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母と娘の会話(屍蛮♀家族)


※注意!まず屍蛮は結婚しています。子供もいます。蛮ちゃんは女の子です。
一応、bloglogにあるこれの続きのよーな…。




















「うげぇー、腹がいてぇー……って、あだだ…あだだだ…っ!」



気がつかなければ痛みを感じはしなかったのに、一度そうであると脳がインプットしてしまうともう手遅れ。
絶え間ない鈍い痛みが腰と腹に集中する。
こんな時、常々女は損な生き物だと思う。
一ヵ月に一回、何を好き好んでこんな痛みに耐えなければならないのか。



(神様の不公平っぷりにはほとほと呆れるよなー……マジで、あっちこっちがいてぇーしよ……)



この一ヵ月に一回の痛みに付け加え、女は子供を産むという大役まで担わされているのだから……。
他人事ではないことを何処か別次元のことのように考えながら、下腹部を手で押さえ前屈みになりソファーに身を任せる。
すると、少しは痛みが緩和されたような気がした。
あくまで、それは気がしただけだが。
今は身体を動かすこと自体、億劫で堪らなかった。



「……母さま、大丈夫ですか?」



うーうー痛みに唸っていた、そこへ。
一人娘の深紅がやってきて、心配そうに蛮を窺い顔を覗き込んでくる。
体調の芳しくない蛮を慮る深紅に、無理やり蛮はを笑みを作って腕を伸ばし頭を撫でてやった。



「大丈夫だ、薬が効くまでの辛抱だかんな?」
「………」



じっと深紅は蛮の顔を見つめる。
聡い子供は、どうして蛮がソファーで呻いていたのか状況と態度で分かったのだろう。
たかが、腹痛と腰痛ぐらいで死ぬようなことはないとはいえども、やはり目の前で具合悪そうにされていたら心配にもなる。
それが、大好きな人であるから特に。
だから、深紅は柳眉を歪めた。



「でも……」



母さまの顔、すごく真っ青で心配です。
そう言って、小さな手が蛮の額に触れてくる。
子供体温の温もりに触れて、身を襲う寒気を今更ながらに感じた。



「母さま、寒いんですか?」



微かに震える身体に気付いた深紅が首を傾げた。



「ああ、ちょっと…な?」



あらゆる痛み(腰とか腹とかアソコとか)と寒気と吐き気と。
とにかく、同時に襲ってくるそれに頭が真っ白だった。



「ちょっと待っててください、母さま」



今、膝掛けを持ってきてあげますから!
蛮が何かを言う前に、パタパタと走って深紅は廊下へと駆けて行った。
二階の蛮の部屋にある愛用の膝掛けを取りに行ってくれたのだろう。



(っ、マジで可愛いな、畜生ォ…!)



痛みに呻きながらも、深紅の後ろ姿を追う。
そして、痛みと我が子のあまりの可愛さに吐息を吐く。
何で、あんなに可愛いのだろうか家の子は。
親馬鹿と罵りたくば、いっそ口汚なく罵ればいい。
それを我慢してやれるくらい(我慢した最後には反撃をしまくるだろうが)、何と言っても家の子は総じて可愛いのだ。
好き勝手にやりたい放題な(大いに自覚ありの)自分達の子供であるのにも拘らず、何処をどうしたらあんな礼儀正しい子供が(おそらくは赤屍の教育と、黙っていればそれなりに礼儀正しく見える赤屍に多大に影響されてしまっているのだろうが)生まれてくるのだろうか。
本当に信じられない。
思わず、奇跡を噛み締めてしまいたくなるというもの。
それもこれも、深紅の父親が計画もなしに……いや、あれは計画して行われたことだったのか?
今更どっちでもいいが、子供なんて更々作る気のなかった蛮を孕ませたことからすべては始まってしまった。
今でこそ両親共に溺愛しまくっているが、深紅が生まれる前は色々と……本当に色々とあったのだ。
長くなるのでその辺りはバッサリと割愛するが、当時の記憶を思い起こしてみれば腹立たしいとしか蛮は発言のしようがない。
そんな思い出なのだ。



(なんせ、オレは元……だからなァ?)



