スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

醜い欲望の果てに(花→蛮)












僕の目の前に、今愛しい『彼』がいる。

『彼』に手を伸ばして見た目通りの柔らかい黒髪を梳き優しく撫ぜてやると、ハラハラと指の隙間から零れ落ちる黒髪が部屋の中に入り込む光に艶やかさが一層と際立ち、誰が見ても美しく目に映るだろうその光景に心が和むのを感じた。
撫ぜられるままに身を預けきって、気持ち良さそうに瞳を細める『彼』の姿は、まるで猫のようだった。
けれども、警戒心もなく抵抗する気配も見せないその様子に、警戒心が全くないなんてこれでは猫らしくないなと僕は思わず笑ってしまう。
猜疑心のない猫なんて何とも珍しくて。
すると、そんな僕をいぶかしむように不思議そうな顔をして『彼』は見上げてきた。
それに、笑みを浮かべて何でもないよと止まっていた髪を撫でる仕草を再開させれば、何かを言おうとして口ごもる『彼』の迷いに気付く。
何かを聞こうとして失敗する……子供のようなそれに。
だから、促すようにどうしたのかと首を傾げ言いやすいように誘導してやる。
窺うような仕草をする『彼』に、大丈夫だから……言ってごらんと優しく問い掛けて。



「どうして……どうしてオレは、記憶を失してしまったんでしょうか?」



髪を撫ぜていた指がピタリと止まった。
そして、僕は何も言わず『彼』を見つめる。
これを彼はずっと聞きたかったのかと、半ば分かっていて遠ざけていた問題を改めて『彼』は僕の前に突き出して見せた。
勿論、いつかは問い掛けられると分かっていたからその答えは幾つも用意していた。
その幾つも用意していた答えの中から一つをチョイスして、何度も自分の中で繰り返してきた答えを……今、やっと『彼』へと返す。



「それは……ごめん。僕にもよく分からないんだ。推測だけど、僕が君を見つけた時にはもう…――」



以前の口調とは全く違ってしまった『彼』を心の片隅で痛ましく思いながら、僕は平然と嘘を重ねる。
そう、これは真っ赤な嘘だ。
真実は、僕の中と過去の『彼』の中だけに存在する。



「そう、ですか……」



ガッカリして肩を落とす『彼』の身体を、そっと抱き寄せる。
それっきり『彼』が言葉を紡ぐようなことはなかった。




















「すみません、美堂君」



身体を胎児のように丸め目の前で眠る彼に、幾度目になるかもう分からない謝罪を今日もまた繰り返す。
記憶を失うことを促したのは、誰でもない……この僕自身。
追い詰めて追い詰めて、彼の心を壊した。
心ない言葉で傷つけて少しずつ狂わせていき、最後に手放す振りをして突き放した。
そうすることで、より一層離れがたく思わせようと。
そして、それは簡単に成功した。
呆気なさすぎるくらいに。
心の弱い彼は簡単に自我を手放してしまった。
こちらが望むがままに。



「ただ、誰にも奪われたくなかったんです」



そして、君のすべてを自分のモノにしてしまいたかったから……。

懺悔のような想いを吐き出して唇を噛み締める。
誰の目にも触れさせたくなくて狂った心は闇を抱えた。
律する理性を凌駕する想いの深さに恐れるよりもまず歓喜した。
こんなにまで自分は彼を愛しているのだと。



(所詮、それは自己満足でしかないのだろうけど)



これ以上の無意味な言葉の謝罪はただの自己満足にすぎなく、そしてまだ辛うじて残っている純粋な愛情までも嘘に塗り固めてしまいそうで……ただ頭を垂れ、罪を贖うように眠れる人の額に唇を落とした。
そう、それはまるで神聖な口付け。




















だって、二度と腕の中の檻から出してやらないと彼へと誓う……これは大事な接吻けなのだから―――。











END

オリジで書いたのを花蛮風に直した奴(笑)
記憶喪失モノ。





お題:狂った僕は、君を閉じ込めて縛り付けて、逃がさない。




母と娘の会話(屍蛮♀家族)


