「ようこそ、ミルフィオーレへ。ツナヨシ・サワダ。いや、ドン・ボンゴレ」
上っ面だけの作り笑顔の青年は綱吉に手を差し伸べた。綱吉はその手をそっと握ると、柔らな表情で切り返す。
「お招き頂き光栄です。ドン・ミルフィオーレ、白蘭」
「あぁ、それ言い難いでしょう?だから、ファーストネームだけで呼び合いませんか?綱吉君?」
「えぇ、いいですよ。白蘭さん」
座るように進められ席に着いた。その両側には、獄寺と山本が囲んでいた。白蘭側も白と黒の色違いの制服に身を包んだ重役と思しき者達が並んでいた。
「率直に話せばね、綱吉君。君達の持っている、そのリングを僕らにくれないかな?」
ニヤニヤと笑う敵は単刀直入に言い放った。綱吉は、呆気に取られながらも首を横に軽く振ると静かに応えた。
「それは出来ません。と、言うよりもうそれは壊してしまったので俺たちの誰ももう持っていません。何故、それが欲しいのでしょう?それに、それだけの為にこれだけの事をしたのだとしたら、許せる事ではないんですよ」
「壊しちゃったの?あーぁ、正ちゃん聞いたらがっかりしちゃう言葉だよ。つまらないねぇ」
「これ以上、無益な戦いは止めて頂けませんかね?俺は、それをお願いしに来ました」
「あっはっは!こりゃ、面白い!マフィアが、争い事しないなんて本末転倒って言わない?」
「だとしても、命が危険に晒されるのは放っておけない」
「で、君はのこのこココに来ちゃったって訳?」
「…」
嘲笑が部屋中に広がり、獄寺と山本は怒りを堪えるのに必死だった。それなのに、綱吉はどこか冷めたままさらりと受け流し笑う。
「えぇ、可笑しければ笑ってくれて良いんです。俺は、殺すのは好きになれない。そんな事に意味を見出せないから」
「貴方に賛同しているマフィア達は、何でそんな言葉について行けるんだろー?君のその体で、誑し込んだりしたの?」
「んだ…」
白蘭の言葉に怒鳴り返そうとした獄寺の手を引き、首を横に振ると綱吉は真面目な顔で言い募った。
「俺の事をどう言おうと思おうと、貴方の自由ですよ。でも、他の人間を中傷するのは頂けないことですね。貴方の目的が、リングだけだと言うのなら申し訳ないが、渡すことは出来ない。諦めてください。そして、これ以上この国をこの街を生活している人達を傷つける行為はしないで欲しい」
その言葉に反対に白蘭は表情を一変させた。冷酷な野獣の様なその眼は笑っていない。
「じゃ、リング無いなら君を頂戴よ」
「出来ない」
「つまらないよ。それじゃ」
「でも、出来ない相談だよ」
「あっそ。気に入らないねぇ。いっそココで死んじゃう?」
「それも、断る」
「あ、拒否権ないからね?」
言うや否や、素早い無駄の無い動きだった。一発の銃声が響き、綱吉の胸を貫通した。一瞬の出来事過ぎて、守るどころではなかった。獄寺と山本の隣にいたのに、何も出来なかった。ただ、そこから綱吉を担ぎ出して逃げるのだけが精一杯だった。
山本が担ぎ、獄寺が逃げ道をダイナマイトと匣を使って切り開いていく。
「ツナ、死ぬんじゃねぇぞ。今、直ぐに医者に連れてくからな」
「十代目、気をしっかり」
綱吉の薄れ行く意識の中で2人の声が聞こえ、口端しから赤色が流れ出した。必死に乗ってきた車に滑り込むと、後ろのシートに綱吉を横たえさせて直ぐに車を発進させた。
話し合いの場に着ていくお気に入りの白いスーツに真っ赤な薔薇の華にも似た、血溜まりがジワリジワリと広がり山本は必死にその傷口を持っていた布で押さえた。
「ツナ、頑張れよ。お前が死んだら、意味ネェんだって。解ってるんだろう?」
「十代目、しっかりして下さい。俺、守れなくて…」
2人の必死な言葉に綱吉は気力を振り絞り、呟いた。
「ご・・めん…めい…わくか……けちゃ…た」
「しゃべるな、な?ツナ。頼む、頼むから!!」
「や…ま…?ない…て…ご…く…」
山本も涙が綱吉上に落ち、獄寺は綱吉が彷徨わせる様に差し出した手を握り締めた。
「ここに。俺たちは無事です。だから、十代目もどうか…どうか…」
「…よか…た…」
2人とも無事で、と笑う綱吉の目尻に涙が滲み一筋流れ落ちた。そして、最期の言葉を遺し息を引き取った。
『みんな、ごめんね』