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LIER-8(骸綱)


「さぁ、起きなさい。余りにも寝汚いじゃ有りませんか…ねぇ、綱吉君綱吉君綱吉君。何か言いましょう?綱吉君。ねぇ、聞いて下さいよ。最初で最後の言葉ですよ。それを言ったら、起きてくれますか?綱吉君」

返事はない。それでも、それでも骸は言葉を紡いだ。
零れた涙の意味すら解らず、その言葉をただ一言だけ呟いた。

「愛していますよ、綱吉君」

頬を寄せ咽るような花の香りにクラクラしながら、骸はそのまま色々な場所にキスを落とした、愛しむ様に落とすキスと熱い涙は綱吉に降り注がれた。

「嘘吐きな、嘘吐きな貴方の為に僕は僕にしか出来ない生き方をさせて貰います。だから、言ったのですよ。マフィアは殲滅しないといけないんですと。そうしたら、貴方もこんな事にならなかったでしょうに。嘘吐き嘘吐き、僕だけが生きていても意味は無い。嘘吐きな君と一緒じゃないと意味は無かったのに…」

骸は最後にもう一度だけキスをすると棺の蓋を戻し、立ち上がった。その顔は冷酷で憎しみに満ち満ちていた。
森の奥から近付く足音がした。それは、間違いなく右腕に相応しくなった獄寺のものだった。骸は姿を消し、消息を絶った。

棺の中から、10年前の綱吉が現われるのはこの後直ぐの事になる。


嘘吐きな君の命を奪ったヤツを、絶対に許すことは出来ない




*すみません。
暗い上に、無駄に長くなりました。。。

LIER-7(骸綱)

『ごめんな、骸』

「そんな言葉で済むのなら、警察なんて要らないでしょう?バカですか?綱吉君」

『ホントに、ゴメン!!』

「何を謝っているのですか?僕にはてんで解りませんよ?」

『無理はしてない?なぁ、絶対に無理しないで』

「何なんですか、最後の最後まで!人の事をなんだと…」

『俺に何があっても、絶対に絶対に暴走しないで』

「出来る訳が無いでしょう?」

『俺、幸せだったよ。だから、骸もそう感じてくれたらいいな』

「…今更何ですか」

『最後だから言うよ』

「何を…」

『愛してるよ、骸。誰よりも』

「僕を懐柔する気ですか?今更、今更今更。ホントにホントに君はバカですよ。僕の想いに気付いてくれないなんて…貴方ほどの酷い人を、僕は知らないですよ。人体実験していた奴らは大したことは無い。だって殺してしまえば良いだけの存在だったのですから。でも、貴方は僕にくれたものは大きいんですよ?解っていましたか?それなのに、君は僕に生きて帰って来いと言いながら、勝手に死んでしまったんですよ」

『だから、骸お前に幸せが訪れる事を祈っているから』

「バカですか、君は。貴方の居ないこの世界に何の意味があると?」

『また、きっと逢えるから』

「確証のない約束を何故しなければならないのです?僕は、いい人なんかじゃないんです」

『それまで、元気でな』

「知りませんよ。嘘吐きな君との約束なんて、守る気になんかなれません。えぇ、もう僕は君の事なんてこれっぽっちも…」

握り締められたメッセージに溢れていた綱吉の愛情は、骸を酷く苛ませた。膝をカクリと折り、上体を傾かせ綱吉の上に覆い被さる様にして冷たくなった頬にそっと触れた。
最後に触れたのは何時だった?鮮明に刻まれた情事の夜は忘れられる筈も無く、骸にとっての綱吉の存在は思いの外大きかった。

LIER-6(骸綱)

