※かなりの意味不明な駄文です。悪しからず















太陽が眠りつき、闇夜が刻を支配する深い夜。
いつもの公園のベンチで一人煙草を吹かしながら、頭上に煌々と輝く月を眺め見やっていた。
そこにあったのは、燃えるような緋色の月。



(イヤな感じの月だな……)



煙草の吸い殻を足で揉み消して一人ごちる。
何だか寝苦しくて、眠れなくて。
気分転換にとスバルから出てみれば、蛮の身体を照らしたのは闇をも恐れぬ月の明かり。
そう、今夜は満月の夜だった。
そのせいなのかもしれない。
血が騒ぐというか、妙に喉が渇くというか……。
身体の中で何かがざわめく。



「………」



これ以上見つめているとどうにかなってしまいそうで、月からそっと視線外すとチラリとスバルの方を窺った。
スバルには相棒の銀次が眠っている。
銀次はこんな時間、滅多に起きていることはない。
この時間帯は眠りの国に旅立っている。
車を出る前に何事か寝言を言いながら幸せそうに笑っていたから、おそらく……いや、きっと良い夢を見ていることだろう。
一体どんな夢をみているのだろうか?
それに比べてオレは……と、自嘲して己を嘲笑う。

ここ最近眠れなくて、こうやって月明りの下で夜を明かしている。
辛うじて明け方の数時間、身体を横にして眠るだけの生活は流石に辛いものがあった。
けれど眠れないのだから仕方ない。
まともな睡眠を確保出来たのは、何時のことだったろうか。



(月は嫌いなんだ)



特に、満月の夜の月は。
己の魔女としての本性を自覚させられると共に、嫌な出来事ばかりを思い出させるから。
幼き日の辛い出来事は凍えるように凍てついた雨と、不自然なくらいまでに緋色の月がいつも関係していた。
だから、こんな夜は必然と思い出させる。
月の魔力で目覚める魔女の性と、罪深い己の宿業。
そして、悪魔の子と罵る己の母親の金切り声を―――。
魔女の性、呪われた運命云々は、この際生まれついてしまったものと……仕方がないと思うとして。
けれど、あの母親のことに関してはいつまでたっても忘れることも、忘れた振りをすることもできやしなかった。
月など関係なくてもふとした時に思いだし、今だに傷ついている。
昔も、今も、きっとこの先も。
これは永遠に変わらないのだろう。



「まったく、なさけねぇの……」



常にない弱気な声が外気に漏れる。
まるで萎れた花のようだった。
自覚して、また堪らなくなる。



「マジで情けねぇ――…」



痛みで弱さを誤魔化すように、掌を強く握り締めた。
今与えられる救いは、掌に食い込む鋭い痛みだけ。
こんな姿を誰にも見られたくないと思う。
その思いと反するように、こんな時だからこそ“誰か”に側にいてもらいたいとも強く思う。
相反する矛盾した感情。
分かっていても。
過去の痛みに囚われた今の自分は、一人では立ち直れなくて人の温もりを求めてしまう。
出来るはずがないことであることを、承知していてもだ。



(ここまでくると情けなさを通り越して、もう……惨めだな)



重い吐息をついて、サングラスを取り外しベンチの隅に置く。
それから、いつもはサングラスに覆われている瞳を掌で覆い隠した。

涙は流れない。
どんなに辛かろうと、痛かろうと。
涙はとうの昔に捨ててきた。
そんなものを後生大事に抱えて生きていたら、これまで生きてこれなかったからだ。



(だから、涙は流れない)



もし、泣き方を知っていたら癒せたのだろうか。
この苦痛の核を……。
今、詮無きことを考えている。
しても無駄なこと。
結局、泣き方を忘れてしまった子供は世界の片隅でただ震えているしかないのだ。
こんな風に。



(人の温もりを求めた結果、邪馬人がどうなったか自分がよく知っているだろう?)



