「ツッ君、コレも持って行って」



そういって母親から渡されたのは、小さな瓶に入っている茶葉だった。

綱吉はバッグに入れながら、口早に礼を言いながら元気良く出て行った。


「もう、忙しい子ねぇ」


母親はそう言いながら笑いながらキッチンへ消えた。

精一杯、自転車を漕ぎながら綱吉はとある場所を目指す。母親に頼んで作ってもらったケーキは2個ある、勿論、1個は煩い骸用で残りはクローム達3人にだ。

綻ぶ頬をそのままに綱吉は、必死になってペダルを漕いだ。





「クフフ。待ち遠しいですねぇ。まだですかねぇ?」



背中には花を背負った骸の呟きに、犬はげんなりしたままぼやいた。



「…骸しゃん、ウザいびょん」


無言で同意しているのは千種で、クロームに至っては両手を組んで頬を赤らめながら骸を応援している。

三者三様の視線に見守られながら、骸は愛しの綱吉の到着を待った。

そんな折、視界の隅にふわふわのクセ毛が見えると、骸はクローム達に言った。



「さぁ、お前たち。綱吉君の到着ですよ。迎えに行って来なさい」



言われたまま三人は綱吉を迎えに行った。



「はぁ…なんれ、オレまでぇ?」
「…煩いよ、犬」
「…あ、可愛いボス」


クロームの台詞に、思わずぎょっとした2人だが敢えてそこはスルーしておく事にした。

綱吉はくたくたになりながら、やっとの思いで黒曜センターに辿り着くと、見慣れた3人の姿を視界に捉える。自転車を折り、押しながら側まで行くと笑いかける。



「こんにちは。骸、いるよね?」



流れる汗をミニタオルで拭き、綱吉の乗ってきた自転車は千種が止め、クロームが手荷物を持とうとしていた。

綱吉は、慌ててクロームに声を掛ける。



「あ、クローム。ソレ1個はクローム達で食べて貰える?」
「え?私たち?」
「え?何々?何くれんの、うさぎちゃん」



尻尾を振り切れんばかりに振りまくっている犬に、一同笑いを隠せなかった。


「・・・バカ」
「バカとはなんら、エロメがね」



何時もの2人のやり取りを余所に、クロームは綱吉に話し掛ける。



「ボス、有難う。皆で食べるね」
「うん。母さんの自信作だって。あとね、コレ煎れてもらってもいいかな?勿論、皆で飲むんだけど」



渡された小瓶を見つめながらクロームは、笑顔で答えた。



「うん。いいよ、ボス。さぁ、骸様待っているから、早く行こう?」



だね。と頷いて歩き出した2人の後を喧嘩したままの2人も後を追った。

クロームに案内された部屋に入ると、窓を背に骸が腕組みをしたまま立っていた。どうも、不機嫌そうに見えるのは気のせいだろうか。



「お待たせ、骸」
「…遅すぎです。一体何時まで待たせる気ですか?ボンゴレ」

ボンゴレと呼ぶときは決まって期限が悪い。原因は、何時までも会いに来なかったことだと直ぐに分かった綱吉は、一つ深く息を吸い込みゆくりと歩み寄った。



「ゴメン。ゴメンな骸。ほら、母さんに頼んでケーキ焼いてもらったよ?一緒に食べよ?」
「・・・何してたんですか?」「うん?クロームにお茶煎れてって頼んでたの。母さんが、コレも持っていってって言うからさ」
「それで?」



少しだけ間をおく。タイミングよくクロームがお茶を煎れて部屋に現われた。柔らかな甘い香のするお茶に、鼻腔を擽られ綱吉は華やいだ笑顔を見せると骸に言った。



「なぁ、もう止めてお茶にしよ?」
「…そうですね」



いそいそとソファに腰掛けて綱吉はクロームが準備してくれている様を眺めた。



「ありがと、クローム。いいにおいだね〜」
「うん。ボス。凄くいいにおいだよ。骸様は、ここでいい?」



クロームが首を傾げながら問い、それに首を小さく縦に振った。そのまま綱吉の真横に座る。所謂、彼の定位置なのだが。クロームが気を利かせて出て行くのを見送ると、綱吉は骸を振り返る。