薬がやっと効き始めたのか、段々と白くなって視界が霞んでいくような意識に蛮は瞳を細める。
所謂、自分達ができちゃった婚であることはこの際どうでもいい。
できちゃったモンはできちゃったで、仕方がないからである。
ただ問題が一つあるとすれば、それは蛮の方にあった。
というよりも、蛮の身体にか。



(だいたい、オレ様は男だってーの……)



下腹部が痛まないようにゆっくり息を吸って、それからゆっくりと張り詰めている息を吐く。
そして、押さえているなだらかな腹を撫でた。
今でこそ、口調以外は女であることに結構慣れ親しんでいたりするが……正真正銘の元は立派な男。
だから、訳の分からない事態に陥った戸惑いよりも、恐れを感じたものだ。
自分が自分でなくなるそれは予感。
今まで、難なく出来たことが出来なかったり、身長が縮んだり、なかったものがあったりと。
そのなかったものの一つが今の苦しみなのかもしれない。



(難儀な身体だよなぁ)



色んな意味でと、女である自分の身体を振り返ってみる。
何ゆえ、男だった蛮が女なんて生き物になってしまったかというと、忌々しい魔女の血統にこそ原因があった。
魔女は一族の血筋を途絶えさせない為、本人に見合った性別に途中で変異してしまうことが稀にあるらしい。
らしいというのは、マリーアがそう言っていただけで詳しいことは一切不明だからだ。

それは満月の夜のことだった。
折しも皆既月食の夜、戯れに外で致したのがそもそもの間違えだったに違いない。
月の魔力と男の精気をふんだんに取り込んだ身体は、細胞から何から何までを染め替えてしまった。
次代を生むには男のままでは駄目なのだと、魔女である蛮の身体がそう訴えていたのか。
その次の日、朝起きたらものの見事に女に変貌を遂げていた。
あれには参った。



(……何事にも動じない流石のオレ様も、あれにはビビったよなァ?)



ビビるどころか、半泣きなって赤屍を叩き起こし一体全体どうなってやがるのかと問い詰めたのだが。
訳の分からぬことを平然と笑ってやる人間など赤屍以外に……いなくもなかったが、もっとも身近な人間でと断定すればこの時赤屍しかいなかったのだ。
そもそも、人を女にして楽しむ人間など赤屍しか思い当たらず。
が、その赤屍は何も知らないという。
挙句、本気で悩んでいる人間を組み敷き妙に楽しそうな顔で何だか浮気しているようですね、と宣ったのだ。
情けなくも二の句の継げない蛮を余所に、あれよあれよという間に気がつけば処女を奪われて、安易にすぐ元の身体に戻るだろうという考えから奴は中出しまでしてくれた。
その結果が、今の生活である。
毎晩、中出しされまくればそれが健康な身体だったら出来るのも当たり前だ。
和らぎ始めた痛みに吐息を吐きつつ過ぎし過去を思い出していると、深紅が膝掛けを持参して戻ってきた。



「……母さま」
「ああ、サンキューな」



はい、どうぞと。
そう言って差し出された膝掛けで腹部を覆うと、温もりに安堵して勝手に吐息が零れ落ちた。



「もう寒くないですか?」



床に膝をついてしゃがみ込み首を傾げて窺う深紅に、ソファーに横になっている身体を動かし蛮は首を振る。



「あんま、心配すんなって。こんくらい大丈夫だから」



―――な?
薬も効いてきたからと赤屍譲りの漆黒の髪を撫でてやると、コクンと深紅は頷いて自分に何か出来ることはないかと聞いてくる。
その健気な様子に、蛮は我が子を抱き締めたい衝動に駆られた。



(っ……何だよ、このべらぼーに可愛い生き物はよォ…!)



