【-空色うさぎ-】碧斗さまより
『それは君だけの特権』
凛々の明星の面々は、依頼完了報告のためダングレストに来ていた。
相変わらずの夕暮れ時のような風景はどこか哀愁をさそうとユーリは何とはなしに思っていた。
そこでふと違和感に気づく。いつもより人が多いことに。しかもよく見れば騎士団の人間もチラホラと確認できる。
何事かとユーリ達が訝しんでいると背後から聞き覚えのある呑気な声が聞こえた。
「ジュディスちゃんとその他じゃないの〜」
いつの間に近づいていたのか背後にいたのはレイヴンだった。
「あら、お久しぶりね」
「相変わらずだなおっさんは」
「それよりレイヴン、どうしたのこの状況?何かあったの?」
ジュディスはいつもの笑顔で、ユーリは呆れたように返し、カロルは街の異様な雰囲気を聞く。
そしてその返答は一同を驚かせるには十分だった。
「あー、今ヨーデル殿下が来てんのよねー」
「えぇっ!?」
これには全員が驚いた。皇帝自らがギルドの本拠地に来るだなんて誰が想像するだろう。
理由を聞けば帝国とギルド間で新しい条約が締結されている最中だという事だった。
「しっかしよくもまぁ殿下直々に出向けたもんだ。命だって危ねーだろうに」
とはユーリの言。 するとすかさずジュディスが含み笑いを浮かべて続ける。
「そこはほら、天然殿下には優秀な右腕がいるじゃない?」
「あ!そっか!フレンがいるもんね!!」
そう言ってカロルが笑った。
「そーゆー事。実際うちの首領が動く方が危ないのよ」
「あ?そっちにはおっさんがいるじゃねぇか」
元帝国騎士団の隊長であり、ギルドの幹部でもあったレイヴンの実力はユーリもよく知っている。そう思っての発言だったのだが、レイヴンは眉根を寄せた。
「いや、おっさん一人じゃ、ね」
そしてギルド側が自分で帝国側にフレンという事になっているのだと説明してくれた。
ちなみに今レイヴンがここにいるのはいわゆるお使いらしい。
「あと場所がこっちなのは帝国側のフレンちゃん自身がギルドと帝国の全面戦争止めた一件からダングレスト内でも一目置かれてるから街の人からの反発ってのも少ないのよ」
そう言われてユーリに一つ思い当たる事があった。
「逆に帝都では貴族達がうるさいってか?」
「そゆこと」
「…笑えねぇな」
世界が変わりつつある今でも貴族達は相変わらずらしい。
苦々しげにユーリが呟いた。
「まぁ、ね。ま、でも殿下やフレンちゃん達が頑張ってくれてるからね。これでも昔よりはずっとマシなのよ?」
そう言ってレイヴンは笑っていた。実際帝都でも下町への扱いなど昔より格段によくなったと思う。
これもフレンや天然殿下、エステル達が頑張ってくれてるからなのだとユーリも思っていた。
そしてその手伝いをするのが自分達の仕事だとも。
ただ唯一そのせいでフレンに会えないのは癪だったが。
「ま、とゆーわけでおっさんはそろそろ愛しのフレンちゃん所に戻るんで」
ユーリがフレンたちへと想いを馳せている間にさっさとユニオン本部へとユーリにとって聞き捨てならない台詞を残して去ろうとするレイヴンをユーリは当然逃さなかった。
「ちょっと待て」
「わー青年目が怖い!怖いって!!」
先ほどの発言の影響もあってかユーリの目は完全に据わっている。
そんな鋭い瞳に肝を冷やしていたレイヴンへと残りの二人からも声がかかる。
「そうね、私も久しぶりにフレンに会いたいわ」
「僕も!」
「「え?」」二人の発言に驚いたのはレイヴンだけでなくユーリもだった。
二人して目をぱちくりさせている。
「あら、だってずっと会ってないもの。私だって癒されたいわ」
「僕もフレンに会いたい!レイヴンばっかりずるいよ!」
そう言って二人は拗ねたようにレイヴンに言いよる。
「ずるいって…おたくらだってフレンちゃんに会えてるでしょ?特に青年は」
そう言ってユーリを見る。
が、ユーリは明らかに不機嫌さがわかる表情でレイヴンを見ていた。
その表情でレイブンは悟る。
「……マジ?」
「…というわけで連れてってくれるよな、おっさん?」
真っ黒なオーラを漂わせたユーリに肩を叩かれたレイヴンには顔をひきつらせながら了承するしかなかった。
