠室の鍵を閉めた事にも、気付かない位に。



ゆっくりとベッドに腰掛けると、青木の指は秘密の実験をはじめる。

最初は頬、次に白い首筋。

「…ん」

鼻に抜ける様な声に気を良くして、次はシャツのボタンに手をかけた。

(まだ起きない)

仮眠室は丁度良く空調がきいていて、幸いブランケットを剥がしてボタンを全て外してしまっても薪が寒さで目を覚ます事は無かった。

脇腹をなぞると、また小さく悶える。

「薪さん、まだ起きないんですか?」

いつもみたく怒らないんですか?
ここは職場だって。

「…は…ぁ」

胸の飾りを刺激すると、今度は艶やかな口唇から切ない溜め息が漏れた。


「…可愛い」


悪戯は、もう取り返しの着かない所まで来てしまっていた。

色付いてきた胸に舌をはわす頃には、薪の身体は明らかに熱を孕んでいて、青木は予想以上に胸が高なる。


眠りの中まるで無防備に反応するその姿。
素直に零れ出す小さな声は、はっきりと快楽を示していた。


(流石に、起きちゃうかも)

解ってはいながらも、薪のベルトに手をかけた。
薪を見つめるその瞳には火傷しそうな程の熱が宿って、まるで魔法にかかってしまったかの様に自然と身体が動いてしまう。

「…っ、青…木」


「起きましたか?」


「っ!ゃ…あ、何」


「よく寝てましたね」
そう言いながら、掌で包み込んでいたそれを揺さぶると、薪は信じられない、という目で青木を睨んだ。

「お前っ…いつから」
「随分前です。薪さん、さっきまでは凄く素直に声出してたんですけど」

「…っ!!」

その台詞に一気に頬を染め上げ、薪は両腕で顔を隠した。

「抵抗、しないんですか?」
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