本当に自分の子なのかと我が目を疑うとはこのことか。
まだ動けば痛みが襲うので何とか踏み止どまっているが、もし痛くなかったら完璧に深紅へと抱き着いている。
そして、わしゃわしゃと思う存分髪を撫で回して頬にキスの一つ……いや、キスの雨を降らせているところだった。
が、今日は頬をペチペチと叩いて撫で擦ってやることぐらいのことしか生憎してやれない。
どころか、何をもする気力のない蛮が深紅に慮まれている。
これでは、どちらが年上なのか分からない。



(手が掛からねぇのは良いことなんだけどなァ……)



もう少し、子供らしく我が儘を言ってくれても構いやしないのにと思わないでもない。
そんなところは、両親に似なかったな……と蛮は小さく吐息を零した。
それから、そういう気持ち視線に乗せ伝えるように深紅を見やる。
が、こちらの意図が掴めない深紅はやはりキョトンとしていた。
それを苦笑いで誤魔化し、濡れたように艶やかな漆黒の髪を撫でてやる。
すると、深紅が気持ち良さそうに瞳を細める。
日本人形のように切り揃えた前髪が、とても可愛らしく愛らしさを誘っていた。
どちらにも似た青味がかった黒髪。
性格や容姿といったものは赤屍に似ていても、やはり遺伝子は馬鹿にならないのか……似ている部分が深紅と蛮の間に存在していて、ちゃんと親子であることを証明している。
素直で良い子だが頑固な一面もあり、それがまた愛らしく映るのだから大概な親馬鹿だろう。
腹痛がなければ、深紅を膝の上に乗せて本の一つでも読んでやっていたところなのにと。
本当に残念なことだと今更ながらにそう思った。
その代わりに、蛮は深紅に明日の約束を取り付けることにした。
今日は相手をしてやれなかったが、明日は構い倒してやろうと。



「明日は外に出かねぇか、深紅」
「でも、お腹……」
「明日は大丈夫だ。なぁ何処に行きてぇ?」



何処でもいいぞと問うと困った顔をした深紅が蛮を見る。
何を躊躇う必要があるのだろうか。
子供は我が儘を沢山していい特権があるのに。
明日にはこの痛みも少しは和らいでいるだろう。
完璧にではなくても、家の中で寝転がっているより外で動いていた方が痛みを感じない。
次にそう言ってやれば、深紅は少し考える仕草をした後。
躊躇いがちに、それでもちゃんと自分の思いを口にしだした。



「……ホンキートンクでイチゴパフェが食べたい、です」
「そんじゃ、買い物行って目一杯遊んだその帰りに……ホンキートンクで苺パフェ、な?」
「はい!」



ホンキートンクで苺パフェを食べるだけでいいと、欲のない願いを口にした娘に蛮は苦笑した。
もっと、年相応にお人形が欲しいとか可愛い服が欲しいだと言ってくれてもいいのに……と(服も人形も欲しいと思う前に赤屍と蛮から買い与えられているその事実は当事者以外は知らないものである)
それでも嬉しそうに頷いた深紅を確認したところで、痛み止めの効能による眠気が身体を包んだ。
ふわりと意識が傾いだ気がした。
遊んでやれないのなら、せめてこのまま話し相手になってやりたいのだが、それももう限界のようだった。
身体が休息を求めている。
遊び相手のいないこの部屋に一人っきりにしてしまうことは、僅かばかり抵抗があるがそれも致し方ない。
父親が裏で有名なばかりに、一人で外に遊びにも行かせられないのだ。
よって、知らないところで襲われてはと不安がありすぎることもあり、なるべく外出したいと言い出した時は誰かが付き添うことにしていた。
一人で外出するにはある程度身を守る術を身に着けてから、と。



「……母さま?」
「ごめん…な……深紅……ちょっとねむてー……から、」
「父さまが帰ってきたら起こしますね」
「そうしてくれっと、すげぇー…たす…かる……」



おやすみなさい、母さま。
深紅の声と唇を掠めたキスを最後に、意識が墜落するように闇の底へと落ちていった。










※アレ?気が付けば屍さまが出てこなかった(笑)

かぐや姫(鏡蛮♀→屍)











無限城の屋上で。
先程から、月ばかりを蛮は長いこと見上げていた。
暫くは月を見上げる蛮の姿を無言で眺め見やっていた鏡だったが、あまりにもかぐや姫のように蛮が月を見つめ続けるものだから、流石に心配になってきてしまった。



(君は、何処に行こうとしているんだい?)



