「ねぇ、兄ちゃん」
恐る恐る吐き出された言葉は、そのまま薄暗い車内の空気に溶けて消える。差し出された指は触れることなくゆっくりと落ちていった。
「…なんだ」
邪魔したことを怒っているようでいて、存外タケルを許しているように感じるのは兄弟だからなのか。再び浮上して今度こそ触れてきた熱に、宗助は苦笑した。
「ごめんな、さい」
「……あぁ、」
震える声で細い息と共にやっと吐き出された言葉は、謝罪だがそれだけでないこともちゃんと知っている。
「でも僕は後悔してない」
「だろうな」
わかっていた、と。そう即答されてタケルは目を見開く。大きな丸い目がこちらを凝視していた。
「知ってたの」
「あぁ。お前がヤサコとイサコを助けようとしていたのは知っている。俺を出し抜こうと画策していた裏で、葛藤していたのも」
兄弟だぞ、舐めるな、と。滅多に見せないあくどい、と形容せざるを得ない笑顔にタケルは眉尻を下げて自嘲気味に笑った。
「……兄ちゃんには、敵わないなぁ」
「まだ負けてたまるか。俺は兄ちゃんなんだからな」
そう言ってくしゃりと髪を掻き交ぜられて、ぐっと顔を近付けられる。間近に迫った兄の整った顔に、タケルはほんの少し息を乱した。
「何度でも妨害すればいい。俺は負けない。お前が立ち向かって来るなら受けて立ってやる。弟が兄に反抗するのも追い抜かそうとするのも、よくあることだ」
なんでもない風に嘯いて、宗助は笑った。
「それに、もうすぐ終わる」
その先にあるのがハッピーエンドかバッドエンドかなんて知らないが、と言って不敵に笑うその様子は、いつもの兄だった。それに酷く安堵する。
「僕はね、あの二人に幸せになって欲しいんだ。ヤサコはイサコを心配してて、イサコはヤサコを大切に思ってる。側に居させてやりたいんだよ」
躊躇いなくそう言う弟の横顔に、宗助は時の流れを感じた。昔はあんなにどこに行くにも着いて来たのに、と思う。
「…あぁ、そうしろ」
「うん。僕は願うよ。そして変えてみせる。みんなが幸せになれるように」
いつもの小さな笑みではなく、ふわりと咲くような笑みに宗助はつられて笑った。
これから最後の攻防が始まる。
僕たちの目指す最果てには希望が植えられていると信じていた。
*****
でんおーコイノレ妄想。
ごめんなさい内容よくわかってないから…!全然違うんだけど、と言う場合には教えて下さい。
だって総集編見てもわかんなかっry
猫目は妨害した弟をなんだかんだで許してると思います。
意外と強かな弟。兄ちゃん大好き。でもヤサコイサコも助けたい。
そんなタケルが大好きです。でも兄ちゃんが一番大好きです。
最終回悲しいー(´・ω・`)
梨央さんに捧げます。(いらんて)
眼の前が暗くなる。
あぁ、お前の声が聞こえる。
涼やかで、澄んだ清流のようなお前のその声が、苦痛に――いや違うな。悲しみに歪むのを聞いたのは、初めてだった。
「…なく、なよ…」
「っ喋んな莫迦…!」
ぼろぼろと、まるで黒曜石のような綺麗な瞳から大粒の涙が零れ落ちて俺の頬を濡らした。
俺には一生縁がないと思っていたもの。なんで、逢って間もないお前がそんなに悲しむんだ。
俺は、紛れも無く化け物だ。そんなのは、お前も俺の姿を見ればわかる筈なのに。
なのに何で触れる?
何で躊躇わない。
恐ろしくは、ないのか?
