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3.〜最悪な出会い〜(夏美蛮・屍蛮)











「こんにちは、紫眼の魔女さん?」



黒衣を纏った男が剣先を向けにこやかに笑った。




















「誰だ……テメェは?」



夏美を背後に庇い、オレは愛刀にしている形見ともいうべき剣を男へと構えた。
こちらから仕掛けることが出来ないのは、背後に夏美がいるからできないのではなくこの男に一片の隙がないからだ。
穏やかに笑ってはいるが内面と外面がチグハグで不気味。
そうまるで、死神の鎌にかけられているようなそんな気分を味合う。
夏美が満月の夜でないことから、尚更油断が出来ない状況だった。



「最近、ハンター狩りをしている男女がいると小耳に挟みましてねぇ」
「帝国の人間かよ」



ちっと舌打ちして、いざとなったら夏美だけでもこの場から逃がす算段を練る。
ハンターは主に世界を統べる帝国の管轄にある。
人ではあらざる者の排除、または虐殺を掲げていた。
大儀名分があれば、何をやっても許されると思っているから本当に奴等には反吐が出る。
中には、悪さを働き人間に害を及ぼすものもいるだろう。
オレ達にとって生きにくい世の中なのだから、それも仕方がないことなのかもしれない。
人間が差別をしん共存を嫌うからこうなってしまったのだから。

人と違う?
化け物?
だから何だというんだ?

そんなこと知らない。
知る由もない。
どうして、この世に生まれてきたのかなんて。



「蛮、さん…っ」



背中に隠した少女が、身を震るわせながら泣いている。
それを慮ってやることも出来ずに、オレは男と対峙していた。



「おやおや、私はどうやら嫌われてしまったようですね?」
「……何が目的でここにきた」



肩を竦めて笑う男に虫酸が走ったが、今までと違う成り行きにどう動いていいか一瞬戸惑う。
ハンターならば、すぐに命を狙うはずだった。
これまでハンターはそうだった。
だが、この男はただ涼しげに笑っている。
表裏ある笑顔だが。



「始めに言っておきますが、私はハンターではありませんよ?」



あんなものと一緒にされるのは不愉快だと告げる表情は、とても冷たかった。



「なら、何が目的なんだよ」



ハンターでなくても剣を向けてくるなら容赦はしない。
その意思を込めて、男を睨み付けると男は瞳をすがめたようだった。



「実は、噂の紫眼の魔女と対面してみたくなりましてねぇ」
「……その、紫眼の魔女ってのは」
「ああ、貴方のことですよ。帝国側で今ちょっとした噂になっているんです」



帝国の人間はネーミングセンスがないですよねぇ、安直すぎる。
そう言って、男はひとまず剣を引いた。
すると、簡単に周囲の警戒が解かれる。
先程までビリビリと感じていた空気が何処かへと消え去っていた。



「私の名前は赤屍と言います。貴方の名前は?」
「……アンタに、答える義務はないだろ」
「そうですか……では、そちらのお嬢さんは?」
「……夏美」
「夏美さん、ですね?」



一つ頷いて男は勝手に話を進めていく。



「貴方達がこのままハンターを狩り続けるなら、私と手を組んだ方が得策ですよ?」



どうですか?と、下手に協力を求めてくる男には悪いが……どうも言ってることを信じることが出来ない。
得体の知れない雰囲気を醸し出しているのだ、この男は。



「ハンターじゃなかったら……何者なんだよ、テメェは」



言外に、手を組む気なんかないと告げる。
得体の知れない男を懐に入れたくはない。
夏美だけでも手が一杯なのに、余計な物をこれ以上背負い込むつもりはなかった。



「ただの血を好む人間ですよ。貴方の側にいれば退屈しないで済むでしょうからね」
「……血を好む人間?」



後ろの少女を思わず振り返ってしまった。
血の束縛を抱えている少女と、この男は同じだというのか。
語られる言葉に嘘がないのだとしたら、この男も同族だ。



「私は吸血行動を抑えられない人間でしてねぇ……まぁそれを抑える気もないのいいのですが、ただ少しばかり厄介なことになってきたので。そのストッパーになるモノが欲しいと思っていたところだったんです」
「……吸血鬼と呼ばれる闇の住人ってわけか」
「あまりそのような名前で呼ばれるのは好きでないのですがね」



概ね、その通りですよと頷いて見せた男に溜め息をつく。
どっちでもいいだろう、と。

男が言うには、血を吸う行為は苦痛にならないのだという。
人を殺すことも。
だが、一度血を吸うとその間のことは何も記憶してないのだという。
そして、正気をなくし元の自分に戻るまでの間隔が最近は長くなってきているのだとも。
そこで、紫眼の魔女なら強い暗示能力で闇に落ちた正気を引き摺り出せるのではないかと考えたらしい。



