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present-3


「ありがとう、綱吉」
「あ、いえ、とんでもない」

わたわたと返答した綱吉に雲雀はお茶を淹れる様に命令し、綱吉は慣れない手付きで備え付けられているカップにお茶を淹れ雲雀の元に持っていた。

「へぇ、気が利くじゃない。紅茶を淹れたんだね」
「はい。日本茶よりは合うのかなって思って」
「君にしては、上出来だよ」
「ありがとうございます」

綱吉はここに来て初めて笑顔を見せた。それは、ほんわりと柔らかい暖かなもの。雲雀は瞳を細めてそれを見つめると、座っている椅子を後ろにずらし綱吉に見える様に自分の膝を叩いて言った。

「じゃ、君ここに座って」
「え?」

どう見てもその場所は雲雀の腿の部分で椅子ではない。それ位、綱吉にだって分かったのでおっかなびっくり声を掛けた。

「えぇっと、そこはひばりさんの膝の上で椅子じゃな…」
「当たり前でしょ?僕の膝が椅子に見えたら、君の目を疑うよ」
「だから…」
「ここに座りなよ。分からないの?」

そう言い放つ雲雀の片手にはいつの間にか出された彼愛用のトンファーが握られている。お祝に来て殴られたくはない綱吉は慌ててその言葉に従った。

「はい。失礼します」

おずおずと腰を下ろすと、すかさず雲雀の左手が綱吉の腰に回されがっちりとホールドされ、空いた右手で綱吉の膝の上に置かれた。

「あ、あ、あの…ひばりさん?」
「食べさせてくれるよね?」

有無を言わさぬその言葉に綱吉は、プラスチックのフォークでタルトを一口分崩して差し出した。が、雲雀は口を開けてはくれない。戸惑いながら綱吉は声を掛けた。

「あの、口を開けて貰えませんか?」
「台詞が違うでしょ?」
「セリフ?」
「そうだよ」

その言葉に綱吉は首を傾げて考えた。その様は可愛らしく雲雀には映り、どうしてもその台詞を言わせたかったしやりたかった。暫くして綱吉が、思い当たったらしく顔を赤らめながら聞き返した。

「あの、まさかとは思いますが…もしかして、そのセリフって…」
「ん?分かったの?なら、早く言いなよ」

綱吉は耳を疑った。第一そんな台詞を言わされるとは思わなかったし、要求してくるなんて想像だにしていなかった。そんなキャラではないのだ。それなのに、いつの間にか気に入られ呼び出しを再三再四受ける様になってからと言うもの、この人が分からなくなっていた。
綱吉は覚悟を決めてその言葉を、恥ずかしさと共に吐き出した。

「あ〜ん…」

驚いた。その言葉に満足そうに口を開け、タルトを頬ばった恐怖の風紀委員長がいた。雲雀は口の中の物を味わいながら飲みこむと、綱吉に言った。

「美味しいよ。君も食べたら?」
「え?だってひばりさんの分しか、買ってないんですよ?」

そう言う綱吉の前で雲雀は右手で器用にタルトを摘まむと、自分の口に入れそして綱吉を引き寄せて口付けた。

「○×@*&!!!」

驚く綱吉に雲雀はサラリと言い放った。

「プレゼントは当然、君だよね?綱吉」
「…えっ?!」

雲雀はそのまままた綱吉にキスをしながら、ゆっくりと手を服の上から這わせて反応を愉しみ始めた。
午後の日差しが差し込む、応接室に甘い吐息が漏れ始めるのは時間の問題だった。


―君が大好きだよ、綱吉


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present-2

すっかりそんな事は忘れていた、と言うよりは興味がなかった。

「…」

何も言わなくなった事に逆に恐怖を感じた綱吉は、恐る恐る声を掛けた。

「ひ、ヒバリさん?今日、確か誕生日…でしたよ、ね?」
「…そうかも、ね」
「え?そ、そうかもって…」
「大体ね、僕はそんな事には興味ない」
「…ですよネェ〜」

綱吉はその言葉に肩を落としながら同意した。
なけなしのお小遣いからケーキまで買って来たと言うのに、結局この一言で無駄になってしまった。綱吉は、ゆっくりと手を下して部屋を出ようとした。

「じゃ、おれ帰りますね。お邪魔して…」
「何で帰るの?」

言葉を遮る様に雲雀は声を掛け、更に機嫌悪そうに言い放った。

「勝手に来て、勝手に帰ろうなんて君いつからそんなに偉くなったのさ?」
「え?いや、偉くって、そんなつもりはないんですが…」
「聞こえないよ」
「じゃ、邪魔をしちゃったので早く帰ろうかと思っただけです」

