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Missing you (雲綱) 8

緑鬱蒼と生い茂る中を小枝を掻き分け奥へと足を進める。茂みがぽかりと開けた場所に、綱吉の眠る棺が置かれていた。木漏れ日に黒光りする棺に刻まれた『VONGOLA X』。

「…」

その横に立ち尽くし見下ろしていた雲雀だったが、膝を折り身を屈めて棺の蓋を開けた。
そこに眠る彼は、まるで眠っているかの如く穏やかな表情をしている。胸元で組み合わされた両手だけが、現実を示していた。
そっと手を差し伸べて頬を触っても、温もりは感じられない。

「本当に、君は残酷だよ。僕をおいて逝くなんて。ねぇ、綱吉?」

頬を一筋涙が伝う。

「ねぇ、あの手紙は何?何の期待をさせたいの?」

返事はない。静まり返った茂みに微かな風に揺れて動く葉の音がしているだけだった。
頬を優しく撫でながら、雲雀は更に問う。

「君は何かを知ったのかい?それは…」

一陣の風が雲雀の髪を乱した瞬間だった。何かが雲雀の中に届いた。

「あぁ…そう言う事」

少しだけ顔を歪めて笑うと、雲雀は綱吉に口付けをした。
冷たい唇に触れた時、雲雀は腹を括った。

「君の最期の我侭。聞いてあげる。綱吉、愛してるよ」

最後の台詞は消え入る様な小さな音だった。雲雀は棺の蓋を閉めすっくと立ち上がると先程来た道を戻って行った。

雲雀はその後、日本から姿を消した。
過去からの贈物が届くまでの時間を、無駄に過ごさない為に、彼の意思に添える様にと。


いなくなった君のお願いを、叶えてあげる
嘘吐きな君の、愛していた君の、最後のお願いだから
僕の大事な君の…



初稿 08.07.09
改稿 08.08.19




→後記

すみません、捏造しまくり放置しまくりでアップが遅れました(汗)
暗い感じであれですが、次回は明るいお話を書きたいものです。はい。
長くてすみません。

Missing you (雲綱) 7

「ワォ。何の冗談だい?山本武」

その声に山本は眉根を寄せてもう一度だけ言った。

「冗談なんかじゃない。ツナは死んじまったんだよ。俺と獄寺で連れて還って来た」

山本の声は悲痛な色を帯び、眉根も微かに寄せられている。綱吉の死を受け入れる事は誰もが辛く深い悲しみの海へと落ちて行く感じがした。
雲雀は無表情なまま無機質に言った。

「そう。簡単に逝ったね」

その言葉と共に雲雀は背を向けた。誰にも見せる訳にはいかない。今のこの表情を。
山本はその言葉に雲雀の背を見つめ、去り際に一言だけ残した。

「ツナは並盛のあの場所にいるから。逢ってやってくれないかな」

かつんと響く無機質な靴音は徐々に遠ざかり、1人残された雲雀は拳を強く握り締め力任せにテーブルを叩いた。

「バカなっ!バカなっ!何でっ!!あれだけ言ったじゃないか!無事でいろと。何で僕の前から勝手に居なくなる!そんなの、そんなの赦さないっ」

流れる涙ははらはらと落ちる。
あの日、笑って別れたのが最後だったというのか。今思えば、あの恥ずかしがり屋の彼が妙に積極的な所があった。どうして気が付かなかったのだろうか。


君はもうあの時から、こうなることを予感していたというのかい?
だとしたら…


「君は何て残酷なんだい?約束をさせておいて、自分で破るなんて…」

ワナワナと震える手は強く握り締めすぎて白くなっている。それでも尚、力を込めて握り締めた。先程渡された手紙が胸元で存在を主張するかの様に、カサリと動いた。雲雀はそれを手に取り、ゆっくりと広げた。
そこに書かれていたのは、息をする事さえ忘れてしまう程の思いが溢れたものだった。


『雲雀さんへ

ごめんなさい。
こんな事しか選べなかった俺を、許して下さい。これが、最善の策だと判断したんです。俺の独断です。だから、決して他の人を責めたりしないで下さい。雲雀さんは、そんな事しないの判ってますけど、一応お願いです。これは、他の皆にも頼んであるんですよ。
そして
幸せな時間をありがとうございました。ダメツナな俺だったけど、愛してくれて本当に有難うございました。誰よりも幸せでした。
だから、お願いです。
これからも、自分を大切に生きて下さい。無理はしないで欲しいんです。

