小ネタの続きを書きましたー。
ハラオウン先生と高町さん。
意地悪なのにどこか純粋なハラオウン先生になっちゃったように思います。きっと彼女はなのはさんが初恋なんですよね。
そんな感じです。
追記に投げました。
時計を見れば、既に放課後の時間帯で。窓の外からは部活動生の声や吹奏楽部が奏でる音が聞こえてくる。
春休み。夏休みのように膨大な課題や冬休みのように行事事もほとんどない、この長期休みに私はといえば教室で一人、補習な訳でして。
先刻。職員室に戻った担当の先生が出した課題に目を通し、ため息をついた。
左手のシャーペンを指先でくるくる回しながら、問題を頭で考えていく。
今日の科目は物理。昨日は国語。
自分で言うのもなんだけど、成績は悪くないと思う。でも。
「確かに授業出席日数は苦しいんだよね…」
本来なら進級すら難しかった私は先生方の処置により、何とか3年生に上がれることになった。代わりに、膨大な課題を春休みにも関わらず出され、更に、補習を受けることになってしまったのだけれど。
「…まぁ、ラッキーな方だよね」
いろいろ思っていても課題が減るわけでもなく、とりあえず、目の前の問題に集中することにした。
ガラっ。
教室の前の扉が開いた。
白衣。金髪。紅い瞳。
その美貌と控えめな性格、優しい言動。
生徒から絶大な人気を誇る物理の先生。フェイト・T・ハラオウン先生。
「高町さん、課題終わった?」
キラキラした現代に降り立った王子様スマイルで全く甘くない台詞を投げかけてきた。
―――――――――――――
「…あと半分です」
「あれ?意外と早いね」
流石、高町さん。優秀だ。うんうん、と腕を組んで頷く様子は年齢にそぐわない可愛いもので。
ハラオウン先生大好きな皆さんじゃなくとも可愛いと思ってしまうだろう。もちろん、老若男女問わずに。
でも、私はそんな思考回路よりも課題を済ませることが先決だった。
『時間内に終わらせられなかった罰だよ』
耳元で囁かれた言葉は全身を甘い振動で震わせた。
首筋に彼女の唇が触れ、視界に入る綺麗な金髪の存在が、これは現実だと突き付ける。
いつの間にか第二ボタンまで外されていたブレザーの中にその端正な顔を埋め、鼓動が早まるそこに唇が触れた。
「―っ」
一瞬。
ちくりとした痛みがあって、胸元から顔を離したハラオウン先生の深い紅と瞳が交わる。
「…っ、ど、して…こんなことっ」
「だから、罰だよ」
笑顔。しかし、いつもの王子様のような微笑みではなく、どことなく。意地悪な感じで。
もしかして。もしかしなくとも。
この人の素はこっちなんだろうな、と理解せざるをえなかった。
「…セクハラですよ、ハラオウン先生」
精一杯の強がりな言葉をはく。
そうしなければ、今にも崩れてしまいそうになるから。
「ふふ、罰だって言っているよね?なのは」
不意に呼ばれた名前に鼓動が高鳴った。顔が赤いのが自分でもわかって、恥ずかしくなる。
「なのは」
もう一度呼ばれた時、返事をするのも反論するのも、それは叶わないことだった。
仄かに香るフローラルな香りはハラオウン先生からで。
目を閉じた世界で唯一伝わる温もりは唇からだった。
―――――――――――――
そんなことがあったのは一週間前。
心臓の上にあった紅は薄れていて、寧ろ、夢だったのではないかとも思う程だ。
あの日以来、ハラオウン先生を見てもいつもの王子様で、むしろあの時が嘘のようで。
様々な思考が飛び交う脳内。
無意識に手が止まる。
「高町さん、どこかわからないところがあった?」
優しい声音。近付く足音。
長くて細い、綺麗な指先が私の机に伸ばされてくるのが視界の端に見えた途端。
不意にあの瞬間を思いだし、顔が熱くなる。
「高ま……、なのは」
どこか低くなった声に混じるいじわるな様子。
俯いて、俯いて。ハラオウン先生には私の顔が見えないように、見せないようにしていても、先生にはバレているのがわかる。
高鳴る鼓動。
「なのは。どうしたのかな?何かわからないことがあるの?」
あるよ、先生。
あの日からずっとハラオウン先生のことばかり考えてる。
私の名前を呼ぶ声がこだまして、体が熱くなる。
先生が誰かと話してるのが、笑ってるのが、嫌、なの。
そんな感情、私は、知らない。
そんな激情、私は、知らなかった。
先生。
解き方を教えてくれるの?