最期の最後まで他人を心配して、自身の命を散らしたボンゴレ十代目事、沢田綱吉は25歳と言う若さでこの世を去った。
3人を乗せた車はそのまま、ボンゴレのアジトへと戻った。
綱吉の無言の帰還に、邸中のものが咽び泣いた。皆に慕われる稀代のボスだった。温厚だった9代目よりも更に穏やかな可愛らしい青年だったのだから。
山本に抱き抱えられ綱吉は部屋に戻ると、そのままベッドに寝かせた。綱吉の顔に苦渋の色は無くまるで眠っているかの様だった。白いスーツに一厘の深紅の薔薇の華が咲いていた。
訃報は直ぐに守護者達に伝えられた。が、2人だけ連絡のつかないものが居た。
誰も何も言わず、ただただ綱吉の顔を見つめ静かに涙を流した。その時、フゥ太が机に並べられた封筒に気付いた。きっと皆気が動転していて気がつかなかったのだろう。よく見ればそれは、1人1人の名前が書かれていた。
そこに居るだろう全ての人に宛てられたメッセージに、嗚咽だけが漏れた。

「十代目のご意思のままに…」

獄寺が零した台詞に無言で全員が同意した。
綱吉の棺は、綱吉の遺言通り並盛の町外れの森に置かれた。

『ごめんね、また逢えるから』

全てのメッセージの締めくくりは、全てこう綴られていた。

かさかさと生い茂る木々や草を掻き分け、棺に近寄る陰があった。
連絡がつかなかったとされた2人の内の一人、雲雀で有った。彼は、初めからここ並盛に居たのだがその情報を信じる気にはなれずに、返事もせず戻ることも無かった。群れるのを嫌ったというのもあった。
黒い棺の元に膝を付きそっと蓋をずらす。そこには眠っているかの様な綱吉の顔があった。

「君、悪い冗談だよ。何これ?僕には、無事に帰って来いって言ったくせに何なの?ねぇ、何か言ったらどう?綱吉」

雲雀の最後の言葉は震えていた。頬に熱いものが行く筋も流れ落ちた。まさか、こんな事が起こるなんて。そっと綱吉の頬に手を添え、腰を浮かせ唇を重ねた。冷たいそれに、雲雀はらしくもなく感情のままに呟いた。

「君に言いたい事が有ったのに。もう聞いて貰えないじゃないか。卑怯だよ。綱吉」

暫く綱吉の側で時間を費やした雲雀は、何事も無かったかの様に無表情なまま姿を消した。
夕刻だった。メッセージを握り閉めて骸が現われた。眉間に皺を寄せ禍々しいオーラを漂わせて棺の前に立った。途端、足で棺の蓋を蹴り上げて横たわっている綱吉を見下ろした。

「バカですか?バカですよね!本当に、貴方って人はどうして人を苛立たせるんですか!何時、僕が死んで良いと言いました?ねぇ、答えて下さいよ。ボンゴレ!!悪戯ですよね?何かの悪い夢ですよね?最悪ですよ、えぇ、本当に!!早く、起きなさい!綱吉君!!」

LIER-5(骸綱)


「ようこそ、ミルフィオーレへ。ツナヨシ・サワダ。いや、ドン・ボンゴレ」

上っ面だけの作り笑顔の青年は綱吉に手を差し伸べた。綱吉はその手をそっと握ると、柔らな表情で切り返す。

「お招き頂き光栄です。ドン・ミルフィオーレ、白蘭」
「あぁ、それ言い難いでしょう?だから、ファーストネームだけで呼び合いませんか?綱吉君?」
「えぇ、いいですよ。白蘭さん」

座るように進められ席に着いた。その両側には、獄寺と山本が囲んでいた。白蘭側も白と黒の色違いの制服に身を包んだ重役と思しき者達が並んでいた。

「率直に話せばね、綱吉君。君達の持っている、そのリングを僕らにくれないかな?」

ニヤニヤと笑う敵は単刀直入に言い放った。綱吉は、呆気に取られながらも首を横に軽く振ると静かに応えた。

「それは出来ません。と、言うよりもうそれは壊してしまったので俺たちの誰ももう持っていません。何故、それが欲しいのでしょう?それに、それだけの為にこれだけの事をしたのだとしたら、許せる事ではないんですよ」
「壊しちゃったの?あーぁ、正ちゃん聞いたらがっかりしちゃう言葉だよ。つまらないねぇ」
「これ以上、無益な戦いは止めて頂けませんかね?俺は、それをお願いしに来ました」
「あっはっは!こりゃ、面白い!マフィアが、争い事しないなんて本末転倒って言わない?」
「だとしても、命が危険に晒されるのは放っておけない」
「で、君はのこのこココに来ちゃったって訳?」
「…」