※注意!まず屍蛮は結婚しています。子供もいます。蛮ちゃんは女の子です。
一応、bloglogにあるこれの続きのよーな…。




















「うげぇー、腹がいてぇー……って、あだだ…あだだだ…っ!」



気がつかなければ痛みを感じはしなかったのに、一度そうであると脳がインプットしてしまうともう手遅れ。
絶え間ない鈍い痛みが腰と腹に集中する。
こんな時、常々女は損な生き物だと思う。
一ヵ月に一回、何を好き好んでこんな痛みに耐えなければならないのか。



(神様の不公平っぷりにはほとほと呆れるよなー……マジで、あっちこっちがいてぇーしよ……)



この一ヵ月に一回の痛みに付け加え、女は子供を産むという大役まで担わされているのだから……。
他人事ではないことを何処か別次元のことのように考えながら、下腹部を手で押さえ前屈みになりソファーに身を任せる。
すると、少しは痛みが緩和されたような気がした。
あくまで、それは気がしただけだが。
今は身体を動かすこと自体、億劫で堪らなかった。



「……母さま、大丈夫ですか?」



うーうー痛みに唸っていた、そこへ。
一人娘の深紅がやってきて、心配そうに蛮を窺い顔を覗き込んでくる。
体調の芳しくない蛮を慮る深紅に、無理やり蛮はを笑みを作って腕を伸ばし頭を撫でてやった。



「大丈夫だ、薬が効くまでの辛抱だかんな?」
「………」



じっと深紅は蛮の顔を見つめる。
聡い子供は、どうして蛮がソファーで呻いていたのか状況と態度で分かったのだろう。
たかが、腹痛と腰痛ぐらいで死ぬようなことはないとはいえども、やはり目の前で具合悪そうにされていたら心配にもなる。
それが、大好きな人であるから特に。
だから、深紅は柳眉を歪めた。



「でも……」



母さまの顔、すごく真っ青で心配です。
そう言って、小さな手が蛮の額に触れてくる。
子供体温の温もりに触れて、身を襲う寒気を今更ながらに感じた。



「母さま、寒いんですか?」



微かに震える身体に気付いた深紅が首を傾げた。



「ああ、ちょっと…な?」



あらゆる痛み(腰とか腹とかアソコとか)と寒気と吐き気と。
とにかく、同時に襲ってくるそれに頭が真っ白だった。



「ちょっと待っててください、母さま」



今、膝掛けを持ってきてあげますから!
蛮が何かを言う前に、パタパタと走って深紅は廊下へと駆けて行った。
二階の蛮の部屋にある愛用の膝掛けを取りに行ってくれたのだろう。



(っ、マジで可愛いな、畜生ォ…!)



痛みに呻きながらも、深紅の後ろ姿を追う。
そして、痛みと我が子のあまりの可愛さに吐息を吐く。
何で、あんなに可愛いのだろうか家の子は。
親馬鹿と罵りたくば、いっそ口汚なく罵ればいい。
それを我慢してやれるくらい(我慢した最後には反撃をしまくるだろうが)、何と言っても家の子は総じて可愛いのだ。
好き勝手にやりたい放題な(大いに自覚ありの)自分達の子供であるのにも拘らず、何処をどうしたらあんな礼儀正しい子供が(おそらくは赤屍の教育と、黙っていればそれなりに礼儀正しく見える赤屍に多大に影響されてしまっているのだろうが)生まれてくるのだろうか。
本当に信じられない。
思わず、奇跡を噛み締めてしまいたくなるというもの。
それもこれも、深紅の父親が計画もなしに……いや、あれは計画して行われたことだったのか?
今更どっちでもいいが、子供なんて更々作る気のなかった蛮を孕ませたことからすべては始まってしまった。
今でこそ両親共に溺愛しまくっているが、深紅が生まれる前は色々と……本当に色々とあったのだ。
長くなるのでその辺りはバッサリと割愛するが、当時の記憶を思い起こしてみれば腹立たしいとしか蛮は発言のしようがない。
そんな思い出なのだ。



(なんせ、オレは元……だからなァ?)