―――――――――――――
「…泣いてるの?なのは」
「泣いて、ないです」
「でも、」
「泣いてないもんっ」
あぁ、もう最悪。
一人で勝手に泣いて、逆ギレのような態度をとって。
一週間前のあれだって、先生にとって戯れに過ぎない。
妙に手慣れてたし、先生くらいの人にそんな人がいない方がおかしい。
それに、彼女は言った、罰、だって。
涙が止まらない。ここからいなくなりたい。
違う。ハラオウン先生の前から消えたい。
こんな生徒困るに決まってる。
思うより、早く。体は感情に従順だった。
ガタッ。
立ち上がって、逃げだそうとした。
でも。それは叶わなかった。
包む香りはフローラル。
あの時よりもずっと強くそれを感じるのは抱きしめられてるから。
「…なのは」
耳元で囁かれるそれに全身が痺れたように震える。
「泣かないで、なのは」
回された腕に少し力が篭ったように思う。苦しい。
それと、ハラオウン先生がわからなくて、苦しいの。
「君に泣かれてしまうと困るんだ」
ほら、困らせた。
―――――――――――――
ハラオウン先生を目で追って出くわした場面。
放課後。校舎裏。
ハラオウン先生とたぶん先輩。
困ったように笑う顔と赤い顔。
先生にとって生徒は生徒でしかない、と知らしめられた。
辛かった。怖かった。
でも、それでも。
「なのは?」
「私…」
「うん」
「答えが見つからないんです」
少しだけの嘘。
本当は、わかってる。
ただ認める勇気が欲しかった。
「…なの、…っ」
先生の腕の中でもぞもぞ動いて、その紅を見つめる。
頭の中で導き出した答え。
私はハラオウン先生が、好き。
どうしようもないほどに好き。
からかわれてるかもしれない。
私のような生徒は多くいて、困らせてしまうかもしれない。
それでも、知ってしまったから。
寂し気に笑う、悲しい顔。
―――――――――――――
抱きしめ返したら、先生は何だか慌てたように両腕をバタつかせる。
「な、なのはっ」
「…にゃはは」
可愛いな、なんて笑顔が堪えられずにこぼれてしまった。途端。暖かいものが唇に触れた。
「ハラオウン先生…っ」
「フェイトだよ、なのは」
優しい声、笑顔。
「問題です」
「ふぇ!?」
あまりに場違いなような展開。
私達以外誰もいない教室に私の声が響く。
「私はなのはが好きだよ。生徒とか先生じゃなくて、なのはだから好き。なのはは私を…、えっと」
可愛い。
王子様とか言われてる、先生の姿はどこにもなくて、可愛い。
「…フェイト、先生」
「っ…何?」
はじめて紡いだ先生のファーストネーム。
少しだけ震えた声は実に正直だ。
緊張する。
綺麗な顔に私の顔を近付ける。
「なの、―っ」
先生の声は途中で消えた。
ほんの一瞬のこと。
瞳を開けると見開かれた紅があった。
「先生」
「なのは…」
「今のが先生の問題の答えだよ」
「…好き、なの」
―――――――――――――
「なのは」
「何ですか?フェイト先生」
「さっき私の問題を最後まで聞かなかったよね?」
ニコニコと至近距離で話し掛けてきた内容に声も出ない。
せっかく両想いになった、この時にこの人は。
ため息が出そうになる。
「不満そうな顔だね」
くすくすと笑い出すフェイト先生の雰囲気に近いそれをこの前感じた。
「フェ、―っ」
「罰だよ、なのは」
突然首筋に噛み付くようなキスを一つ落とされ、流れるように、私の唇を塞ぐ。
こぼれるは吐息。
溢れるは、この人が愛しいという想いばかり。
夕日がさす教室。
二人だけしか存在しない空間にガタリと音がした。
ベクトル
(いつだって君への想いは全力全開)
23歳と15歳。
ハラオウン先生、犯罪っぽいよね☆
相変わらずのぐだぐだに申し訳ないです´`