この世界を変える為に…
また逢いましょう?
その時は、お手柔らかにお願いしますね。

ありがとう、さようなら。                 沢田綱吉』


「何?訳…わから…な」

頬を伝う涙が引き、平静さを取り戻すまでの時間、部屋から一歩も出ず雲雀は考えていた。
この手紙の意味はなんなのかと。何故、命を失ったのに『また逢いましょう』なのかと。
雲雀は、答えを引き出す為に綱吉のいる場所へと向った。

Missing you (雲綱) 6

雲雀は並盛の地下基地の自室で資料の纏めをせっせとこなしていた。匣の研究はどこまでも奥が深く、行き着くところを知らない。この世の一般的な知識だけでは起こり得ない事象ですら、今のこの世界では当たり前となってきている。たかが、数年でこの世界は劇的に変化し過ぎた。
何もかもが、急ピッチで訪れ崩壊して行く。


人間の業って訳だね


雲雀は1人ほくそ笑むと、黙々と作業を進めた。


「恭さん、いいですか?」

中学の風紀委員の頃から付き従っている草壁が、尋常ではない様子で声をかけた。雲雀は、訝しく思いながらもそっけなく入室を促した。

「失礼します。恭さん、至急という事でボンゴレの山本より連絡が入りました」
「で、何だって?」

顔を上げもせず雲雀は促す。草壁は言い難そうに口を開いた。

「沢田綱吉の件で、こちらに来たいと…」

雲雀は、ゆっくりと顔を上げ無表情なまま問い返した。

「綱吉の?」
「…こちらに、山本を連れてきます」

そう言うだけ言って草壁はその場を後にした。
嫌な予感がした。雲雀は、薄っすらと背中に走る悪寒にらしくもなく身震いした。何かが零れ落ちていく、そんな感じだった。
開かれる事のない筈のボンゴレと雲雀の地下基地を繋ぐシャッターが開かれ、草壁はそこに立っていた山本を招き居れた。
雲雀の居室までの道すがら、そっと確認してみる。

「先程のお話は、本当でしょうか?」

見かけとは違う優しい男は、突きつけられた現実に戸惑っていた。山本は見ればいつもと変わりない姿で立っていた。手には一通の手紙を持ってはいたが。返された言葉も、なんら変わらない口調だった。

「あぁ、本当だぜ。ツナは死んじまったんだよ。あっけなくな」
「…アノ沢田がですか?」
「そう。誰よりも強くて誰よりも優しかったツナが」
「そうですか…」
「雲雀には?」
「いえ、話してはありません。貴方から事実を話してやって下さい」

そう言葉をかけると草壁は体の向きを変え山本に軽く頭を垂れた。そして辿り着いた扉の前で控えめに声をかけた。

「恭さん、山本をお連れしました」
「…いいよ」

その声を聞くと直ぐに扉を開け山本だけを中に入れて扉は閉められた。
雲雀は机の端に腰掛て山本を見ていた。山本は、努めていつもと同じ様に話しかけた。

「雲雀、これツナから」

見れば一通の手紙。宛て名は『雲雀さんへ』と書かれている。その余り上手くない字は彼のもの。雲雀はそれを受け取ると、中を見ずにジャケットの内ポケットへとしまいこむ。その様子を見ながら山本は口を開いた。

「ツナがな、死んだよ」

その言葉はなんと?今なんと?

Missing you (雲綱) 5

「いってらっしゃい、雲雀さん」
「行って来るよ。綱吉も気を付けて」

そう言うと専用ヘリに乗り込み空へと舞い上がった。
雲雀を乗せたヘリが見えなくなるまで、綱吉は空を見上げていた。


ごめんなさい、雲雀さん。
約束破るのは俺かも知れません。
もう戻れないんです。その為に―
この世界を変える為に…
許して下さい

綱吉はこの後ミルフィオーレに出掛けた。
白蘭と交渉する為に。この馬鹿げた行為を直ぐ様やめる様に言う為に。何が待っているのか、超直感で解りきっていた。それでも、この腐った世界を変えられるのならば自分1人の犠牲なんて安い代価ではないか。
止める山本、獄寺を諭し、綱吉は出掛けた。
それが、最期の姿になるとはこの時この2人も知る良しもなく。側近として当然の様に付き添って居たのに、守る事すら適わなかった。

白いスーツに一輪の深紅の薔薇が花開き、綱吉はそのまま倒れた。
その場から、2人はどうやって綱吉を抱えて戻ったのか解らなかった。返り血で汚れた山本とダイナマイトと拳銃の硝煙の匂いをさせた獄寺が、必死に本部まで戻ってきた。

自室のベッドに横たえさせられた綱吉は、もう起きる事はない。獄寺はゆっくりと綱吉の両手を握るとそのまま胸の上で組ませた。体温のなくなりかけたその手に涙がぽたぽたと落ちる。

「十代目ぇぇぇぇ〜っ!!!」

叫んだ獄寺はそのまま崩れ落ちベッドについた両腕に頭を埋めた。その後ろには、無表情なままの山本が佇んでいた。
目の前のこの光景を受け入れれば、全てが壊れてしまう気がした。しかし意外にも、涙は流れずに冷静にこの状況を処理始めた。


あぁ、キャバッローネのアイツに連絡しねぇとな
後、雲雀と笹川先輩とヴァリア―の連中もか。骸は連絡取れるんだっけ?


