身体の大きさは決して強さと比例する訳ではない。

青木は新しい捜査の途中、行き詰まっていた。
ディスプレイに映される映像のスプラッタ加減がいつにも増して酷く、ここが第九である事すら忘れてしまう様な、悪夢の様な映像だった。

静かに響く機械音が、かろうじて青木を「こちら側」に引き止めている。
もう新人ではないのだからと、こんなものに心を揺らしていては仕事にならないと、自分を叱咤しながら画面に向き合い続ける。

ふと、肩に温かい感触。

「青木」

落ち着いた、声。

「薪さん…」

どっと肩の力が抜けるのが自分で判った。

「ここは犯人の幻覚が強い部分だ。もう少し先に進めて、確実な手掛かりを探せ。全て見ていては拉致があかない」

「…はい!」


肩に置かれた手の平が、完全に青木を現実に引き戻してくれる。

その大きさがどれ程のものか、多分薪は知らない。

切迫した環境の中でも、薪が外から帰ってきた時には、皆の表情が和らぐのを、薪は知らない。

「薪さん、コーヒー飲みます?」

「ああ」

書類を見つめたまま、振り返りもせずそう言う背中が、どれほど頼もしいかを、薪は知らない。


「確かに身体は大きいかもしれないですけど」

「え?」

「こないだ、薪さん言ってたでしょう?青木は大きいって」

「ああ、言ったな」

「でも俺からしたら、薪さんの方が全然大きいし、敵わないんですよね」

薪はいきなりなんだとばかりに首を傾げた。
その仕草がとんでもなく愛らしくて、青木は笑ってしまう。

「やっぱり敵いません、薪さんには」

いつだって俺は、大きいけど小さくて。

あなたの背中ばかり追ってしまう。

あなたは小さな体で、どんどん前に突進む。
まっすぐで大きな、美しい瞳で。


(終)