スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

渚のように攫いましょう




相互お礼☆
【-空色うさぎ-】碧斗さまへ





太陽の光が照り付ける。小鳥の鳴き声を目覚まし変わりに、フレンはゆっくりと閉じていた瞼を開いた。
もぞもぞと布団の中で寝返りをうち、枕元の時計に目をやればそれは6時前を指していた。最近、目も回るぐらい忙しくて、ろくに睡眠時間を確保できていない為に、眠気が抜けない。
だが、二度寝なんかできる状況ではないのだ。今日もまた積もりに積もった、報告書やら始末書やらの書類に目を通さなければならない。近々行われる騎士団の演習の準備もしなくては。街の復興だってある。
フレンは今日一日のスケジュールを頭の中で組み立てていると、時計の短針と長身が直線になっていた。
ああ、もう支度をしなくてはとベッドから起き上がると、早朝特有の薄白い光の中、異様なほど目立つものが視界に入った。


「よお」


片手を軽く上げて飄々とした態度で挨拶する人物に、フレンはまだ夢の中なのだろうかと本気で考えた。だが、流石に肌寒さも感じるような夢なんかあるわけないと思い直す。
だとしたら、目の前にいる見慣れた人物は、


「どーしたフレン?寝ぼけてんのか?」

「……な、ッ」

「な?」

「なん、でっ、ユーリがいるんだ!?」


寝起きの為に中々声が出し辛かったが、フレンは構わず声帯を震わせる。
何故、と言われた本人に至っては別に気にするでもなく、ベッドへと近付いてくるものだから、フレンは余計に混乱した。
普段は回転がいいと褒められる頭も今日ばかりは働いてくれず(起きて間もないのだから当たり前なのだが)、そうこうしているうちに、ユーリがベッドに乗り上がってきていて、余計にフレンは驚愕する。
反射的に後ろへとずり下がるが、狭いベッドの上では直ぐに追い詰められてしまう。フレンの背中が壁にぶつかったのを見計らって、ユーリは壁に手をつき、腕の中へとフレンを閉じ込める。
日中は鎧に隠れている為に焼けることのない鎖骨へと口付けると、細い身体は大袈裟なほど跳ね上がった。


「…ユーリ、んっ…ぁ!」


思わず上がってしまった己の甘い声に、フレンは頬をさぁっと赤く染めあげる。
その敏感すぎるぐらいの反応に、ユーリはくつくつと喉の奥で笑うと、最後に薄紅色した唇に軽いキスを落として離れた。
急に離れた体温が少しだけ名残惜しい。フレンは不思議そうにぱちぱちと瞬きを繰り返し、ユーリを見つめる。見上げてくる透明な碧の双眸にユーリは苦笑すると、顎で外を指す。


「ほら、目ぇ覚めたんならさっさと支度しちまえよ」

「あ、うん…」


フレンは小さく返事をすると、時計に目を向ける。6時15分。そろそろ準備をしないと朝の演習に間に合わなくなる。
乱れたベッドを正し、いつもの騎士服に着替えようとした所で、刺すような視線に気付く。ちらっと視線をずらせば、ユーリが笑いながらフレンの方を眺めていた。


「あの、ユーリ…」

「ん?」

「見られてると着替えにくいんだけど」

「んなの今更だろ?なんだったら手伝ってやってもいいぜ?」

「……そこで大人しくしててくれ…」


どこまでも我が道を行く幼馴染みに、フレンはがくりと項垂れる。確かにユーリの言う通り、今更恥ずかしがるような仲ではないが、少しぐらい気を遣ってくれてもいいだろうに。内心でぶちぶちと文句を言うが、どうせ聞いてもらえる訳ないのだと諦めた。
熱視線に耐えながら手早く着替えを済ませ、備え付けの簡易な洗面所へと向かう。
顔を洗いながら、ふとフレンはとあることに気付く。ここ最近、ユーリは城にはおろか、下町にすら顔を見せていない。ギルドの仕事が忙しい為だと以前にうんざりと、それでも存外楽しそうに話していた。
そんな彼が何故、ここにいるのか。しかも、こんな朝早くに。
フレンが身仕度を終えても、ユーリは部屋にいた。それに少しの安堵を覚えつつも、フレンはユーリに尋ねる。