「へぇ……違いはあるけど、夏美と大体は一緒ってわけか」
「おや、そちらのお嬢さんも?」
「……満月の夜だけ、自分を抑制出来なくなるんだよ」



アンタとの違いは、満月。
夏美はそれ以外に狂うことはない。
言い換えれば、変に抑圧させてその時に発散させなければ、夏美は本当に壊れてしまう。
月に一回程度のそれで正気を保っていられるのだから、まだ夏美は幸せなのだ。



「手を組んで頂けませんか?」



再度、持ち掛けられた赤屍からの提案に無言で通し、オレは心の底から溜め息をつく。



(邪馬人……アンタならどうする?)



夏美を守るには手があった方がいい。
だが、この男は味方にするにしろ敵にするにしろ、多少厄介な人物のようだった。



(仕方ねぇか、ここで断って情報を帝国に売られでもしたら大変だ)



渋々承諾すると、あろうことか男は唇を重ねてきた。
突然のことに、反応しきれなかった身体は男の腕の中に捕らえられ、口付けを深くする。



「んぅ――っ?!」
「蛮さん……?!」



夏美の悲鳴のような声で硬直が解け、拳を繰り出す。
それは、簡単に避けられてしまったが構わなかった。



(邪馬人にしかされたことがなかったのに!)



上塗りされてしまった記憶に、警戒心が蘇る。



「いくぞ、夏美」
「えっ……でも」
「オレ達はそこにいる男と出会わなかった。いいな?」
「うん……」



困ったように見つめてくる夏美を振り切って、オレはこの場から足早に立ち去る。
後ろから男が声を掛けてきたが、知らない振りをし続けてやった。




















「蛮さん、あの人後ろから着いてきてるよ?」
「放っておけ」
「でも、」



チラリと後ろを振り返った夏美は、にこやかな笑みを赤屍から向けられ曖昧に微笑む。



「あの人、悪い人には見えないから」



最初は怖かったけど。

その言葉に、夏美に掛かればどんな人間でも悪くない人間にされてしまいそうでオレは深々と溜め息をついた。




















復讐だけに生きたかったのに、また変な奴に目をつけられてしまったもんだと。










END

屍さまは、唇から蛮ちゃんの生気をちょっと拝借したのです。味見って奴ですね。←

2.〜夢なら覚めないで〜(夏美蛮)












「あ…貴方も、私を……殺しにきたんですか?」



ハンターの奴等に組み敷かれて今にも犯されそうになっていたのを、ただの気紛れから助け出した少女が悲しげにオレに微笑んでみせた。




















「蛮さん、蛮さん!起きてください!」
「なんだ…よ?」



出会いがそんなだったからか、その時出会った少女――夏美から、オレは過度な信頼を得てしまいそして懐かれてしまった。
挙句の果てに、オレの旅――ハンターを抹殺する――に着いてくるとまで言い出し、まるで金魚の糞のように後を着いてきてはオレを困らせていた。
この際、懐かれるのは百万歩譲っていいことにしよう。
だけど、夜に男女が一緒に寝ることを誘う女が何処にいるだろうか?
そして、人を起こすな。
気持ち良く……とまではいかないが、睡眠することで一日の疲れを落としていたというのに。



「……分かったからよ、いい加減落ち着けって」
「だって……蛮さん、私を置いてどっかにいってしまうじゃないかと思ったら怖くなって……それでっ」
「置いていかねぇから……だから、泣くんじゃねぇよ」
「本当、ですか?」



グシグシと泣きやまない少女に頷いてやって、安心させるように頭を撫でてやる。



(可哀想だな、この子も……)



実際の年齢より思考も仕草も幼いのは、周囲の大人達に寄ってたかって慰みものとされてきた結果だ。
本人も、何をされてきたのか分からずに受け入れてきたのだから、こうなってしまったのは不自然ではなかった必然のことだろうと思う。
オレがこの少女を見捨てられないのは、オレと同じように人間に迫害を受けてきたからというのが正しい。
ただ、ほんの少し人と違う力があったから……容姿をしていたから。
この少女は、見掛けのナリは普通できっと何処にでもいる少女と変わりはない。
だが、一度血の歯車が狂出だせば少女は殺人鬼に成り代わってしまう。
満月の月の夜にだけに魅せる、それは少女の顔。
肉を裂き血を求め妖艶に微笑む。
そこにはあどけなさなど皆無で、一切の容赦がなかった。



(そんな自分が発覚した時点で、殺されておけば苦しむことなんてなかったのにな……)