鏡はそんな蛮の肩を背後から抱き締めると、耳朶に唇を寄せて囁きを落とした。



「何を考えているのかな?」
「………」



蛮は何も言わない。
ただ、静かに月に誰かを照らし合わせて見ている。
やれやれと、鏡は肩を竦めて蛮の顎を掴みこちらを向かせた。



「君の愛する月は、君をちゃんと愛しているとオレは思うよ?」



それはオレが妬いてしまうくらいに、ね。

そう言った鏡の言葉を、だが蛮は首を振って否定する。



「……信じらんねぇよ」
「どうして?」
「だって、一度もアイツからそんな言葉……オレは聞いたことねぇから」
「まさか……一度も?」



コクンと頷き返した蛮に、鏡は呆れてしまった。



「それだけじゃねぇ、アイツは鏡みたいにオレに触れたことがない」



だから、オレが本当は女だってこともアイツはきっと知らない。
蛮の口から告げられた内容に、鏡は今度こそ本気で驚いてしまった。



「それこそ嘘、でしょ?付き合うことを決めた時に、言わなかったのかい?」



月の光に輝く蛮の姿は、何処から見ても女性だった。
白いシャツを羽織っただけの肌からは、形の良いふくよかな胸が見えている。
その谷間には、濃い情交を思わせる名残が赤く刻まれていた。



「嘘だったらどんなに良かったか……ただ気付いて欲しかったんだ、アイツに。だから、言わなかったんだけど」
「………」



機会を逃して言えずにいたら、そのままズルズルときてしまい、結局言い出せずにこんな風になってしまったという訳か。
顔を俯けてしまった蛮に何て言ってやれば良いのか分からずに、取り敢えず目の前の身体を引き寄せて温もりを与えてやった。
蛮曰く、アイツと似ているらしい自分に出来ることはそれくらいしかなかった。



「なぁ……鏡」
「どうしたの?」



腕の中で、蛮が静かに話し掛ける。



「オレは、お前を好きになれば良かったな」
「君は残酷だね」



オレの気持ちが何処にあるのか知っていて、そんなこと言うんだから。



「わりぃ……だけど、オレはアイツじゃなきゃ」



駄目なんだ……苦悩に満ちた言葉は、だが切ない響きも持っていた。



「君を愛してると一言も言わない、君に触れることもしない……そんな男なのに?」
「ああ」
「ならなんで、君はオレと一緒にいるんだい?そこまで分かっているなら、何故?」
「………」



分かっていた。
蛮は、愛されてみたかっただけなのだ。
その相手は、決して誰でも良いものでなく。
たまたまその適任者が、都合の良いことに鏡だっただけだ。
蛮に隠すことない好意を寄せていたこと。
無理やりにでも抱こうとして、隠していた性別を知ったこと。
そして、これが一番の理由。



「あの死神と似ているオレに抱かれて、愛される夢を見てみたかった?」
「鏡」



唇を噛み締めてそれ以上は言わないでくれと訴える蛮に、鏡は口付けを落として呟く。



「愛されることがないと分かっていて、ほんと健気だよね」
「……お前も、オレもか?」
「ある意味、そうかもね」



それだけ言うと、蛮をキツく抱き締める。
腕の中に大人しく納まっている身体をキツく抱き締めると、蛮は嫌がるどころか反対に喜ぶことを鏡は知っていた。



(それほどに強い愛を望んでいるのに、ね)



何をやっているのか。
あの冴え渡る月のような男は。



「もし、あの男が君を求めてきたらどうする?オレの腕から飛び立っていくかい?」
「アイツが自分からなんて有り得ねぇし、きっとオレは永遠に飛び立てねぇよ」



即座に答えることができるのは、何かそれだけの理由があるのだろうか?