「ユーリ、何か僕に用事があったんじゃないのか?」

「まぁ、な。仕度は終わったのか?」

「ああ。だから、何かあったなら聞くけど……」


言い終わらぬうちにガシッと手首を掴まれる。フレンは驚いてユーリを見やれば、何とも含みのある笑みを浮かべた彼と目が合った。
こういう笑顔を見せる時のユーリは碌なことを考えていない。そして、大概それは自分に何かしら事を及ぼすものだということも、長年の経験から熟知している。


「うっし!それじゃあ行きますか!!」


気合いの入った言葉が今は耳に痛い。手首を掴まれたまま、窓の方へと向かうユーリにフレンは半ば引き摺られるようにして連れて行かれた。
頭の中で警鐘が鳴るが、もう時既に遅し。
ぐいっと腕を引っ張られたかと思うと、フレンはユーリと向かい合わせになるように抱えられた。急な浮遊感に不安になり振り返ると、綺麗なまでの青空が広がっている。
慌てて下を見れば、ユーリが窓枠に足をかけていた。
これは、まさか。もしかして、


「えっ…、なに、ちょっとユーリ!降ろしてくれ!!」

「いいかー、しっかり掴まってろよ」

「待って、ゆ───」

「じゃあ行くぞ、フレン!!」


必死の制止も虚しく、ユーリはフレンを器用に片手で抱えたまま、窓から飛び降りる。
ガクンと落ちる感覚。その間、フレンは無我夢中に目の前の幼馴染みにしがみついていた。














「信じられない!!あんなことして怪我でもしたらどうするんだ!」

「怪我しなかっただろ?ならいいじゃねえか」

「そういう問題じゃないよ!!」


あの後、フレンは目を瞑りながらくるだろう衝撃に構えていたが、ユーリは持ち前の運動神経の良さと太い木の枝を生かして見事に着地し、案外あっさりと地上に降ろされた。
確かにそこまで高くはなくとも、成人した男一人背負って落ちたのだ。いくらフレンが身長の割に軽いと言っても、危ないことには変わりない。
だが、それをいくら咎めても、ユーリは素知らぬ顔で流していた。


「大体っ!こんなとこで油売ってたら演習に間に合わなくなるじゃないか!」

「それは心配いらねぇよ」


にやり。口端を上げながらユーリは笑う。その笑みに何か良くないものを感じたフレンは一歩下がろうとするが、ユーリが腰に腕を回してきた為にそれも叶わなくなる。
引き離そうとしても、やたらと力強いユーリの腕を引き剥がすのは不可能だった。仕方なく抱かれたまま、大人しく見上げる。
いつもなら同じ目線であるのに。


「どういう意味だい…?」

「そのまんま。お前は今日から3日間休みだから」

「なっ…!!そんな勝手なこと出来る訳ないじゃないか!」


予想外の言葉に直ぐさま反論するが、ユーリは全く聞いていないようで、フレンの手を引っ張りながらそのまま歩いて行ってしまう。
自然と後ろについて行く羽目になったフレンが尚も抗議の声を上げようとした所で、間延びした穏やかな声音が遮った。


「頼まれたんだよ」


何を言っているのか分からない。それを察したユーリが再び、「頼まれたんだ、お前の部下に」と付け加えた。
その一言でフレンは全ての合点がいく。途端、顰めていた表情が柔らかく綻んだ。
いつもより強引な彼のこの態度は、自分を想ってのことだっただなんて。