薬がやっと効き始めたのか、段々と白くなって視界が霞んでいくような意識に蛮は瞳を細める。
所謂、自分達ができちゃった婚であることはこの際どうでもいい。
できちゃったモンはできちゃったで、仕方がないからである。
ただ問題が一つあるとすれば、それは蛮の方にあった。
というよりも、蛮の身体にか。



(だいたい、オレ様は男だってーの……)



下腹部が痛まないようにゆっくり息を吸って、それからゆっくりと張り詰めている息を吐く。
そして、押さえているなだらかな腹を撫でた。
今でこそ、口調以外は女であることに結構慣れ親しんでいたりするが……正真正銘の元は立派な男。
だから、訳の分からない事態に陥った戸惑いよりも、恐れを感じたものだ。
自分が自分でなくなるそれは予感。
今まで、難なく出来たことが出来なかったり、身長が縮んだり、なかったものがあったりと。
そのなかったものの一つが今の苦しみなのかもしれない。



(難儀な身体だよなぁ)



色んな意味でと、女である自分の身体を振り返ってみる。
何ゆえ、男だった蛮が女なんて生き物になってしまったかというと、忌々しい魔女の血統にこそ原因があった。
魔女は一族の血筋を途絶えさせない為、本人に見合った性別に途中で変異してしまうことが稀にあるらしい。
らしいというのは、マリーアがそう言っていただけで詳しいことは一切不明だからだ。

それは満月の夜のことだった。
折しも皆既月食の夜、戯れに外で致したのがそもそもの間違えだったに違いない。
月の魔力と男の精気をふんだんに取り込んだ身体は、細胞から何から何までを染め替えてしまった。
次代を生むには男のままでは駄目なのだと、魔女である蛮の身体がそう訴えていたのか。
その次の日、朝起きたらものの見事に女に変貌を遂げていた。
あれには参った。



(……何事にも動じない流石のオレ様も、あれにはビビったよなァ?)



ビビるどころか、半泣きなって赤屍を叩き起こし一体全体どうなってやがるのかと問い詰めたのだが。
訳の分からぬことを平然と笑ってやる人間など赤屍以外に……いなくもなかったが、もっとも身近な人間でと断定すればこの時赤屍しかいなかったのだ。
そもそも、人を女にして楽しむ人間など赤屍しか思い当たらず。
が、その赤屍は何も知らないという。
挙句、本気で悩んでいる人間を組み敷き妙に楽しそうな顔で何だか浮気しているようですね、と宣ったのだ。
情けなくも二の句の継げない蛮を余所に、あれよあれよという間に気がつけば処女を奪われて、安易にすぐ元の身体に戻るだろうという考えから奴は中出しまでしてくれた。
その結果が、今の生活である。
毎晩、中出しされまくればそれが健康な身体だったら出来るのも当たり前だ。
和らぎ始めた痛みに吐息を吐きつつ過ぎし過去を思い出していると、深紅が膝掛けを持参して戻ってきた。



「……母さま」
「ああ、サンキューな」



はい、どうぞと。
そう言って差し出された膝掛けで腹部を覆うと、温もりに安堵して勝手に吐息が零れ落ちた。



「もう寒くないですか?」



床に膝をついてしゃがみ込み首を傾げて窺う深紅に、ソファーに横になっている身体を動かし蛮は首を振る。



「あんま、心配すんなって。こんくらい大丈夫だから」



―――な?
薬も効いてきたからと赤屍譲りの漆黒の髪を撫でてやると、コクンと深紅は頷いて自分に何か出来ることはないかと聞いてくる。
その健気な様子に、蛮は我が子を抱き締めたい衝動に駆られた。



(っ……何だよ、このべらぼーに可愛い生き物はよォ…!)