「アイツの中に、深く眠ってるもんがある」
「………」



そう言って、蛮は鏡の心臓をトントンと人差し指で叩く。



「それはきっと、アイツにとってスゲェ大事なもんで……その時点でオレはアイツの一番には、どう足掻いたってなれねぇわけ……それにな、オレは知ってんだよ」
「何を?」
「鏡が言ったように、もしアイツがオレを愛している箇所があるのだとすれば、それはオレがそう簡単にはくたばりそうにない強者だからだ。アイツは覚えてないだろうけど言ってたんだよ、弱い者を側に置くのは懲り懲りだってよ。それは昔アイツの側に誰かがいたってことだ」



だから、強くなくてはいけない。
弱い発言はできない。
自分から、打ち明けることもできやしない。

興味本位で付き合うことを決めたのだと、今なら分かる。
始めから何も始まってはいやしなかったのだ、二人の間は。
そして、記憶に勝るものなんて現実を生きてる以上持ち合わせていない蛮は、ただそれを知り得ながらも何時かは自分を見てくれるのではないかと高望みを抱いてしまうのだ。



「なぁ鏡。かぐや姫になりたい……そしたら、月の使者が迎えにきてくれるだろ?」



月を眺めて蛮がぼやく。
夢見るような、一途さをもって。



「死神に迎えにきて欲しいんだろう?……君は本当にかぐや姫そのものだよね。オレに無理難題を出すんだから」
「鏡」



その願いを、自分は叶えてやりたくても、叶えてやれない。



「いいよ。君が死神を想っていようとオレは君を変わらずに愛してるから……」



だから、辛くなったら何時でも此処にくればいい。
月を想って泣く場所に、なってあげるから。



「ごめんな、鏡」
「悪いのは、あの死神だよ」




















月を想って静かに泣く蛮を、鏡はやはりかぐや姫のようだと思った。
何時までたっても迎えがこない、かぐや姫のようだと。










END

三角関係ならぬ、実は四角関係……?←

幼馴染みの恋人(夏蛮♀)












無駄にだだ広い屋敷の書斎室。
そこには沢山の本達が貯蔵されている。
希少価値のある年代モノから近代のモノまで、ありとあらゆる蔵書達が、だ。
夏彦と蛮の二人は、このカビ臭いけれど紙と印刷のインクに囲まれた空間が嫌いではなかった。
むしろ、毎日暇があれば通い詰めるくらいに好きだった。
そのせいもあってか、何時しか書斎で読書することが二人の日課となっていた。



「……読む本は決まったか?蛮」
「あー、うん……まだなんだけど」



夏彦の方は決まったが、どうやら蛮の方はまだ決まっていないらしい。
本棚の周辺を、うろちょろしてはどれを読もうか物色している。



(全く……落ち着きのない奴だな)



しょうのない奴だと肩を竦めて本をテーブルの上にコトンと置くと、夏彦は蛮の訪れを椅子に腰掛けて待っていることにした。
まだ時間が掛かりそうな蛮を余所に夏彦は、懐から眼鏡ケースを取り出すと銀フレームの眼鏡を掛ける。
本を読む時だけ、眼鏡を掛けるようにしているのだ。



「まだ、掛かるか……あの様子じゃ」



一緒にと思ったが、まだ時間が掛かりそうだったのを見て取った夏彦は、先に読んで待っていることにした。
早速、本を開いて文章に目を走らせ始める。
そうして暫く、時間を潰していた夏彦だったのだが……待てど暮らせど蛮はやってこない。



(蛮の奴……流石に遅すぎやしないか?)



たった一冊の本を選ぶのに、いつもの蛮ならこうは時間はかからない。
ということは、だ。



(まさ、か……な?)



まさかと思うが、この時点で夏彦はもう半分は疑っている。
読み掛けの本と眼鏡を乱雑にテーブルに放り投げると、急いで夏彦は椅子から立上がり駆けていた。
どうか、無事でいるように。

脳裏に浮かんだ考えを払拭するように、夏彦は蛮がいるだろう場所へと走った。










見つけ出した蛮は、やはり夏彦が予想した通りだった。



「蛮……!!」



夏彦の視線の先には案の定というか、高いところにある本に手を必死に伸ばしている蛮の姿があった。
脚立に乗って爪先立ちという、一歩間違えれば倒れ兼ねない体勢でだ。



「……蛮、それは自分で取れるモノなのか?」



夏彦から見ても見なくても、どう見たって蛮には届きそうにはない。
リーチが足りないのだ。
言葉の裏に、オレが取った方が早くないかと込めて夏彦は蛮に告げる。
だが、相手は流石蛮だった。
自分のことは自分でしないと気が済まない蛮の性格が、自分で取ると言い出したら一切人の言葉を聞こうとしない。



「オレが取るんだよ!!」



夏彦は大人しくそこにいろ!

