思わず接近した、まだあたたかい薔薇色の肌に、青木は息を飲む。

「わからない?」


確実に視線を絡めとり近付く彼の姿は、まるで美しい獣みたいだ。
こんなに綺麗な顔をして、しかし確かにそれは雄の獣じみた、艶めいた瞳だった。

青木は言葉を忘れてしまったかのように、ただただ二人掛けのソファの上で追い詰められてゆく。

「…薪さ」

噛み付く様に口唇を塞がれると、麻酔が掛かったようにじんと頭が痺れていくのがわかった。
甘いボディーソープの香りのせいか、薪の香りのせいか。


「青木…」

名残惜しむ様に名前を呼んだ薪は、いつもの堅苦しいスーツも羽織っていなければ、張り詰めた理性も身にまとってはいない。

バスローブからはほのかに色付いた形の良い足が惜しげもなくのびている。


「あ、あの」

何度見ても慣れる事の無い薪の姿に、青木は思わず目を伏せてしまう。
「あなたにそういう事されると、もう、理性が」

「…理性、持ちそう?」

「……」


横になるには狭いソファの上で、その白い首筋に口付ければ、薪が息を詰めるのが手に取るようにわかる。

身体全てを使って、彼を導いていく事に集中する。

「っ…あ」

息継ぎの度、押さえ切れない吐息が零れるのが、ひどく可愛らしい。

指をうずめると同時に、青木は上体を起こし、薪の微かな表情ひとつひとつを見逃すものかと熱の籠った瞳で見つめた。

「ぁ…嫌、見るな」

「どうして?」

熱い体内を掻き回される感覚に、沢山涙をためて耐える姿。

一点を掠めた時に跳ねる細い肩。

薄くひらかれた花びらの様な口唇。


「あ、あぁっ」

快楽に反った美しい背筋。

息を吐く間も無く繋がれば、栗色の髪を乱し、肩に顔を埋める。

何もかもが綺麗な彼が、本能に飲み込まれる姿は、どんな媚薬よりも青木の思考を掻き乱していく。


(ただの獣みたいに)


こうして肌を重ねていると、青木の体温から、呼吸から、言葉にできない感情が流れ込んでくる。
このまま溶け合ってしまいたくなる。

「好きです」

荒々しく、プライドも何もかも投げ捨てた、大きな波のような。

呼吸が乱れれば乱れる程に、求められる程に、青木は持っている全てで、自分を愛しているのだと感じる。


それがどれだけ自分の心を安らかにする事なのか、薪は今まで知らなかった。


だからこの腕が離れてしまわない様に、お決まりの台詞やポーズなんて無視して、夢中で求める。

一際強い快楽と、温かい鼓動を感じながら、薪はゆっくりと目を閉じた。



完璧主義の僕だけど

いつも理想と現実の間をおいかけっこ

ほんとのところは
あなたが気にする立場や釣り合い
今日のコーディネイトがいかに大人っぽくて素敵かなんてどうだっていいんだ

情けなく息をきらして
その優しい腕を引き寄せて

そのまっすぐな黒曜の瞳が溜め息と共に伏せるのを眺めたいんだ

愛想も駆け引きもない獣のように

あなたとキスがしたい

(終)


ブロメリア『あなたは完璧』