本当に自分の子なのかと我が目を疑うとはこのことか。
まだ動けば痛みが襲うので何とか踏み止どまっているが、もし痛くなかったら完璧に深紅へと抱き着いている。
そして、わしゃわしゃと思う存分髪を撫で回して頬にキスの一つ……いや、キスの雨を降らせているところだった。
が、今日は頬をペチペチと叩いて撫で擦ってやることぐらいのことしか生憎してやれない。
どころか、何をもする気力のない蛮が深紅に慮まれている。
これでは、どちらが年上なのか分からない。



(手が掛からねぇのは良いことなんだけどなァ……)



もう少し、子供らしく我が儘を言ってくれても構いやしないのにと思わないでもない。
そんなところは、両親に似なかったな……と蛮は小さく吐息を零した。
それから、そういう気持ち視線に乗せ伝えるように深紅を見やる。
が、こちらの意図が掴めない深紅はやはりキョトンとしていた。
それを苦笑いで誤魔化し、濡れたように艶やかな漆黒の髪を撫でてやる。
すると、深紅が気持ち良さそうに瞳を細める。
日本人形のように切り揃えた前髪が、とても可愛らしく愛らしさを誘っていた。
どちらにも似た青味がかった黒髪。
性格や容姿といったものは赤屍に似ていても、やはり遺伝子は馬鹿にならないのか……似ている部分が深紅と蛮の間に存在していて、ちゃんと親子であることを証明している。
素直で良い子だが頑固な一面もあり、それがまた愛らしく映るのだから大概な親馬鹿だろう。
腹痛がなければ、深紅を膝の上に乗せて本の一つでも読んでやっていたところなのにと。
本当に残念なことだと今更ながらにそう思った。
その代わりに、蛮は深紅に明日の約束を取り付けることにした。
今日は相手をしてやれなかったが、明日は構い倒してやろうと。



「明日は外に出かねぇか、深紅」
「でも、お腹……」
「明日は大丈夫だ。なぁ何処に行きてぇ?」



何処でもいいぞと問うと困った顔をした深紅が蛮を見る。
何を躊躇う必要があるのだろうか。
子供は我が儘を沢山していい特権があるのに。
明日にはこの痛みも少しは和らいでいるだろう。
完璧にではなくても、家の中で寝転がっているより外で動いていた方が痛みを感じない。
次にそう言ってやれば、深紅は少し考える仕草をした後。
躊躇いがちに、それでもちゃんと自分の思いを口にしだした。



「……ホンキートンクでイチゴパフェが食べたい、です」
「そんじゃ、買い物行って目一杯遊んだその帰りに……ホンキートンクで苺パフェ、な?」
「はい!」



ホンキートンクで苺パフェを食べるだけでいいと、欲のない願いを口にした娘に蛮は苦笑した。
もっと、年相応にお人形が欲しいとか可愛い服が欲しいだと言ってくれてもいいのに……と(服も人形も欲しいと思う前に赤屍と蛮から買い与えられているその事実は当事者以外は知らないものである)
それでも嬉しそうに頷いた深紅を確認したところで、痛み止めの効能による眠気が身体を包んだ。
ふわりと意識が傾いだ気がした。
遊んでやれないのなら、せめてこのまま話し相手になってやりたいのだが、それももう限界のようだった。
身体が休息を求めている。
遊び相手のいないこの部屋に一人っきりにしてしまうことは、僅かばかり抵抗があるがそれも致し方ない。
父親が裏で有名なばかりに、一人で外に遊びにも行かせられないのだ。
よって、知らないところで襲われてはと不安がありすぎることもあり、なるべく外出したいと言い出した時は誰かが付き添うことにしていた。
一人で外出するにはある程度身を守る術を身に着けてから、と。



「……母さま?」
「ごめん…な……深紅……ちょっとねむてー……から、」
「父さまが帰ってきたら起こしますね」
「そうしてくれっと、すげぇー…たす…かる……」



おやすみなさい、母さま。
深紅の声と唇を掠めたキスを最後に、意識が墜落するように闇の底へと落ちていった。










※アレ?気が付けば屍さまが出てこなかった(笑)

奪われる者の末路(屍蛮)

蛮ちゃんの誕生日がパスです。

前の記事へ 次の記事へ