青木×薪、R指定なし。大きくても小さくて、小さくても大きい。


君と僕



誰がこんな馬鹿な事を始めたのか、問い詰めたい気分になる。

深夜、会議から戻った薪は、その有様に驚かされた。

「薪さん!お疲れ様でした!お帰りなさい」
「お疲れ様です」

「……」

今日は捜査が切りの良い所まで進んだら、明日に備えて帰れと連絡を入れた筈なのに。

これは一体どういう事なのか皆目見当がつかない。

「おまえ達…何を?」
「手比べですよ!」

「聞いて下さいよ薪さん!青木のやつ俺より背高い癖に手は負けてるんですよ〜」
「岡部さんちょっと気合い入れて指伸ばしてたじゃないですか!ズルですよ!」

「ま、まーまー、青木も岡部さんも俺らよりは全然でかいってば」

ああでもないこうでもないと、わいわいと盛り上がる大のおとな達に、薪は言葉を失う。
ついさっきまで世にも恐ろしいMRI画像と向き合っていただろうに、本当にこいつらときたら。
時々そういう脳天気さとたくましさに驚く。

「薪さんっ、手出して下さい」

「あっ、おい!青木」
悪ノリだと、一瞬室内の温度が下がるが、予想外にも薪は黙って青木の手のひらに自分の手を合わせた。


「………」

ちょん、という効果音が聞こえてきそうな程に、その手は小さく、それを見た皆は何故か赤面してしまう。

男のものにしては、綺麗すぎる細い指は、青木の指の第二関節を少し過ぎたあたりで止まった。

「…薪さん」
「なんだ」
「可愛」
「おおっと青木!!もうこんな時間だ!早く帰らないとセキュリティをかける薪さんに迷惑だろう!」

わざとらしい岡部の声に遮られた言葉が聞こえたのかどうか、手を離した薪の表情を、青木はいまいち読み取る事は出来なかった。



「…今日は、なんであんな事してたんだ?」
「あんな事?」

疲れた身体に、リネンのするりとした感触が心地よい。
青木はまどろみながら薪の細い肩を抱き寄せる。

「手比べ」

「ああ、曽我さんが…、俺は昔スポーツしてたから手がでかくてガッシリしてるんだなんて言い出して」

「うん」

「岡部さんが乗っちゃって、あんな事に」

胸元で薪がクスクスと笑うのがくすぐったくて、愛しくて、青木はより強く引き寄せる。

「青木は、大きいな」

「え?」

「手も、肩も…全部。僕の倍はあるんじゃないのか?」

見上げたなんとなく幼い薪に、胸の鼓動が聞こえてしまうのではないかと動揺が隠せない。

「いや、その、薪さんは薪さんらしくてというか、可愛らしくて」

そう言った後にしまった、という表情をしたのを薪は愉快そうに見つめる。

「あ…可愛いって言われるの、嫌でしたよね?」

「そうだな」

「すみません…」

「もう良い年の男だし、あんまり嬉しくはないけど」

おまえだけは許してやる。

青木は長い長いいつ醒めるとも知らない眩暈を覚える。
身体中の血が騒ぎ出すのが、判る。

荒っぽく組み敷いた薪の瞳は、怯えるでもなく、ただ静かに青木を見つめていた。