そう言い聞かせて、切なさに身を揺らす。



(早く、早く朝になってしまえ……)



こんなに弱気になるのは頭上に煌々と光る月のせいなのだと、今にも押し潰されそうになる弱い心を抱えて、漆黒をたたえた闇に向け切に祈る。



(朝になれば、大丈夫だ……大丈夫なはず…――)



この身体を満たす空虚も、魔女の血ゆえのざわめきも、罵り……叱責……罵倒する声も……全部が落ちつく。

だから、もう早く朝になってくれと。

それは、何の根拠もない子供じみた祈り。
だけど、膝に肘をついて身体を曲げるようにベンチに座っていた蛮は、この時初めていもしない神に祈りたい気分になった。
あくまで、それは気分だけのことだったが……。
誰がキリストとは対極に位置する魔女の願いなんて、叶えてくれるというんだろうか。
叶えてくれるわけがないと今までの経験上よく分かっているから、口には出さない。
それでも気休めに。
“何か”に縋りつきたいと思う心が、らしくないことをさせる。
愚かな行為……祈るということを。



「おや?」
「……っ」



ビクリと、ふいに聞き覚えがある声に過剰なまでに肩を揺らして反応してしまった。
それは、普段の自分ならば有り得ない失態。
そもそも、こんな弱った姿を人前に晒すこと事態稀なのだ。



(狙ったように現れやがって)



内心、舌打ちして闇と同化している漆黒の男を睨みつける。



「……何の用だよ?」



どうしてこんなところにいるのかと、一々問わない。
この男は神出鬼没なところがあるのを予め知っているからだ。
だから、言外に用がないなら目の前から今すぐ消えろと、剣呑さを包み隠さずに伝える。
その思惟を汲み取っているはずなのに、目の前の男は帽子の鍔を傾けて面白そうに笑うだけだった。
そして、歌うような口振りで問い掛けてきた。



「銀次クンは?」
「……アイツに用があんのならスバルで寝てるから、叩き起こすなり何なりすればいいだろ」



勝手にしやがれ、と。
何処か銀次を気に掛けている風な男にウンザリと答える。
銀次に会いにきたのならば、そっちに直行すれば良いだろうにと。
今は、何を考えてるか分からない人間の相手をしてやるような余裕は自分にない。
銀次で遊びたいのなら、好きにすればいいと思う。
こんなことを思うこと事態、常の蛮だったらしないはずで。
この時の自分がまともな思考ではなかったことを、自覚するまでには至らなかった。
そして、それを看破されていることも。



(いいから、早く消えやがれ)



先程は、あれほど一人でいたくないと願っていた蛮も、相手が相手であるからか何故こんな奴をよりによって連れてくる…!と毒つくが、男は一向に立ち去らない。
ベンチに腰掛けている蛮を見下ろして、何事か検分しているようだった。
その視線がいやに気持ち悪い。
誰だって―――相手が死神だということを差し引いても、だ―――舐めるように見下ろされていては良い気は決してしないだろう。



「あのな……マジでテメェは何しにきたわけよ?」
「………」
「あ?」



溜め息混じりに問い掛けても、無言が返ってくる。
本当に何なのだ。
理解に努めたいとは生憎思わないが、こうもキッパリ無視されると苛立たしい。
それから、たっぷり凝視された後。
ようやっと、口を開いたかと思えば……。



「満足に睡眠が取れていないのでは?」



目の下に熊が出来ていますよと、暗がりでの鋭い指摘に舌打ちしたくなった。
月明りがあれど、バレはしないだろうと高を括っていた。
だが見事、言い当てられてしまった。
やはり目の前の死神は油断ならない。
その侮れない男に柳眉をしかめながら、外して放置しいたサングラスを手に取る。



