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Call my name-12

「あはは!お前って、可愛いとこあんのな?骸」
「なっ!!君、何言ってるんですか!!」
「…骸様、可愛い…」
「クロームっ!!」

穏やかな雰囲気で包まれたその空間は、やがて終りを告げる。骸の足元がうっすらと消えかかっていた。

「おやおや、どうやら時間の様ですね」
「骸、逢えて嬉しかったよ」
「クフフ、そうですか」
「骸様…」
「クローム、安心しなさい。また、いつもと同じになりますから」
「骸…」

時間ですと笑って消えた骸の声が綱吉の頭の中で木霊した。

『僕の名を呼んで下さい。僕の名を、その声で。貴方の声で。僕の名前だけを』

「…約束…な」

小さく呟いた綱吉の言葉の意味は誰にも分からなくともいい。それは、綱吉と骸の間にだけ交わされた小さな約束、甘美な愛と言う名の呪縛。





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*相変わらず長くてすみません…

Call my name-11


微かな名を呼ぶ声に骸は薄く笑った。
片手には三叉槍、もう一方には霧のリング。もう、何の迷いもなかった。唯唯一、彼だけの為に有るのだと心に決めて、骸は歩き出した。

「綱吉君、少々煩いですね。どうせ、呼ぶならもっと甘く呼んで下さいよ」

そう言う骸の言葉は柔らかく響いた。

綱吉はそっと目を開き、クロームを見つめて苦笑した。

「ダメだったみたいだね?」
「…ボス…」

ダメ綱だからねと照れ笑いする綱吉に向かってクロームは、そっと抱きついた。

「く、クロームぅ?!」
「…ボスが悪い事ないわ。ボスは、優しいしあったかいもの」
「あ、ありがとう…」
「骸様も私も、だい―」

その時だった。突然、煙が現れその方を見ていると姿が現れた。

「骸?」
「「骸様?」」
「骸しゃん!?」

そこにいた者がそれぞれの呼び名で彼を呼んだ。

「クフフ…」

見覚えのある房が揺れている。独特の笑い声も彼そのもの。現れた彼は、瞬時に顔を引き攣らせた。

「ちょっと、いつまで抱きついてる気です?綱吉君」
「へっ?」

その言葉に我に帰れば、綱吉にクロームは抱きついたままだった。慌てて身を剥がして笑うが、骸は不機嫌極まりなかった。

「折角、急いで片をつけたと言うのに。どう言う事ですかね?クロームにまで手を出したら承知しませんよ」
「いやいやいや、手出してませんから!抱きつかれただけだし!」
「…ボス…」
「酷い男ですね、君って人は。クロームを傷つけましたね?全くこれだから―」
「うわぁ、ごめんごめんなクローム。悪気はないって、信じて?ってか、骸の言い方酷くね?」
「酷い?貴方にこそ相応しいその言葉ですから、熨斗をたっぷりと付けて返して差し上げますよ」
「うっわ〜、何、何その言い方!人が心配して来てやったって言うのに!」
「…頼んだ覚えは、一切ありません」
「そうだけど!心配だったから来たんです」
「…で、クロームに抱きつくんですか?」
「は?おまっ、まだそこに…って、え?」


―まさか?まさか、まさか?
クロームに焼きもち焼いてる?骸が?


Call my name-10


いつの間にか見慣れた扉の前まで来ていた。犬がドアを開けて中に入るとボロボロのソファにちっさくなって蹲ってる彼女がいた。綱吉は、足早に寄ると彼女の小さくて細い肩を掴んだ。

「クローム、大丈夫?」
「…ボス…?」

弱々しくか細い声に綱吉の胸は更に痛んだ、そんな綱吉にクロームは縋る様に泣きついた。

「骸様と…連…絡が…取れ…ない…」
「…え?」

彼女の言葉に言葉を失いつつ綱吉はごくりと唾を飲んだ。そんな彼の背後から、声が掛った。

「ボンゴレ、どうにかならないのか?」

千種の申し出にどう答えていいものか、綱吉は考えあぐねた。夢の中で見たものを言った所で信じて貰えるのだろうか。それよりも、言っていい事なのだろうか。

「俺…夢の中で骸に…逢ったんだ…」
「ボス?」
「…ボンゴレ、それはいつ?」
「今日の昼過ぎ位…」
「…で、骸様は何か言ってなかったか?」
「…また逢いましょうって…だから、直ぐにここに来てみたんだけど」

綱吉の言葉に2人は黙ってしまった。
そんな2人を綱吉は交互に見つめた。そして、千種はクロームを見ると何かを思いついたらしく口を開いた。

「クローム、ボンゴレと手を握ってみてくれないか?」
「…千種?別に構わないけど…ボスは?」
「えぇ?ななな、何で?」
「…そんなに驚く必要はない。クロームが媒体になってボンゴレを骸様がいる世界に行って貰うのはどうかと思ったんだ」
「…出来るかしら?」
「…うん、簡単に出来るのかな?」

不安だった。確か、骸はクロームに来れない様にしたのにって言っていた。たまたま、自分はひょんな事から行ってしまっただけだと思っている。それなのに、そんなに簡単に行けるのだろうか。

