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暗き沼の住人(ジンナル)












自分の叫び声に飛び起きて、荒い息をつく。
動悸が激しい。
目の奥が痛い。
大声を上げて叫び出したかった。



「ジー…ン……?」



隣りで寝ていたナルを起こしてしまったと思うその前に、気付けばその身体をシーツに縫い付けていた。
真上からナルを覗く。
暗がりで分からぬその表情は、驚愕に揺れているだろう。
だけど、僕には見えない。
目が暗がりに慣れてくれるまで、まだ時間が掛かるらしい。
よく見えなかった。
見えなくて良かったと思った。
きっと、今の自分は情けない顔をしているのだろうから。



「なる」



抵抗のないナルの掌を探す。
手探りで掴んだ掌をグッと握り締めて、存在感を身体で確かめる。
痛みによって微かに呻くその声を、僕は亡き者として更に強く握り締めた。



「な…る……」



掴んだ両掌を無造作に掲げ上げて、祈るように額に当てると擦りつける。
ごしごしと、温もりを得るように擦りつける。



「な、る……」



暗い視界の中。
身動きするたび、冷たいシーツの擦れ合う音も耳に入ってこなかった。



「なる……っ」



ただ、張り詰めた感覚だけが身を覆って、ナルの名を呼び続けることしかできなかった。



「ジーン……どう、したんだ?」



何か、怖い夢でも見たのかと夜中に起こされた不満を訴えることなく問うナルに、僕は首を振って答えることしかできない。
何が、とか。
これがこうだった、とか。
どう説明つければこの焦燥をナルに上手く伝えきれるのか分からず、ただ掌をキツく握り締める。



(……あれは、なんだったのか)



暗い沼に、ある人物が沈んでいく夢だった。
そして、その沈んでいた人物は……。



「重い……ジーン」
「あ、ああ……ごめんね」



目が暗がりに段々と慣れてきた。
そして、僕はナルの腹の上に乗り上げていたので、真下にいるナルの柳眉が歪んでいるのがよく見えた。



「ごめん、夢と現実の区別がちょっとつかなかったんだ……」
「……区別がつかない、夢?」
「そうなんだ……でも、もう大丈夫だから」



額にやっていた掌を下ろして、今度は指を根元まで深く絡め合わせ握る。



「こうやって、寝てもいい?」
「……寝れるのか?」



そうして寝たら、うなされずに寝れるのかと再度問うナルにしっかり頷く。



「うん、そうしてくれたらね」



曖昧に寝れそうな気がするとは言わなかった。
ナルに触れてたら、本当に眠れそうだったから。



「……分かった」



そのまま、ナルの横に身を横たえ眠りにつく。
瞳を閉じる瞬間に、どうかあの夢が現実のモノにならないようにと僕は強く願った。




















沼に沈むその姿は、どちらだったのだろうか。
君か僕か。











END


その答えを知るのは、そう遠くない未来。




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