かしかしと頭を掻きながら携帯を片手に部屋を出た。
連絡の付いた連中は直ぐ駆けつけたが、雲雀、骸と連絡がつかずそのまま諦めた。やるべき事は一応やったのだから。
綱吉の周りで泣き咽ぶ連中のを部屋の片隅で見ている山本に、フゥ太が声をかけた。

「武兄ぃ、ツナ兄ぃの机に有るのはもしかして…」

ドタバタで気が付きもしなかったそれらを手に取ると、それぞれの守護者とツナの大事に思っていた人々の名が書かれていた。それぞれをそこに居た人間に手渡すと、自分宛の手紙を広げた。目を通すとくしゃりと握り、綱吉を見やった。


お前、解ってて?
俺にそれを頼むのか…


山本はたった一言言葉を発した。

「帰ろうぜ、並盛に。ツナ」

綱吉の亡骸はひっそりと夜陰に紛れる様にしてイタリアを発った。側近の2人に守られて、生まれ育ったあの街へと向った。

Missing you (雲綱) 4

「何か、お土産でも欲しい?」
「お土産?」
「そう。君の我侭聞いてあげるよ」
「本当ですかぁ?」
「嘘吐いた事なんてないでしょ?」
「そうですね。じゃ〜何がいっかな…」

あれやこれや言いながら迷う綱吉を微笑ましく見つめながら、雲雀はふいと窓の外を見やった。陽が傾きかけ、青空に朱が走り始めている。

「…決めました」

その声に視線を移せば凛とした表情に変わった綱吉が居た。

「で、何にしたの?」
「はい。絶対に無事に戻って来て下さい。それだけ、です」
「無事?」
「はい。それが1番重要ですよ。無事で居てくれたら、いつでも逢えるから」
「言うね、君も」

へへへと照れ笑いをした綱吉の鼻を軽く摘むと、そのままその手を頭に廻しくしゃりと髪を撫でた。

「だって、俺にとっての一番のお土産ですよ。皆が傷つくのも嫌ですもん。でもそれ以上に、貴方が傷つくのは辛いから。雲雀さんが強いのは知っています、でも、やっぱり無事を祈らずには居られないんですよ?」
「解ったよ、綱吉。君との約束だ。必ず無事に君の元に戻って来るよ。これで、いいかい?」
「はい」

お腹が空いたと言う綱吉を連れて雲雀は夕食を食べる為に、車を走らせた。
2人きりで摂る食事は久々で、時間はあっと言う間に過ぎ去って行く。

「ふぅ〜。美味しかったぁ。ごちそうさまです」
「ごちそうさま」

満足な綱吉をそつなくエスコートして雲雀は、邸への帰路を回り道をしながら辿った。その車中で、上機嫌な綱吉は鼻歌を歌っていた。

「どうしたのさ?」
「へへ。だって、凄く嬉しいんですっ。美味しいモノ食べて二人で居られるんですよ?幸せじゃないですか」
「そう?」
「もう、雲雀さんてば。小さな幸せが1番良いんですよ。もう、俺と居ても嬉しくないとか言うんですか?」
「そんな事言ってないじゃない。全く、君は機嫌がいいんだか悪いんだか」
「雲雀さんのせいですよ」
「僕のせい?」
「えぇ」

ぷいとそっぽを向いた綱吉に、苦笑交じりで雲雀は声を掛けながら綱吉の顎を摘んでこちらを向かせる。

「それは悪かったね。機嫌直しなよ」

そう言いながらキスをした。綱吉は頬を紅くしながら喚いた。

「ふぁ、ズルイです。もう…雲雀さんのバカ…」
「え?今なんて言ったの綱吉」

ゆらりと立ち上る黒いオーラに綱吉は慌てて訂正をすると、ポスンと雲雀の胸に頭を預けた。

「雲雀さん。好きです」

毒気を抜かれた雲雀はそのまま抱きしめると、耳元で囁いた。

「あぁ僕もだよ」

朝が来れば、雲雀はこの地を離れる。それまでの束の間の幸せを精一杯噛締めながら、夜を過ごした。
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