嘲笑が部屋中に広がり、獄寺と山本は怒りを堪えるのに必死だった。それなのに、綱吉はどこか冷めたままさらりと受け流し笑う。

「えぇ、可笑しければ笑ってくれて良いんです。俺は、殺すのは好きになれない。そんな事に意味を見出せないから」
「貴方に賛同しているマフィア達は、何でそんな言葉について行けるんだろー?君のその体で、誑し込んだりしたの?」
「んだ…」

白蘭の言葉に怒鳴り返そうとした獄寺の手を引き、首を横に振ると綱吉は真面目な顔で言い募った。

「俺の事をどう言おうと思おうと、貴方の自由ですよ。でも、他の人間を中傷するのは頂けないことですね。貴方の目的が、リングだけだと言うのなら申し訳ないが、渡すことは出来ない。諦めてください。そして、これ以上この国をこの街を生活している人達を傷つける行為はしないで欲しい」

その言葉に反対に白蘭は表情を一変させた。冷酷な野獣の様なその眼は笑っていない。

「じゃ、リング無いなら君を頂戴よ」
「出来ない」
「つまらないよ。それじゃ」
「でも、出来ない相談だよ」
「あっそ。気に入らないねぇ。いっそココで死んじゃう?」
「それも、断る」
「あ、拒否権ないからね?」

言うや否や、素早い無駄の無い動きだった。一発の銃声が響き、綱吉の胸を貫通した。一瞬の出来事過ぎて、守るどころではなかった。獄寺と山本の隣にいたのに、何も出来なかった。ただ、そこから綱吉を担ぎ出して逃げるのだけが精一杯だった。
山本が担ぎ、獄寺が逃げ道をダイナマイトと匣を使って切り開いていく。

「ツナ、死ぬんじゃねぇぞ。今、直ぐに医者に連れてくからな」
「十代目、気をしっかり」

綱吉の薄れ行く意識の中で2人の声が聞こえ、口端しから赤色が流れ出した。必死に乗ってきた車に滑り込むと、後ろのシートに綱吉を横たえさせて直ぐに車を発進させた。
話し合いの場に着ていくお気に入りの白いスーツに真っ赤な薔薇の華にも似た、血溜まりがジワリジワリと広がり山本は必死にその傷口を持っていた布で押さえた。

「ツナ、頑張れよ。お前が死んだら、意味ネェんだって。解ってるんだろう?」
「十代目、しっかりして下さい。俺、守れなくて…」

2人の必死な言葉に綱吉は気力を振り絞り、呟いた。

「ご・・めん…めい…わくか……けちゃ…た」
「しゃべるな、な?ツナ。頼む、頼むから!!」
「や…ま…?ない…て…ご…く…」

山本も涙が綱吉上に落ち、獄寺は綱吉が彷徨わせる様に差し出した手を握り締めた。

「ここに。俺たちは無事です。だから、十代目もどうか…どうか…」
「…よか…た…」

2人とも無事で、と笑う綱吉の目尻に涙が滲み一筋流れ落ちた。そして、最期の言葉を遺し息を引き取った。

『みんな、ごめんね』

LIER-4(骸綱)

綱吉は、窓から空を見上げて一伸び体を伸ばした。


時間は残り少ないな


限られた時間の中で、やらなければならない事は沢山あった。勿論、秘密裏に行わなければならない事も。着替えを済ますと、山本と獄寺が帰還報告に来る前に済まそうと机に向かいペンを走らせた。


