青木×薪、R15、雪子も出て来ます。綺麗になる秘薬。
seclet medicine
「ねぇさっきから私の話聞いてる?」
たまの休みの昼下がりは、女子の時間。
白いクラシックなテーブルに、白いティーセットとレースのカーテン。
「あんたが誘った割に、さっきから携帯いじってばっかりじゃない」
久し振りの休日。
どうしても行きたいカフェがあるというから、渋々愛しの自室のベッドからはい出て来たというのに。
お洒落で可愛い(というよりは少女趣味に見えたが)店内を大して満喫もしていない友人に、雪子は溜め息をつく。
「あんたはともかく、私にはちょっと似合わない店ね」
女性にしては長身で、少し意志の強い顔立ちの雪子は、確かに店内で少し浮いていた。
人目を気にするという訳ではないが、少し窮屈で、雪子は顔をしかめる。
(そう、こういうカフェに似合うのは、もっとこう小さくてお人形さんみたいな…例えばつよし君とか)
「もー、雪子ったらそんな顔しないの!ほら、笑って!」
ハイ、チーズ!
「はぁ?」
突然のシャッター音に、持っていたティーカップを落としそうになる。
「ちょっと、何撮ってるの!携帯かして、消すから」
そういって友人の手から奪った携帯に写った自分の写真を見る。
「………」
雪子は無言でその写真を消去し、ぱちんと携帯を閉じた。
(まずいわ)
ショックは日常の何処に潜んでいるか判らない。
隙を狙って、いつだって突然襲いかかるのだ。
そのショックは雪子の心を悩ませ、仕事に集中出来なくさせる程だった。
しかしいいのだ。接客業でもないのだから。
(どんな顔して仕事してたって、死体は怒んないわよ)
「ねぇスガちゃん、あなた何か美容の秘訣ってある…?」
「先生、流行の婚活ですか?」
「違うわよ!私が美容に関心もっちゃ悪い?…ただ、スガちゃん年の割に結構可愛いし、何か使ってる化粧品とか美容法とかがあるのかと思っただけ」
彼女がクスリと笑うので、雪子は更に不機嫌な顔になってしまう。
(いけない、シワが増える)
そう、雪子の悩みの種、それはあの時撮られた写真の自分の顔であった。
まだ少女気分で居たつもりでは無かったが、予想以上に疲れた顔をして居た自分。
うっすらとでたクマに、微かにほうれい線まで出ていた気がする。
あまりのショックにまじまじとは見れなかったけれど。
「私は特別な事は…あ、そうだ!先生、そういうお悩みにピッタリな方居るじゃないですか」
「…まさか、つよし君の事を言ってるの?」
プライドから、思考の片隅に追いやっていたその男。
確かに年齢を無視したような美しさを持っている。
(こんな相談をするのはプライドが…でも)
背に腹は変えられない。
想像以上に、雪子は追い詰まっていた。
「何か御用ですか」
相変わらずな薪の対応に、雪子はさっそく心が折れそうになるのを堪え、なるべく平静を装って切り出す。
「…つよし君。」
「はい」
「こんな事突然聞いて悪いんだけど」
「……」
つよし君、化粧品は何使ってるの?
「…は?」
(全くケチくさいわ)
雪子はずかずかと音を立てながら一人仕事場へ向かっていた。
結局、薪は何も答えず、ふと眉をしかめただけで、さっさと仕事に戻ってしまった。
(だっておかしいじゃない)
私と歳は変わらないのに、あんなにくすみもしわもない陶器みたいな綺麗な肌で、しかも女顔負けの色気まで放つなんて。
絶対に何かある。
たくましい事に、雪子諦めて居なかった。
自分のそっけない態度が逆に雪子を燃え上がらせているなんて、薪は想像もしていないに違いない。