だが、夏美の村の人間は殺せば良かっただろう少女を結界を用いて厳重に閉じ込めた。
暗い暗い、鉄格子の檻の中に。
それは、満月の日を除けば普通の少女だった夏美を、一見大人達のズル賢い考えが救ったかのようにも見えるが、ただ単にあれは欲に突き動かされただけの色欲行動だっただけだ。
妻子ある人間が、年端もいかない少女を嬲り者にすることに熱狂していたのだから。
人は秘密を嫌うが、その秘密を共有することで性的欲求にも似た快楽を満たすというクダラナイ性質を持ち合わせている。
オレがその村にハンターがいることを察知して赴かねば、ずっとそのままだっただろうと思うと……オレの何処を慕っているのかよく分からないが、夏美を強く拒絶してしまうことができなかった。



「……オレは、夏美を裏切らねぇよ」



泣きながら震える少女の姿に、過去の己が重なった気がした。
邪馬人を殺されて、泣いていた己と一緒なのだ……この少女は。
だから、なるべく優しくする。
男女のそれではないが、兄と妹に似た感覚で優しくする。



「本当に?あの怖い人みたいなことはしない?」



嘘を言って殴るの。
売女だって言って、蹴るの。
汚らわしいって言って、痛いことするの。
夏美の言葉に、それまで撫でていた手が止まる。



「ねぇ、蛮さん……私は汚い?」
「汚くねぇよ」
「本当に?」
「ああ」



汚かったら、笑顔など作れやしないだろう。
ある一部分で壊れてしまっているから、そうなのだとしても……まだ笑えるならいい。
汚れなく笑えるなら、それで。
オレは何処かに捨ててきてしまったから……。



「夏美よりオレの方が、な。きっと、きたねぇよ」



過去を思い出してみて、自嘲が漏れた。
これまで色々やってきた。
邪馬人を殺されてから村の人間を殺して、ハンターを仕留める為だけに身体も餌にしたことがある。
そんな自分と夏美とでは、きっと話にはならないだろう。



「……なんで?蛮さんは綺麗だよ?すごくすごく、綺麗」
「人を殺すだろ?」
「だって、あの人達が私達を苛めるんです……だから仕方ないでしょう?怖い人達が言ってました。悪いことをしたら、お仕置されなきゃいけないんだって」



だから、裁かれなくては。
きゅっと唇を噛み締めて夏美が言い募る。
この少女もオレと同様、人殺しを悪いことと認識できないのだろう。
逆に、死刑執行人のような感覚でいるのかもしれない。



(オレから邪馬人を奪って、夏美から普通の幸せを奪ったのだから……それは仕方ねぇよな)



人間が自分にはないものを持っている生き物を、恐れる生き物だとしても……許されるべきことと許せないことがある。
だから、殺すのだ。
膿を持った人間達を……。



「私ね、蛮さんと旅をしている今がすごく楽しいんです」
「………」
「夢なら覚めないで欲しいなって、思うくらいに……」



擦り寄ってくる温もりを抱き締めて、毛布に二人くるまった。
やんごとない理由を抱える身では、宿泊など出来るはずもなく野宿を繰り返すしかない。
そんな旅でも、楽しいというのか。



「……夢なら、とっくに覚めてんだろ?」



この少女にとって悪夢は、檻に囚われている頃なのだから。



「だから、大人しく良い夢を見て眠れ……」



夏美の瞳を見つめ、良い夢が視れるだろう暗示をかける。
すると、夏美の瞳がトロンと蕩けだした。
願えば、悪夢を人に視せることが出来る魔女の瞳と恐れられている瞳を持つ自分は、これまで邪馬人とこの少女にしか良い夢を視せたことがなかった。



(良い夢を……せめて、眠りの世界では)



小さく頷いて寝息を立て始めた少女に、吐息を吐くと同じように瞳を閉じた。



















朝にならなければ良いのにと願うのは、きっと朝になれば世界はオレ達を苦しめるからだ。










END

1.〜呪い〜(邪蛮)












助からないことが一目瞭然な傷跡から、真っ赤な鮮血が溢れ続けている。
それを、目を見開いて食い入るように見ているオレは、きっと現実を理解しきれていないのだろう。
嘘だという気持ちで一杯だったからだ。
だって、家に帰ってきたら床に血を流して人が倒れているなんて誰が思う?




















