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君と僕(2)

身体の大きさは決して強さと比例する訳ではない。

青木は新しい捜査の途中、行き詰まっていた。
ディスプレイに映される映像のスプラッタ加減がいつにも増して酷く、ここが第九である事すら忘れてしまう様な、悪夢の様な映像だった。

静かに響く機械音が、かろうじて青木を「こちら側」に引き止めている。
もう新人ではないのだからと、こんなものに心を揺らしていては仕事にならないと、自分を叱咤しながら画面に向き合い続ける。

ふと、肩に温かい感触。

「青木」

落ち着いた、声。

「薪さん…」

どっと肩の力が抜けるのが自分で判った。

「ここは犯人の幻覚が強い部分だ。もう少し先に進めて、確実な手掛かりを探せ。全て見ていては拉致があかない」

「…はい!」


肩に置かれた手の平が、完全に青木を現実に引き戻してくれる。

その大きさがどれ程のものか、多分薪は知らない。

切迫した環境の中でも、薪が外から帰ってきた時には、皆の表情が和らぐのを、薪は知らない。

「薪さん、コーヒー飲みます?」

「ああ」

書類を見つめたまま、振り返りもせずそう言う背中が、どれほど頼もしいかを、薪は知らない。


「確かに身体は大きいかもしれないですけど」

「え?」

「こないだ、薪さん言ってたでしょう?青木は大きいって」

「ああ、言ったな」

「でも俺からしたら、薪さんの方が全然大きいし、敵わないんですよね」

薪はいきなりなんだとばかりに首を傾げた。
その仕草がとんでもなく愛らしくて、青木は笑ってしまう。

「やっぱり敵いません、薪さんには」

いつだって俺は、大きいけど小さくて。

あなたの背中ばかり追ってしまう。

あなたは小さな体で、どんどん前に突進む。
まっすぐで大きな、美しい瞳で。


(終)

君と僕(1)

青木×薪、R指定なし。大きくても小さくて、小さくても大きい。


君と僕



誰がこんな馬鹿な事を始めたのか、問い詰めたい気分になる。

深夜、会議から戻った薪は、その有様に驚かされた。

「薪さん!お疲れ様でした!お帰りなさい」
「お疲れ様です」

「……」

今日は捜査が切りの良い所まで進んだら、明日に備えて帰れと連絡を入れた筈なのに。

これは一体どういう事なのか皆目見当がつかない。

「おまえ達…何を?」
「手比べですよ!」

「聞いて下さいよ薪さん!青木のやつ俺より背高い癖に手は負けてるんですよ〜」
「岡部さんちょっと気合い入れて指伸ばしてたじゃないですか!ズルですよ!」

「ま、まーまー、青木も岡部さんも俺らよりは全然でかいってば」

ああでもないこうでもないと、わいわいと盛り上がる大のおとな達に、薪は言葉を失う。
ついさっきまで世にも恐ろしいMRI画像と向き合っていただろうに、本当にこいつらときたら。
時々そういう脳天気さとたくましさに驚く。

「薪さんっ、手出して下さい」

「あっ、おい!青木」
悪ノリだと、一瞬室内の温度が下がるが、予想外にも薪は黙って青木の手のひらに自分の手を合わせた。


「………」

ちょん、という効果音が聞こえてきそうな程に、その手は小さく、それを見た皆は何故か赤面してしまう。

男のものにしては、綺麗すぎる細い指は、青木の指の第二関節を少し過ぎたあたりで止まった。

「…薪さん」
「なんだ」
「可愛」
「おおっと青木!!もうこんな時間だ!早く帰らないとセキュリティをかける薪さんに迷惑だろう!」

わざとらしい岡部の声に遮られた言葉が聞こえたのかどうか、手を離した薪の表情を、青木はいまいち読み取る事は出来なかった。



「…今日は、なんであんな事してたんだ?」
「あんな事?」

疲れた身体に、リネンのするりとした感触が心地よい。
青木はまどろみながら薪の細い肩を抱き寄せる。

「手比べ」

「ああ、曽我さんが…、俺は昔スポーツしてたから手がでかくてガッシリしてるんだなんて言い出して」

「うん」

「岡部さんが乗っちゃって、あんな事に」

胸元で薪がクスクスと笑うのがくすぐったくて、愛しくて、青木はより強く引き寄せる。

「青木は、大きいな」

「え?」

「手も、肩も…全部。僕の倍はあるんじゃないのか?」

見上げたなんとなく幼い薪に、胸の鼓動が聞こえてしまうのではないかと動揺が隠せない。

「いや、その、薪さんは薪さんらしくてというか、可愛らしくて」

そう言った後にしまった、という表情をしたのを薪は愉快そうに見つめる。

「あ…可愛いって言われるの、嫌でしたよね?」

「そうだな」

「すみません…」

「もう良い年の男だし、あんまり嬉しくはないけど」

おまえだけは許してやる。

青木は長い長いいつ醒めるとも知らない眩暈を覚える。
身体中の血が騒ぎ出すのが、判る。

荒っぽく組み敷いた薪の瞳は、怯えるでもなく、ただ静かに青木を見つめていた。

雑記

8月以来他ブログ様もろくに巡回できず、SSも書けずでした。
音沙汰なくてなんだか申し訳ありません。

8月末頃から身内が急病で入院してしまった為、ひたすら病院通いに明け暮れておりました。
この度手術が成功した為、なんとか日常生活に戻れそうです。

気晴しや気分転換も兼ねて徐々に復活していこうと奮起しております。
やっぱり楽しみはある程度作らなきゃいけませんね!!

雑記というより近況報告になってしまいました。
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