大切な人が 崖で 落ちそうになっています
私はそれを助けようと 手を伸ばして必死です

長い間その手をつかんでいました 私だけじゃありません
いろんな人がその人の手をつかんで 崖から助けようとします

すると彼女は「疲れた」と

つかんでいない一方の手でケータイをいじりだしました
私たちはびっくりして手をとりそこないました

―崖から落ちそうな私はかわいそう
あとはあなたたちが引き上げればいいじゃない
私はどうすることも出来ないんだし
ケータイいじったところで 引き上げるジャマにはならないでしょう?―

だから 早く 引き上げて
私が助からないのはあなたたちが
全力で引き上げないからだよ だから はやく

私は 怒りを 悲しみを 覚えました

あなたがその目の前の 飛び出した岩にでも捕まれば
足がかりを探してくれれば もう一方の手もつかんでくれれば

私たちは こんな 苦労は しないのに

たくさんの人が 彼女をつかんでいます
時々思うのです 私くらい手を離しても 彼女は落ちないだろうと

だってそうでしょう?
私がこんなことしても 彼女は感謝さえ表さない
感謝のために つかんでいたんじゃ 無かったはずなのに