「ユーリ・ローウェル…!!」
ギルドユニオン本部にて一行を出迎えたのはフレンの副官、ソディアだった。
彼女はユーリを見るなりギッと彼を睨む。
彼女とユーリは一度は和解したものの、やはりフレンが絡むと納得できない事が多いらしい。
ユーリに会うたび鋭い視線を送っている。
もっとも、当のユーリは気にも留めていないのだが。
「レイヴン殿、これは…!!」
ソディアはその勢いのままユーリ一行というよりユーリを連れてきたレイヴンに詰め寄る。
だがレイヴンはいつもの調子で飄々と経緯を話す。
そんな彼らにソディアの怒りは増していく。
「今は大事な協議の最中なのですよ?!それなのに部外者を…」
言ってなおもユーリを睨みつけるソディアの背後からそれとは対照的な穏やかな声が聞こえた。
「ソディア?どうかしたのかい?」
ソディアの後ろから表れたのは美しい金髪に空色の瞳を持った帝国の現騎士団長。
「フレン!」
「フレンちゃん!」
「隊長!」
口々にフレンを呼ぶ面々にフレンは驚きながらもその中にユーリがいるのを見てとり、顔を綻ばせた。
「ユーリ!」
「フレン!元気そうだな」
「君こそ、相変わらずだね」
そうやって二人の世界状態な会話を続けてしまう。
「ちょ、フレンちゃんおっさん無視〜?」
「私達だって久しぶりに会うのにひどいわ」
「そうだよ〜!」
「隊長!」
そんな二人に口々に不満を漏らす面々を、フレンは申し訳なさそうに見、ユーリは二人の再会を邪魔された事で睨んでいた。
「す、すまないジュディス、カロル、久しぶり。元気だったかい?」
「ええ。元気よ」
「僕もだよ」
「良かった」
そう言ってフレンが笑えばその場は一気に和やかムードに一変する。
これもフレンの大きな魅力の一つだと一同は同時に思った。
「そういえば、どうしてここに…?」
「ああ、たまたま依頼でこっちに来ててな」
「そうだったのか」
「それより会議は?」
「ああ、丁度今終わって…」
「お久しぶりです皆さん」
フレンが言い終わる前にユニオン本部のドアが開き、そこから出てきたのは金髪の少年。
現皇帝ヨーデルその人だった。
「久しぶりだな」
皇帝になったヨーデル相手といえど相変わらずな態度のユーリをフレンが咎めるように見るが、ヨーデルもユーリも気にした様子は無かった。
ヨーデルはジュディスとカロルにも挨拶する。
それがすんだ途端ヨーデルは何かを思い出したかのようにフレンに向き合う。
「フレン、あなたにお願いがあるのですが」
「何でしょう、ヨーデル殿下?」
皇帝ともあろう人間がその部下である騎士団長にお願いとはなんとも不思議な話だと一同が思ったが、この二人なら有り得ると妙に納得してしまうのだった。
「あなたの料理が食べたいのです。作っていただけませんか?」「えぇぇぇぇぇ?!?!?!ヨーデル殿下本気ぃぃぃぃ?!?!?!」
とっさに反応したのは以前ギルドと帝国の料理対決の際、フレンの料理でひどい目に会ったカロルだった。
それに苦笑し、ヨーデルは首を振る。
「僕が食べたいのはこのレシピ通りに作ったフレンの料理です」
「このレシピ通りの料理…ですか?」
「ええ、お願いできますか?」
「はい、もちろんです」
「良かった。実はもう材料などは手配してあるのです」
以前料理対決で使った会場に材料などは全て手配しているとヨーデルは付け足した。
会場へ行く道中、レシピを見ながら集中して歩いているフレンの横で一同は小声で会話する。
(レシピ通りのフレンの料理はプロ顔負けだとエステリーゼに聞いて以来ずっと食べてみたいと思っていたのです)
(あー、確かにレシピ通りならあいつの料理は完璧だな)
(僕、それなら食べたい!)
(た、隊長の手料理…)
(私は両方興味があるのだけれど…)
(おっさんもフレンちゃんが作ってくれるのなら…と言いたいけれどカロル少年の様子からレシピ通りを希望)
(おっさんは黙ってろ)
(それ以前にこれは僕とフレンとの個人的な話なのですが?)
(……)
(ユーリ!殿下相手に睨み効かせないで…!!)
(あら、殿下は全く怯んでないわよ?)