「誕生日おめでとう!骸」



そう笑顔で言いながら、母が焼いたケーキの箱を差し出した。骸は、無表情でソレを受け取ると、リボンをしゅるりと外して箱を開けた。

そこには、大好きなチョコブラウニーがあり、拙い白い字で「おめでとう、むくろ」
と書いてある。骸は、目尻を赤くさせながら言った。



「ありがとう御座います。僕の大好きなモノ、覚えていてくれたんですね?紅茶も、いい香です。綱吉君」
「喜んでくれた?よかった〜。じゃさ、食べよ?」
「いいですね。じゃ、食べさせてくれますか?」



にっこりと微笑む骸に、綱吉は一瞬戸惑いを覚えたが、直ぐにクロームの用意してくれたフォークで一口分取ると、無言で差し出した。そんな彼に、骸は片眉を少し上げて小さく溜息を吐いた。



「何か一言足りませんよねぇ?綱吉君」
「お、おま。恥ずかしいだろ、言えるかよ」



照れまくる綱吉に骸は更に凶悪に笑いながら、言い募る。



「言・い・な・さ・い」



こうなったら観念するしかない。綱吉は頬を真っ赤にしながら自棄になって言い放つ。



「あ〜んっ!!」



そんな綱吉に蕩ける様な笑顔で口を開けて、ケーキを待った。口に広がるほろ苦いチョコの味が幸せを噛締めさせる。

骸は口元を綻ばせて笑う。



「美味しいですよ。そう、奈々さんにお伝えください」
「うん。伝えるよ。じゃ、俺も一口…」



そう言って自分の口元に持っていこうとした右腕は不意に掴まれ、そのまま骸の方へと向けられた。あっと抗議の声を上げる間もなく彼の口に消えたケーキは、綱吉に口移された。驚きのあまり目をパチクリしている綱吉に、骸は満面の極上の笑みを向け
る。



「幸せすぎて、何だか夢でも見ている気分です。ねぇ、こんなに幸せで良いんでしょ
うか?」



もぐもぐしていた綱吉はごくりと口の中の物を飲み込むと、真剣な眼差しで応える。



「良いんだよ。お前が生まれてきた日だよ。祝われて当然だよ。俺だって、ここにいる皆もお前の事祝ってるからさ。素直に受け取っとけな?」
「綱吉君」
「あ、忘れるとこだった。コレ、大したもんじゃないんだけどさ。プレゼント」



ついでと言わんばかりに差し出された小箱を、大事そうに受け取るとゆっくりと開けた始める。さっきのケーキの時と違い手が震えるのは何故だろうか。カサコソと包み紙を取り、箱を開く。



「…これ」



高級店のチョコが一粒だけ。それも、骸が大好きな店のお気に入りの一粒。彼を見つめると、照れ隠しに頭を掻きながら視線を泳がせている。



「…それが精いっぱいでさ。ごめんな?」
「何言ってんですか…最高のプレゼントですよ」
「ホント?」
「えぇ。ありがとうございます。食べるのが勿体ない位ですよ」
「いや、食えよ。ってか、食べちゃって下さい」
「今?」
「あ?うん、別にいつでも良いんじゃな…」



綱吉の言葉を最後まで待たずして、骸はチョコを口に頬張ると綱吉の唇にそっと己のそれを重ねる。

隙間から、流れ込むチョコの甘さにいつしか綱吉も気を取られ口を開いた途端に、骸の舌が侵入してきた。ゆっくりとチョコと綱吉を味わう骸は極上の幸せを噛締めていた。



「本当に有りがとうございました」

「ば、バカ。キスなんかすんな…」



照れる綱吉の耳元に甘い囁きを一つ。



「愛しています、綱吉君」







-end











何かもうぼろぼろでごめんなさい。