「いってらっしゃい、雲雀さん」
「行って来るよ。綱吉も気を付けて」
そう言うと専用ヘリに乗り込み空へと舞い上がった。
雲雀を乗せたヘリが見えなくなるまで、綱吉は空を見上げていた。
ごめんなさい、雲雀さん。
約束破るのは俺かも知れません。
もう戻れないんです。その為に―
この世界を変える為に…
許して下さい
綱吉はこの後ミルフィオーレに出掛けた。
白蘭と交渉する為に。この馬鹿げた行為を直ぐ様やめる様に言う為に。何が待っているのか、超直感で解りきっていた。それでも、この腐った世界を変えられるのならば自分1人の犠牲なんて安い代価ではないか。
止める山本、獄寺を諭し、綱吉は出掛けた。
それが、最期の姿になるとはこの時この2人も知る良しもなく。側近として当然の様に付き添って居たのに、守る事すら適わなかった。
白いスーツに一輪の深紅の薔薇が花開き、綱吉はそのまま倒れた。
その場から、2人はどうやって綱吉を抱えて戻ったのか解らなかった。返り血で汚れた山本とダイナマイトと拳銃の硝煙の匂いをさせた獄寺が、必死に本部まで戻ってきた。
自室のベッドに横たえさせられた綱吉は、もう起きる事はない。獄寺はゆっくりと綱吉の両手を握るとそのまま胸の上で組ませた。体温のなくなりかけたその手に涙がぽたぽたと落ちる。
「十代目ぇぇぇぇ〜っ!!!」
叫んだ獄寺はそのまま崩れ落ちベッドについた両腕に頭を埋めた。その後ろには、無表情なままの山本が佇んでいた。
目の前のこの光景を受け入れれば、全てが壊れてしまう気がした。しかし意外にも、涙は流れずに冷静にこの状況を処理始めた。
あぁ、キャバッローネのアイツに連絡しねぇとな
後、雲雀と笹川先輩とヴァリア―の連中もか。骸は連絡取れるんだっけ?
かしかしと頭を掻きながら携帯を片手に部屋を出た。
連絡の付いた連中は直ぐ駆けつけたが、雲雀、骸と連絡がつかずそのまま諦めた。やるべき事は一応やったのだから。
綱吉の周りで泣き咽ぶ連中のを部屋の片隅で見ている山本に、フゥ太が声をかけた。
「武兄ぃ、ツナ兄ぃの机に有るのはもしかして…」
ドタバタで気が付きもしなかったそれらを手に取ると、それぞれの守護者とツナの大事に思っていた人々の名が書かれていた。それぞれをそこに居た人間に手渡すと、自分宛の手紙を広げた。目を通すとくしゃりと握り、綱吉を見やった。
お前、解ってて?
俺にそれを頼むのか…
山本はたった一言言葉を発した。
「帰ろうぜ、並盛に。ツナ」
綱吉の亡骸はひっそりと夜陰に紛れる様にしてイタリアを発った。側近の2人に守られて、生まれ育ったあの街へと向った。