「だったら、何だって言うんだよ?」



テメェには関係ないだろうと、言葉を選んで交わしながらサングラスを掛け直した。
どうして目の前の男と、こんなに呑気に会話をしているのだろうか。
本来なら、毛嫌いしているタイプであるのにも拘らず……だ。
変に頭の良い男は、こちらの神経を逆撫でてくれる。
それは、言葉であったり態度であったり。
はたまた、言葉の裏に潜む駆け引きめいたそれだったり。
いけ好かなく、うさん臭い。
それが、この男に対しての評価だった。



(相手にしてると余計に気分が悪くなってくるな)



男が自ら立ち去る気配がないのなら、こちらから立ち去ればいいだけのこと。
ベンチから重い腰を上げ、蛮は立ち上がる。
そして、男を無視して足を踏み出した。
……のだが、後ろから腕を掴まれたことで身体がバランスを崩してよろける。
そして、よろけた身体は死神に捕らわれて。



「何処へ行くんです?」
「っ、何処でもいいだろうが!」



大体、そんなのこっちの勝手だろうに。
いいから、手を離せ!と。
腕を振り払えば、思ったより力が込められているその腕は振り払えず、身動きが取れないまま死神と対峙することになった。



(何だよ……この状況?)



相手が何をしたいのか、全く意図が掴めない。
銀次に会いにきたのなら、余計な道草などせず会いに行けば良いものを……。
何を考えているのだと思考を巡らせつつ、逃げ道はないのかと模索していた隙を狙われてしまった。



「なっ?!」



それは、油断が招いた大失態。
気が揺るんでいたのか。
腹部に痛みが走って初めてそのことに気付いた。
みぞおちに拳を入れられ意識が闇へと墜ちる。
完全に墜ちる瞬間、目にしたものは。
死神とその後ろに聳える緋色の月。



「…―――」



痛いじゃねぇかよ!糞が!と叫んだつもりの雑言も、言葉にはならなかった。
フッと力が抜けたかのように、強制的に身体が沈んでいく。
それを、腕を広げて受け止めたのは月を優しいかいなで包み込む闇。



「痩せ我慢はいけませんよ?」



意識を失ったことで重くなった身体を抱え上げて、死神は後ろに聳え立つ月を振り返る。
瞳を細め、妖しい月を見つめた。



「……魔女にあの月は毒なのでしょうかねぇ?」



囁いて、月から視線を外した。
それから、何処か苦しそうにして腕の中にいる蛮に向ける。
が、意識を失っている魔女は答えることが出来ない。
出来たとしても、素直に答えはしない人であることは容易に想像出来る範囲内のことではあったが。



「次に目を覚ました時、どういった態度を貴方が取るか……」



実に楽しみで仕方ない。
心底楽しそうな笑みを浮かべて、死神は公園を足早に立ち去る。
途中で万が一、目を覚まされたら―――寝不足であることからきっと起きはしないだろうが―――面倒だった。
だから、早く連れ去ってしまおうと公園を後にすることにした。
まるで、闇に溶け込むように夜に紛れて。










蛮が深い眠りから目を覚ました時。
死神の腕の中に抱き締められ、尚且つ裸で寝ている自分(相手も、だ)に絶叫し、卒倒仕掛けたのは―――また別の話。




END

蛮ちゃんが苦しそうにしているのは、貴方がみぞおちに拳をi……げふんっ;

後半、ノートが見当たらなくてテキトーに書き殴ったら収拾がつかなくなった。
あと、オチをどうするか決めてなかったのでキリが良さそうなとこで。


ちょんぎってやりました←


本当はシリアスだったんです。
なのに、ギャグでオトしたよこの人!
ノートの続きが見当たらないのが悪いんだ!
久し振りの更新なのに、肩透かしですみません;

一応、屍→→→蛮な感じで。
屍さまは蛮ちゃんが好きなんですが、蛮ちゃんは銀次が好きなんだろ?と思っている。
で、蛮ちゃんに会いにきているのに分かってくれないのでついに実力行使に出たみたいな……。

文章からは1ミクロンも分かりませんよ、ね!
いえやっ、私にも分かりませんからそこのとこは激しく大丈夫です!(爆)