開き直り気味に綱吉は言い放つと、そろ〜っと視線を上げて雲雀を見ると彼は変わらぬ表情でこちらを見ている。ごくりと綱吉の喉が鳴った。

「誰が、邪魔だと言った?僕は言った覚えはないけどね」
「…でも…」
「誕生日に興味がないって言っただけだよ。帰れなんて言ってない」
「…はい。そうでした」
「で、その手に持ってる箱は?」

雲雀は綱吉の手にしている箱に興味を示して問いかけた。きっと、分かってはいたのだろうけども綱吉から聞きたかった。

「あ、これ、プレゼントって言うか…その、ケーキです」
「ケーキ?」
「はい。ショートケーキなんですけど、余り甘くないのを選んだつもりで…」
「見せて?」

その言葉に綱吉はおずおずと雲雀のいるデスク傍まで行くと、片付けられたデスクの上に箱を置いて差し出した。

「どうそ。ひばりさんが、開けて下さい」
「僕が?」
「はい、プレゼントって言う事で、おれよりもひばりさんにって思うんです」
「ふぅん」

その言葉に雲雀は珍しく従う様に箱を開けた。
現れたのはフルーツの沢山盛られているタルトだった。

「これ、ショートケーキって言わないよね?」
「え?そ、そうなんですか?ちっさいケーキはそう言うのかと…」

その言葉に雲雀はくすりと笑みを零して綱吉を見つめた。



.

present


午後の昼下がり小さな箱を抱えて綱吉は懸命に走った。
陽射しは初夏を思わせるかのように降り注ぎ、背中に汗が伝い落ちた。ダメ綱と呼ばれるこの少年は、転ばぬ様に気を付けながらとある場所を目指していた。
人気ない通いなれた学校の校門をくぐり抜け、弾む息と共に階段を上る。
人のいない校舎とは、昼日中に来たとしても余りいい感じではない。
2階の職員室のある廊下に着くと、綱吉は走るのを止め歩きだし息を整えようとした。
段々と目指す場所が近付くにつれ、走った事による心臓の早鐘とは別の意味での動悸が始まった。
あと数歩と言う所で、ドアが開き中から一人の見慣れた人物が出てきた。


―あ、草壁さんもいたんだ


綱吉がぼんやりとそんな事を思っていると、彼は頬を緩ませ綱吉の肩に手をおきすれ違いざまに声を掛けた。

「今はお1人ですよ」
「あ、ありがとうございます」

綱吉が礼を言うと草壁は『何の』とだけ言って去っていった。綱吉は、そんな草壁の背を見送ると扉の前で深呼吸をした。
いつ来ても、ここだけは開ける前に緊張する。そんな事を思いながら、綱吉はノックをした。

「誰?」

ノック音のそのすぐ後に、中からした声は少し不機嫌そうに聞こえた。ごくりと綱吉は唾を飲み込み声を掛けた。

「沢田綱吉です」
「…綱吉?」

そう聞こえたかと思ったら扉がからりと開けられた。
現れたその声の主は、少しだけ眉を上げ直ぐ様いつもの無表情に戻ると、中へ入る様に促した。

「…入りなよ」
「あ、はい。失礼します」

整った応接室に入ると、机に置かれた書類を手早く纏めて少年はその重厚感あふれるデスクに戻った。椅子に腰掛け綱吉に向って声を掛けた。

「今日は何しに来たんだい?学校は休みだよ。綱吉」

そうこの少年の言うとおり今日はゴールデンウィーク真っ只中の子供の日だ。当然学校は休みで、来なくてもいいのだが綱吉は目的を持ってここに来た。相手は、知ってか知らずか意地悪く問いかける。

「今日は、補習なんてないでしょ?」

いくらダメ綱と言われても、そんなにそうそう補習授業ばかり受けていたくはないのだが、言い返せないのも事実で、綱吉は言葉を告げずに顔を引き攣らせながわ笑うしか出来なかった。そんな綱吉にイラついた彼は、少し声を低くして再度問い質した。

「で、何しに来たのさ?」

その言葉に綱吉は当初の目的を思い出して、背に隠していた小箱を差し出した。

「えぇっと。あの、誕生日おめでとうございます」

その言葉に今度は少年が面食らった。


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