脚立に乗り上げて必死に腕を伸ばし、本を取ろうとしている蛮のスカートが右腕を伸ばす度に揺れ動いている。



「危ないからやめないか?」
「自分で取るって言ってんだろ!」



ハラハラと見守りながらも、夏彦の視線がある箇所に釘つけになる。
危ないのは、何も危なっかしい体勢だけではなかった。



(見えてるんだぞ、蛮……スカートの中身が)



ここに誰もいなくて良かったと心配をする夏彦を余所に、蛮は更に手を伸ばして目当ての本を取ろうとしている。
自分が読むモノは自分で取る、そう決めている蛮は夏彦がいくら止めろと言っても聞き入れはしない。
こうなったら、無事に蛮が本を取ることを祈るしなかった。
のだが。



「あと、ちょい!」
「蛮もういい!あとは、オレが取るから……!」



もう、いいだろう?

脚立は蛮が見動く度に、ガタガタと音を小刻みに立てている。
我慢しきれず夏彦は蛮に叫ぶが、目の前のことに夢中になってる蛮は当然気がつかない。
そんな姿が尚更、夏彦の心配を煽る。



「ぅぅ……あ、取れた!」



喜色を上げる蛮の声に、夏彦もやっと安堵して肩を下ろした。
だが、その矢先に。



「あれ……?」



本を取ることに夢中だった蛮が、身体を捩じった拍子に体勢が崩れた。
落下する蛮の身体。
夏彦は目を剥き、腕を蛮の方に伸ばしながら地を蹴っていた。
蛮を助ける為に。



「うわっ、な……ッ!」
「蛮……!!」



バランスを崩して脚立から倒れ込んできた蛮を、瞬時に夏彦は腕を伸ばし抱き留めることに成功した。
だがその際、夏彦も慌てていた為――勿論、蛮は無事だったが――よろめいて夏彦は床に尻餅をついてしまった。
ポスンと脚立から落ちて夏彦の胸元に舞い降りてきた、愛すべき少女。
腕の中に抱え込んだ蛮の様子を夏彦は窺う。



(大丈夫、のようだな?)



怪我などを何処も負わなかったようで、ひとまず安心する。
本当に心配を掛けさせるものだ……と夏彦は吐息を零した。



「わっ、悪い……!夏!」



正気に戻って慌てて謝罪する蛮だったが、そんなことより夏彦は別なモノに目を奪われていた。
蛮はまだ気付いていないらしい。



「白……」
「へ?」



何言ってんの、お前?

きょとんと腕の中から夏彦を見上げてきた蛮にニヤリと笑う。



「蛮……今日の下着はレースの白、なのか?」



耳元にキスをするように囁かれ、蛮の鼓動が跳ねる。



「なんでっ?!」
「……スカートが、捲れてるぞ」
「あ……」



夏彦の視線の先を辿れば白い太股が露になっていた。そして、それだけでない。
捲れ上がったスカートからは、中身が見えているではないか。
そう、夏彦曰くレースのパンツが。



「うぎゃぁあぁっ?!///」



裾を慌てて直すと蛮は夏彦を睨んだ。
それから、顔を真っ赤に染めて怒鳴る。



「み、見んなよ、馬鹿っ!!もうっ信じらんねぇなっ!!」
「男だから、な」



目の前に見てくれと差し出されていたら、それは仕方ないだろう?

そう言って蛮の身体を抱き締める。



「な、夏彦…!!」



腕を振り上げて叫ぶ蛮に、やはり声を上げて笑う夏彦だった。










END


パンツネタが大好きです、浅倉さんは(笑)




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