『おい、ツナ。お前調べ物してこい』
唐突なそして理不尽な課題を家庭教師から出された。
綱吉は、ぶつくさと言いながら学校の廊下をとぼとぼと歩いていた。目指す場所は、伏魔殿―否、応接室。
並盛の裏の総支配者、雲雀恭弥が常駐している部屋だった。
誰もが決して近付く事をしない場所で、綱吉とてその例外には有らずである。
応接室が近くなるにつれ、綱吉の足取りも重くなる。
一応、ファミリーだと言い聞かせても所詮、雲雀がそれに甘んじるはずもなく、綱吉が遅刻すれば容赦なくトンファーが振り下ろされる。
怖いものは、やっぱり怖いのだ。
チキン綱吉。ダメツナは伊達じゃない。
そうこうしているうちに、応接室についてしまった。
ドアの前で何度も何度も何度も深呼吸を繰り返し、跳ね上がる心臓を落ち着け様と努力しても収まるどころか、益々酷くなった。
うぎゃ〜、どどどどどうしよ〜
は、入るに入れない〜!!
既に過呼吸気味で頭がグルグルしてきた綱吉は、その場に蹲ってしまった。
不意にドアが開き、思いもかけない人間が現れた。
「うっとおしい。入るのなら早くしなよ」
冷たい声色に恐る恐る顔を上げるとそこに立っていたのは、雲雀だった。相変わらず、肩に学ランを羽織り立っている様は恐ろしい位威圧感がある。
ごくりと喉を鳴らす綱吉が立ち上がれずに居ると、雲雀は徐に腕を掴むと力任せに立ち上がらせた。
「いたっ」
何も言わずに雲雀は綱吉を応接室に引きずり込むと、ソファに放り投げ自分はその隣に座ると、無言のまま隣に腰を下ろした。
ビクビクしながら綱吉は雲雀を盗み見ると、当の本人は分厚い書物を広げて読み始めていた。
どどどどどしよー!!聴けってっ俺っ!!今だ今ーっ!!
軽くパニックを起しつつ綱吉はちんまりと居住いを正しながら、ここに来た本来の目的を漸く思い出した。
その合間、雲雀は何もしてこない。されても、今の綱吉にかわせるだけの余裕もないのだが。
リボーンっっ!!何で、こんな事聞かなきゃなんないんだよ〜っ!!
そうその調べモノとは『雲雀の欲しいものを調べて来い』だった。
だからと言って直接それを本人に聴きに行けとは、一言もリボーンは言ってはいない事に綱吉は気付いていない。と言うか、聴きに行くバカはそうそういないだろう。
間抜けな綱吉は、恐る恐る声をかけた。
「あの〜、ヒバリさん。ちょっと、聴きたい事が…」
ちらりと視線を送った雲雀は、顔色も表情も微動だにさせず声を返す。
「何だい、沢田綱吉」
その声色に一層心拍数が上がる。それが恐怖から来るものでない事に気付かない綱吉は、おどおどしながら質問した。
「あの、ですね…何か欲しいモノありませんか?」
一拍の間が、重く長く綱吉には感じられ背中に嫌な汗が一筋流れ落ちた。雲雀にしてみれば、余りにも唐突な意味の判らない質問だった。
「…それ聴いてどうするのさ?」
当たり前な返答に綱吉は焦りながら、両手を顔の前で振った。
「あ、イヤ、なっ何でもないですっ!!今の忘れて下さいっ」
その慌てぶりに雲雀は意地悪く笑みを浮かべると、読んでいた本を閉じて綱吉に向き直って言った。
「言ったら、それをくれるとか?」
顔を近付けられて耳元で囁かれた言葉は、思いの外甘く艶やかに綱吉の耳に纏わりついたからだ。
『沢田綱吉、君だよ』
その台詞に返す言葉も綱吉にはなく。ただただ、引きつる顔をして口をパクパクさせていた。
だぁ〜っ!!どうしろって言うんですかぁ〜!!
俺に何をしろってぇ〜!!