「…いつから凛々の明星は人攫いまでやるようになったんだ?」

「バーカ、これはオレ個人のビジネスだっての」

「ユーリの気持ちってこと?」

「さてな。つか、なに締まりのないツラしてんだよ」

「ひどいな、嬉しかったのに」


照れたような笑いを隠しもせずに浮かべるフレンは、いつもの凜とした表情とは違い、酷く幼く見える。だが、ユーリはこのあどけない表情が好きだった。
星触みを討ってから、フレンは昔以上に仕事に追われるようになった。正式な騎士団長という位を授かったというのもあるが、魔導機を失ったということが人々にとってかなりのダメージとなったようで、混乱の渦は瞬く間に広がっていった。
それらを一つ一つ迅速かつ的確に解決していくというのは、生半可な者では出来ない。上に立つ人間の手腕によっては国ごと潰れてしまう。
そんな緊迫した状況の中でも、フレンはしゃんと真直ぐに前を見ていた。どんな困難があっても決して諦めなかったし、弱音も吐かなかった。
その結果、少しずつではあるが世界は変わり始めている。

全てのことをフレン一人でやってのけた訳ではない。フレン自身、一人で全部できると自惚れてもいない。
だけど、今ここにある平和な時を作るために最も尽力し、また皆の幸せを願い続けたのは他の誰でもない、フレン・シーフォという一人の人間だった。
だからこそ、ユーリは思うのだ。走ってばかりの幼馴染みを立ち止まらせるのは自分の役目だ。彼を守るのは自分だけだ、と。


「上司思いの部下もったじゃねえか」

「そうだね…。あと、素直じゃない親友も」

「ははっ、優しいコイビト、だろ?」

「否定はしないけど…なんだか釈然としないな。
それよりも……、」


言葉と共にフレンは急に立ち止まる。不思議に思ってユーリも歩みを止め、振り返ってフレンの姿を確認しようとした。
だが、何故かさっきまですぐ後ろにいた金色が見当たらない。代わりに、視界に飛び込んできたのは澄んだ碧だった。


「ありがとう、ユーリ」


言い終わると同時に触れた唇への温もり。柔らかな感触は少しの体温をユーリに分けて、すぐに離れた。
それが何なのか確かめるまでもない。
目の前で真っ赤な顔をして俯くフレンを見れば、一目瞭然なのだから。
ああ、なんて可愛らしい!


「たくっ…、癒すつもりが癒されちまったな」

「ユーリ…?」

「なんでもねえ。それより、ほら」


ひらひらと手を揺らす。それが何を示してるのか分からなかいほど、フレンは初でもなかったが、素直にその手をとれるほど子供でもなかった。
だが、心地良い温かさを知っている身体が、その甘い誘惑に逆らえる訳もない。自然と体の動くままにフレンは差し延べられていた手を強く握りしめた。
ユーリは眩しそうに目を細める。


「3日間、エスコートよろしくね?」

「任せとけ!」


徐々に高くなる太陽の光を身体一杯に浴びながら、二人は笑いあった。早朝に比べて、随分と寒さも和らいでいる。
でも、きっと温かいのは、身体だけじゃない。

きゅっ、と互いの手を握れば、何よりも安らぎ、どんなものよりも優しい温もりが、二人の掌に伝わった。










○オマケ○

門番をしていた騎士に、ソディアは簡素な手紙を受け取った。
何となく嫌な予感がしつつも、その手紙を開く。そういえば今朝の演習に、団長の姿を見なかったな、とぼんやり考える。
しかし、それも束の間で終わった。代わりに、手紙を破かんばかりの勢いで握りしめる。
確かに、自分は団長に休ませるようにと言った。できれば纏まった休暇をとるように言った。
言ったのだが……、


「誘拐しろとは頼んでいないッ!!」


ソディアの怒声に門番の騎士は驚いて、持っていた槍を落とした。
その日、般若の顔をした彼女はフレンとその誘拐犯を探しに行こうとしたところで、たまたま通りかかった天然殿下に止められたのはまた別の話。








○後書き○

ひゃ〜…無駄に長い…!書き直したりしたのに、グダグダなのは何故!?
リク内容が『任務で忙しいフレンを休憩(デート)させるユーリ』でしたが…沿えてますか…?
何はともあれ、この小説は空色うさぎの碧斗さまに捧げます♪返品や書き直しはいくらでもしますので!
碧斗さま、相互&リクエストありがとうございました〜!!



前の記事へ 次の記事へ