「……ばん」



血に濡れた手が必死に伸びてきて、頬を包み込まれた。
最後に存在を確かめる、その掌の動きを涙を流しながら受け止める。
近付いてきた唇は、だが口付け合うことはなく、吐息だけがお互いに触れあっているだけだった。



「おまえは……いきろ」



生きて幸せになってくれと言う。
それに、嫌々と首を必死に振る。
聞き分けがない子供のように。



「たのむ、いきて……くれ」



今にも力を失いつつある震える指が涙を拭うが、次から次へと溢れ出る雫がそれをさせてくれない。
困ったように、男が苦笑する。



「なき、むし……だな……ばん、は」
「なぁ……オレもそっちにいきたい……つれてってくれ」
「……だめ、だ」
「なんで、だよ……っ」



どうして、そのようなことを言うのか。
邪馬人を失えば、オレがどうなるか。
これまで側にいてくれた邪馬人が一番、分かってるはず。
それを……。



「なんで……っ」
「どんなことをしてでも……おまえは、いきろ」



お前を死なせたくないから。
そう言って、邪馬人は突き放すようにオレを拒絶した。
最後の最後に。
何でも受け入れてくれた腕が、最後にオレを。



「……っ」



出来るなら一緒に、逝きたかった。
本当はずっとこのまま、何事もなく一緒に生きたかった。
だけど、それは突然襲った悪夢に覆されて。



「や…ま……と……?」



急に動かなくなった身体を揺すって、何度も揺すって、もう動かないと知ると諦めて、血に濡れた肩に縋りつく。
声を押し殺して、咽び泣く。

何で、こんなことになったのだろうと、思いながら。



(オレが邪馬人の側にいたからだ、きっと……)



人とは少し違う瞳と能力を持って生まれてきて人間としては不完全だったから、何処に行っても化け物扱いされてきた。
親からも捨てられて、行く宛ても場所もなく。
動物のように息を潜めてずっと生きてきた。
そんな中、邪馬人だけが優しく手を差し延べてくれて抱き締めてくれて……。
いつの日か、こうなるかもしれないことを予感していたのにも拘らず、目を背けて放置し続けてきた。
とても、その場所は居心地が良かったから。
自分から離れていくことなんて、もう無理に等しかったから。



(それも……今日でお終いだ)



きっと、そんな人間といたから化け物の仲間だと勘違いされて邪馬人は殺されたのだ。
邪馬人は正真正銘の人間だったのに……。



「人間は、ヒデェことしやがるよなぁ……同じ人間である邪馬人を殺すんだから……」



最近、世界各地で異種族を狩るハンター達が蠢いている。
何でも、この世界を統べる帝国の人間が発案した異種族狩りだとか。
田舎である邪馬人と暮らしていたこの周辺でも、それは噂になっていた。
それに便乗したのがありありと分かる村の人間の手口だった。
大勢でやってきて、邪馬人を殺したのだから。



(ゆるさない……ゆるさない)



ソイツ等のせいで彼からの最後の言葉は、愛してるなどの甘い言葉なんかではなく、呪いだった。

邪馬人無しで生きろと言う言葉は、オレにとっては呪いの言葉そのものだったのだ。



「やま、と……」



亡骸にキスをして、肩をキツく抱き締めて、邪馬人に誓う。

生きてやろう。
それを望むのなら、生きてやろう。
そして、邪馬人を殺した奴に復讐をしてやろう。
邪馬人を殺した奴は、きっと近くの村の人間。
ソイツ等を殺した後は、ハンターを皆殺しにしてやる。
ただ生きているだけなのに、狩られる理由などこちらにはない。
逆に、ハンターを狩ってやる。




















生きろというなら、その言葉の通りに生きてやるよ。
生き抜いてやる。
たった今、呪いは成就されたのだから。





















「………」



こんなに呆気なかったのかとガッカリするほど、邪馬人を殺した奴等は簡単に殺されてくれた。

こちらが子供だと舐めていたのだろうか?

今更、そんなことはどうでもいい。
面倒だったが死体の群れを集め、それに火を点け燃やした。



(別に、荼毘に付してるわけじゃねぇ)



そんな優しさはない。
ただ、死んでからも苦しめばいいと思ったからだ。
奴等に繋がるものは、女子供に至るまで殺した。
血糊で剣の切れ味が鈍くなるまで、殺して殺し尽くした。
返り血に塗れて、奴等が倒れ伏したところから流れ出る血痕で血の海が出来るほどに。



(これで、終わったわけじゃない)



復讐は、まだ始まったばかり。
こんな生きにくい世界を掻き回してやる。
今まで虐げられてきたのだから。



(それに見合う裁きを受けるべきだ……奴等も)



轟々と異臭を放ち燃え盛る死体から、見切りをつけると踵を返した。

これから始まるであろうショーの、獲物を選別をしなくてはならなかったから……。










何がなんでも生きろと、呪いをかけられたから……何をしてでも生きてやる。
どんな非道も躊躇しない。





















だって、大切だった貴方をオレは奪われてしまったんだから……平等に報いは受けるべきでしょう?











END
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