「やってみて」

そう言われてクロームの手を取って綱吉は深呼吸して、笑いかけた。

「頑張って、骸呼んでみようか?」
「…うん、分かったわ…ボス」

綱吉は繋いだ手から温もりと鼓動を感じながら、瞑想し骸の事を考え続けた。


―骸?骸?
なぁ、出て来てくれよ?みんな心配してるよ?
骸―



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Call my name-9


「分かりませんか?」
「…むくろ?」

見上げる綱吉の額にこつんと自身の額をあてて、笑いながら骸は囁いた。

「君だけですよ。こんな僕を見れるのはね」

その珍しいまでの笑顔に綱吉は言葉を失った。
そんな綱吉に骸は、名残惜しそうに言った。

「さぁ、君はもうここから出るんだ。いいですね?」
「でも、骸は?一緒に帰ろう?」
「クフフ。大丈夫ですよ、また向こうで逢いましょう。さぁ、君はもう行くのです」

とんと背を押され綱吉は体のバランスを崩し、何歩かヨタヨタと前に進んんだ。体勢を整えてから振り返ると、薄暗かった世界は一変しいつもの草原が広がった。そこには、自分以外の存在はなかった。
叫ぼうとしたその瞬間、綱吉は現実に引き戻された。

「ツ〜ナ〜。起きろ〜、ランボさんと遊べ〜」
「ぐはっ…」

おなかの上に全体重を押しつけられて綱吉は眼を覚ました。目を開けると、ランボがいつもの様に駄々をこねて騒ぎ出した所で、大概リボーンに一括されるのだがいない事をいい事に甘え放題になったのだろう。綱吉は、暴れるランボを余所に慌てて周りを見回した。
ランボ以外いる訳はないのに、その姿を探さずにはいられなかった。時計を見れば、まだ宵の口が始まった所だった。幸いに、外は綺麗な夕焼けが現れ始めた所だった。綱吉は、取る物も取敢えず転がる様にして部屋を飛び出した。

「ランボ、ごめんな。帰って来たら遊ぼうなっ!」

その一言を残し、全力であの場所へと急いだ。きっと隣町のあの場所に着く頃には陽は完全に暮れてしまうだろう。それでも、それでもこの言い様のない不安を拭い去るが為に走り抜いた。
辿り着いたヘルシーランドは暗がりで一層不気味さを増してはいたが、今はそんな事に構ってはいられなかった。兎に角、この世界で逢うまでは無事だと思えなかった。
ゼイゼイする息を整える間もなく、犬に見つかった綱吉は言い募った。

「何かようか?うさぎちゃん」
「犬さん、骸は?ねぇ、骸いる?」
「骸しゃんって言え!うさぎの分際で、生意気らぞ」
「ねぇ、そんな事より、いるの?いないの?逢えるの?って聞いてるんだ」

その剣幕に犬は頭を掻きながら顎をしゃっくった。

「んぁ〜。骸しゃんならいないびょん。今、いるのはブス女らけらって」
「え?クローム?じゃ、彼女に会いたい」
「…お前、誰に会いにきたんらよ?わっかんねぇやつらな。ま、いいやついて来い」
「ありがとう」

薄暗さに磨きのかかった廃屋内は、道案内がいなければ上手く進めない。犬は最適な道案内と言った所だった。綱吉は、急ぎ足で犬の後をついて行きながら不安に押しつぶされそうな胸をぎゅうと押えた。

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Call my name-8



「うぁ…」

その眩しさに綱吉は腕で目を隠して膝をついた。
そしてゆっくりと目を開くと、少年の姿は消えその変わり見慣れたふさが目の前に見えた。恐る恐る手で触れると、がしっと手首を掴まれた。

「…何してるんですか、君」
「あ…骸?」
「…そうですよ」
「無事なの?」
「えぇ、一応怪我はしていません。どうやら、酷い頭痛も治まりましたし視界が歪んでもいませんからね」
「でも、体中血だら…け…」
「そう言う君も、大分血だらけですよ」

その言葉にやっと緊張感が解けたのか、綱吉は噴き出した。そんな彼を見て、骸自身もそっと胸を撫で下ろした。

「なぁ、骸。ここって何処なのさ」
「…僕の精神世界、と言ったところでしょうか」
「え?お前の」
「えぇ。君、また何でこんな所まで来たんですか?」
「う…よく分からないですけど…」

しどろもどろになった綱吉に、骸は軽く溜息を洩らす。

「…君、器用すぎますよ。クロームにさえ、来れない様にしたって言うのに君って人は…」
「仕方ないだろ。もう、何だよ骸のバカ」
「バカ?」
「そうだよ。俺、すっげ心配だったんだぞ。もう来るなとか、理由も言わないで言うし。そんで、訳の分かんないこんな所で、倒れてるし。そんでちっさい骸にやられそうになってるし…と、とにかく、心配だったんだ」

涙目でそう訴える綱吉を体を起して抱き寄せると、耳元で囁いた。

「僕は、僕と戦わなければならなかったんですよ。僕は、手にすることは出来ないだろうものを欲しいと思った。それは、今までの僕との決別を意味する」
「え?どいうこと…」
「今も憎むべきは変わりませんが、貴方と言うかけがえのないものを手にしてしまったんですよ。沢田綱吉」
「むくろ?」
「貴方に名前を呼ばれる事が、こんなにも嬉しい事だとは思いませんでした。僕はもう君に囚われてしまったのですよ」
「とらわれ…って?」

戸惑う綱吉からそっと身を剥がすと、そのままキスをした。


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