花言葉シリーズD、青木×薪、18禁



ブロメリア



完璧主義のあなただから
いつも僕は理想と現実の間でおいかけっこ

ほんとのところは
あなたの好きな名前も聞いた事のない花や
洒落たシャツの張り詰めた襟なんてどうだっていいんだ


情けなく息をきらして
その細い肩を引き寄せて

その理知的な琥珀の瞳が溜め息と共に伏せるのを眺めたいんだ

愛想も駆け引きもない獣のように


あなたとキスがしたい


(これがいわゆる格差婚ってやつだったりして…)

仕事中に関係ないプライベートな事を思案出来る程の余裕がうまれたあたり、もう青木も一人前に第九の一員と呼べるかもしれない。

青木はペンを口許にあてて、薄暗がりの中、スクリーンの照明に浮かび上がる恋人を見つめていた。

この一見何か考えている風に見える仕草は、彼の癖であり、いつのまにか青木の癖にもなった。


(こうして見てると、本当に薪さんて格好いいんだよなぁ)

小柄ではあるが、均整が取れた細身の身体に、綺麗すぎるとも言えるその顔かたち。
そこに『仕事に対する情熱』が鮮やかに行き渡ると、彼の魅力はもう言葉にしがたい程。

比べ物にならない。
誰も、彼の美しさや内面から滲み出る魅力には敵わない。


そんな彼が月日を経て自分に心を許し、更には『恋人』として側に身を置く事を望んでくれるなんて。

嬉しい、どうしようもなく幸福…だけど。

(俺って、薪さんと釣りあってるのかな)

そこまで考えて青木はぶんぶんと頭を振る。
(違う違う!そんな事考えてる暇があるなら俺がもっと成長して薪さんに近けば)
「青木」


「一人で百面相するのは、そんなに楽しい遊びなのか?」


気付けば傍らで仁王立ちした薪が冷たく青木を見下ろしていた。


青木は色々な意味でへこたれない男である。
「薪さーん!夕食の前に風呂入りますか?」
もう沸いてますよ、と新妻さながらの呼び掛けに薪は呆れた様にひそかに笑う。
あれだけ日中怒られておいて、堪えていないのか。
切り替えが早いのかただ脳天気なのか。


しかし家に帰ってまで仕事の事を言い続けるのは野暮だろう。
家居る間位は寛ぎたいと思っているのは薪も同じだ。にこやかに手渡された柔らかいタオルとバスローブを抱えると、薪は浴室へ向かった。


熱い湯を浴びながら、昼間の出来事を反芻する。
あいつが一人で百面相している時は、自惚れではなく十中八九自分の事を考えている時だと、薪は知っていた。
だから慌てる青木に、本気で冷たくする事が出来ない。

仕事をないがしろにするのは許される事ではないから、きつく灸はすえてやるけれど。

(あんなに四六時中僕の事考えて、あいつどれだけ僕を)

薪はそこまで考えて、なんだか無性に気恥ずかしくなり、シャワーを止めた。


「青木、出たぞ。おまえも」

まだ濡れた髪を拭きながらソファに座る青木に声をかける。

「……」

「青木?」

黙ったままの青木を不審に思いその顔を覗き込む。

「薪さん、俺って、薪さんにとって何か魅力がありますか」

情けない、子供じみた黒い瞳と視線がぶつかる。

(これが今日の百面相のテーマか)

「…いえ、その、おこがましいかとは思うんですけど、俺が薪さんを素敵だと思うように、薪さんも何か…」

ギシ、とソファが二人分の重さできしむ。