こそこそと話し合っているうちに険悪になっていく一行の横でひたすら黙々とレシピと向き合っていたフレンが急に申し訳なさそうにヨーデルに声をかけた。
「ヨーデル殿下、殿下さえよろしければユーリ達にも食べてもらいたいと思うのですがよろしいでしょうか…?」
そう言って小首を傾げる様子はこう言ってはなんだが可愛らしくとても年上の男性とは思えないとヨーデルは思いつつ、そしてそんな彼の要望を断れるわけも無かった。
「いいですよ。あなたならそう言うと思ってましたし」
「ありがとうございます…!!」
そう言って満面の笑みを浮かべるフレンに一同は癒されていた。
会場に着くなり料理を始めるフレン。
料理がし辛いからと鎧を外した上から付けたエプロン姿が眩しいと一同が癒されながら思う。
当の本人はそんな事思われているとは露ほども思っていなかったが。
「いやーまさかフレンちゃんの手料理が食べられるなんておっさん幸せだわ〜」
「楽しみだね!」
「隊長の手料理…」
「どんなのが出てくるのかしら?」
「僕も楽しみです」
皆がフレンの(食べられる)手料理を心待ちにしている間、ユーリの不機嫌メーターはどんどんと上昇の一途をたどっていた。
自分の恋人の手料理を喜んで他人に食わせたがる奴なんていない。
自分の恋人の手料理を喜んで他人に食わせたがる奴なんていない。
当然ユーリもそんな人間の一人で。知らず机を指でトントンとせわしなく叩いていた。
そんなユーリを料理が出来るまでの間、皆で”落ち着きが無い”だの”男の嫉妬は見苦しい”だの散々言い倒していた。
そうこうしている内に完成し並べられた料理は見事なもので、見た目は当然のことながら、レシピ通り作られていた為味も完璧以上のものだった。
「ご馳走様です。とても美味しかったです」
「殿下にお褒め頂いて光栄です」
「美味しかったわ。ご馳走様、フレン」
「ありがとう、ジュディス」
「美味しかったよ!フレン!」
「カロルもありがとう」
「流石隊長!完璧です…!!隊長の右に出る者はいませんっ!!」
「ソディア、それは褒めすぎだよ…」
そう言って口々に賛辞を述べる。
それにフレンは笑顔で応答し、和やかな雰囲気で食事会の幕は下りるかと思えた。
が、異変は既に起こっていたのだ。
「ホントに!おっさんもこれなら毎日食べたいわ〜。いっその事お嫁に来ない?」
「あ、あの…」
そう言ってレイヴンがフレンを褒めちぎり、フレンが困る。いつもならユーリの強烈な蹴りか拳が飛んでくる場面だ。
が、何も起こらない。フレン以外の人間が不審に思いユーリを見ると彼は机の上に突っ伏していた。
「ユーリ?!」
慌てたフレンが駆け寄る。
そんなフレンにユーリが唸るような声で確認するかのように問いかけた。
―お前これレシピ通りに作ったんだよな…?―
と。
だがフレンは困ったように首を振る。やっぱり、と苦しげながらもどこか嬉しそうにユーリが呟いた。
そして一同は顔を見合わせていた。
その様子を見たフレンは慌てて訂正を入れる。
「あ、殿下達にお出ししたのはご注文どおりレシピ通りだったのです」
その一言に一番安堵していたのはカロルだった。そしてフレンは続ける。
「ただ…ユーリが何だか不機嫌だったから、少しでも機嫌なおして欲しくて君のだけちょっと張り切っちゃった…かな?」
フレンは料理を作っている最中、不機嫌そうに机を突くユーリが気になっていたらしい。
そう言って照れくさそうに笑うフレンにもユーリはノックアウトされていた。
ユーリには当然一口目でその料理がレシピ通りでない事くらいわかった。
そして周囲の反応からその料理を出されたのが自分だけだという事も。
フレンが対人兵器料理を出すときは張り切ったリ相手に喜んで貰おうと頑張った時。
それを長年一緒に居て知っているユーリにはフレンの気持ちが伝わり、それが何より嬉しく、一気に自分の中から不機嫌さは消えていった。
しかし体は当然違う。いくら長年慣れた対人兵器料理とはいえ無傷というわけには行かない。
それでもフレンがアレンジをきかせたお手製の対人兵器な手料理をユーリが完食していた事は言うまでも無い。
当然原因を言わないまま机に突っ伏しているユーリと、それを心配そうに介抱するフレンに一同は呆れたり、負けるものかと闘志を燃やしたりと様々な反応を示していた。
そしてその後もユーリだけが3日間寝込む羽目になり、尚且つその原因であるフレンに(当然理由は言えないまま)体調が悪いと付きっきりで看病させたとか。
○感謝文○
なんとなんと!リク内容が『ユリフレ前提のフレン争奪戦』という面倒なものにも関わらず、本当に書いていただちゃいました!!
しかも完成度が高すぎます…!色んなキャラをだしてるのに、一人一人がちゃんと目立ってるんですよ〜!その上、いい感じにバカップルなユリフレも加えてくださっているから、フレンが誰が一番好きなのかも分かるという…(感動)
料理ネタは私も好きなのでほんとにツボりました♪
碧斗さま、こんなに素敵な小説を本当にありがとうございました!大切に大切にさせていただきますvv
これからもよろしくお願いします!!
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-空色うさぎ-