「十代目、本気ですか?」
「うん。そうだよ、獄寺君」
「ツナ、悪い事は言わねぇから、考え直せねーかな?」

山本のその問いかけに対しても綱吉は首を縦に振る事はなく、だた静かに2人を見つめた。二人が心配するのも尤もだった。
だってそれは、死にに行くことと同然だったのだから。

「何で、敵の指定した場所に行くのに丸腰なんすか?理解出来ネェっすよ、十代目!!」
「そうだぜ、ツナ、ここに居るのならば判るんだけどさ。ここは獄寺の言う事に従って、銃だけは持っていってくれないか?それと、俺たちの同席も認めて欲しいのな」
「話し合うだけだから、大丈夫じゃないかな?同席は、相手が良いって言ってくれなくちゃ出来ないでしょ?」
「バッカ言わないで下さいよ!十代目、これは遊びじゃないんですよ。奴らがしてきたことを考えれば、丸腰で敵地に行くなんて『殺して下さい』って言ってるのと同じなんすよ。貴方が居なければボンゴレはどうなります?俺たちに賛同してくれてる、仲間のファミリーはどうしたらいいんですか?十代目!!」

荒い息の下で獄寺が言い放つと、綱吉は一旦目を閉じて言葉を紡いだ。

「そっか。そうだね。俺の命って軽くないんだったよね。気は進まないけど銃を護身用に持って行くよ。それなら、いいんでしょう?」
「んあぁ?!!どうしてそう、なんですかぁ!!いいんでしょう?じゃないんです。持っていて当たり前。足らないくらいですよ!!十代目が使える銃なんて、子供が使うちゃちなのと大差ないんすよ?判ってますか?マシンガンでも背負って行って欲しいくらいです。それに、何も話し合いの場所は敵地でなくてもいいじゃないですか」
「あぁ、それは俺も同感だぞツナ。場所くらい、コッチで指定しちまってもいいんじゃないか?」

言い寄る2人に綱吉は苦笑しながら、答えた。

「もうさ、それは決まっちゃてるし無理だよ。第一、2人がついて来てくれるんでしょう?なら、大丈夫だよ、ね?」
「ね、って…ツナぁ、お前もうちっと危機感持った方がよくね?」
「あぁぁぁ、もう!!判りましたよ、十代目。俺とこの野球バカで全力で貴方を守りますから!!」
「ありがとう、獄寺君」

甘ぇぇんだよ、お前と山本に脇腹を突かれながら獄寺は、結局折れた。本当は、嫌な予感がしてならないのだが、そんな事を今この場で口にするのも憚られ、獄寺はそっぽを向く事で誤魔化した。

「じゃ、明日ヨロシクね」
「はい、十代目」
「あぁ、判ったよ」

綱吉の部屋を出ると険しい表情になった2人はそのまま、廊下を只管速足で自分達の部屋に向っていった。

「なぁ、ホントにあれでいいのか、お前?」
「良いも何も、十代目の意思に逆らえる訳が無いだろう?部下だぞ?」
「あぁ、でもツナは部下だとは思ってないって。判ってる―」
「ヤな…嫌な予感がしてならねぇんだよ。このバカ、お前盾に成れるんだろうな?」
「アッタリ前だろ?そう言うお前はどうなんだよ?」

きっと睨まれ山本は苦笑した。

「あぁ、お前は今も昔も変わんねぇのな。いや、基本誰も変わっちゃいねぇか」
「バッカ野郎が。死んで守る事に意味はねぇんだよ。死なずに守り抜くんだよ、それは十代目が一番望んでいる事だろーが」
「あぁ、誰一人として欠ける事無く無事で、がツナの信条だったけな」
「お前は、やっぱり野球バカだな」
「うるせぇーよ」

互いの隣り合う扉の前で、顔を見合わせた。

「明日は何が何でも守り抜くぞ」
「あぁ、ツナが生きて帰る事が最優先。俺たちもな」

覚悟を決めた男達の夜は静かに更けた。

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