「怖いわけ、ねぇだろ。お前は、お前なんだから…!」
鼻水と涙でぐちゃぐちゃの顔が、必死になって俺の意識を引き止めようと何度も何度も俺の名を呼ぶ。
肩を掴んで揺さ振られて、正直少し痛い。なのに不思議と心は晴れやかだった。
―――あぁ、そうか。
「すみ、むら…」
「! なんだ!?」
だから耳元に囁いてやった。こいつが一番欲しがって、でも恥ずかしがって俺が絶対に口にしなかった言葉。
「……!」
「…じゃ、な」
「っや!やだ、ししお!!」
「限君…!」
眼が、霞む。あぁ、もう感覚すら掴めない。人一倍そういうのに鋭かった俺が。
俺は、人間に生まれたかった。
お前の側に要られるような、そんな人間に。
もし生まれ変われるなら、今度はちゃんとした人間に生まれたい。
力なんかなくたって構わない。お前が側で笑ってくれるなら、俺はいくらだって強くなれるから。
さよならだ、墨 村。
また、次の世界でお前に逢えたらいい。
「好きだぜ、ずっと」
了
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title/不在証明
結*界*師すぺさるを見て。
げんげんが死ぬとこは本気で号泣しました。ママンに変な顔された←
よっしの泣き顔とげんげんの穏やかな微笑に涙が止まらなかった。
ありがとうありがとうありがとう。好きだよ。愛してる。
『幸せだ。誰かの為に死ねるなんて』
自分に関する記憶がなくなることよりも、お前が笑っていられなくなる方が怖かった、なんて言ったら、お前はまた、あの困ったような笑顔で笑うのだろう。それが見たくないから、今まで戦ってきたのに。
なぁ、お前も。お前の姉さんのように、俺のことを忘れるのだろうか。例外なくみんな?
だとしたら悲しいことだ。あんなに走ったのは、彼女の為なんかじゃなかった。
―――お前の、為だったのに。
「なぁ、あいつ、俺のこと忘れると思うか」
「ゆうと…」
「ま、いいんだけどな。俺達はいずれ居なくなる運命なんだから」
それにもう戦えないし、と自嘲気味に言うと、自分と契約している緑色の巨体が、泣き出しそうに声を震わせた。
「…ごめん…」
「何で謝るんだ」
「…もっと俺が、気をつけていれば……」
「お前の所為じゃ、ない」
お前は悪くない、と。いつもは考えられない程優しい声で侑 斗は言った。
記憶がないのなら、過去に戻ってまたやり直そう。今度こそあの姉弟と共に生きたい。――そう、願う。
「次に出逢ったら名前で呼んでやるよ。良 太郎」
了
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title/不在証明
妄想突発文。
有り得るかもしれない未来の可能性のひとつ。
忘れてしまったから、もう一度出逢った。君は変わらず、優しいままだった。
『ルギア爆誕』のルギアの台詞より。
「どうした?」
ひょい、と顔を覗き込まれて一瞬息が止まった。ドキドキドキ。心音。耳元で聞こえる血脈。振り返った先には整った顔。瞬時に顔に熱が昇る。
「ゆう、と」
「?」
「あ、いや…ごめん」
思わず謝ったら何謝ってんだよ、と不機嫌に眉を寄せられた。難しい。彼は予測もしないところで突っ掛かる。
「言えよ。聞いてやるから」
寛大にも、聞いてやるよほら言ってみろ、と傲慢に腕を組んだ彼は不敵に笑った。
「ん、…やっぱり君は、君なんだなって、思って」
「はぁ?」
やっぱり君は、あの人なのだと。
「意味わかんねぇ」
「わかんなくていいよ」
にこり、と得意の力無い笑みを浮かべる。へにゃりと空気が緩んだ。
(いつかきっと訪れるさよならを)
(僕は、堪えられるのかな)
(どうして君は、姉さんと出逢ったの?)
(やっぱり君は、姉さんが好きだった?)
痛いのは、心だ。彼が好きだから。
彼を、思っているから。
「……でも」
「出逢わなければよかったと、思ったことはなかったよ、」
ぱたりと一つ、雫が落ちた。
了
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シリアス侑良。
思い出の場所が一緒だった。やっぱり彼は彼だった。
いつかくる別れの日に、怯えてる。
泣かない、と決めた筈だった。涙を見せたってどうにもならないものはならないし、あの時どんなに懸命に祈ったところで結果は変わらなかっただろう。
兄さん。僕の唯一の肉親。あの時、僕が手を伸ばしていれば、貴方は死ななかったのだろうか。
「…怖いのか?」
「うん」
「なら俺は、強くなる。お前が、不安になんてならないくらいに、強く」
「……うん、」
優しい優しい、虎の子。僕を思って泣いてくれた。
君になら、背中を預けてもいいのかな。抱き締めて貰っても、いいのかな。
ねぇ兄さん。僕が貴方を大事に思ってることに、これからも未来永劫変わることなんてありえないけれど。
例えば僕が死ぬ間際、あの太陽みたいな赤を思い出したのなら。
貴方は僕を、赦してくれるのだろうか。
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妄想突発文。
大好きな兄を霞ませる程に、日に日にレ ツの中で存在が大きくなっていくジャ ン。
夏頃になったら両思いにする予定ですよ^^