オリジナル設定集みたいなもの、その1です。
地の文ほぼナシでモンスターボールの設定を、ウツギ博士がひたすら話してます。読み飛ばして頂いて問題ない話です。
* * * * *
「えーっと、ボールの親IDを書き換えるんじゃなく登録したって……」
「あ、あーあ、あれか。あれはね、トレーナーカードが関係してるんだ。どう説明したらいいかな……。まず、ポケモンがどういう原理で捕まるか知ってるかい?」
きぃ、と軽く開かれた扉の外はすっかり日も暮れて、昼間は心地よかった潮風が肌寒く感じる。それを気にした風もなく、博士はシャツに白衣だけの軽装でゆったりと歩み出す。
「わかりません」
「ポケモンは弱ると小さくなって物陰に隠れるという習性がある」
「小さくって、もしかしてモンスターボールに入れるくらいですか?」
「そう。その弱った時の本能を利用しているんだ。と言ってもバトル程度では小さくならないから、ボールにポケモンを小さくする仕掛けが施してある。そしてその仕掛けはポケモンが小さくなる、というところからヒントを得ている」
外壁に沿って設けられた階段を博士に倣って静かに上がる。確か二階が居住区のはずだ。
上がってすぐに玄関があったが、話の着地点は見えない。あと数十秒で終わるのか、この話。
「さっきポケモンは弱ると小さくなると言ったけど、本来なら肉体を持つものが数倍も小さく縮むことは出来ない。現に人間や他の動物にはまねできない芸等だ。それをなぜポケモンだけができるかと言うと、ポケモンが自分の体を電子のデータに変換できる生き物だからだよ」
「へええ……あ、だからパソコンでBOXに預けられるんですね」
ゲームではないこの現実の世界で生物をパソコンに送れる、という事実に回答を得られて俺はいたく納得した。
いやまぁ、生物が電子データに変換されるって前提自体は正直わけわかめだけど、それは聞かないでおこう。もし相対性理論とか量子力学とか論文を引き合いに出されても、俺は絶対に理解できないからなあ。
「そう、それは応用だね。電子情報だから圧縮もできるし元にも戻せる。だけどいくらデータに変換できると言っても、元気な時はデータになる必要がない。小さくなる必要がなきゃ、モンスターボールに入る必要もない。それをボールに入れるためには、データへ変換するよう外側から働きかけなければいけない。だからボールにはそのためのプログラムがプログラミングされているんだ。ちなみに種族毎にデータへ変換するプログラムは違っているんだよ」
踊場に着いてしまうと博士はこっちを振り返った。どうやらここで話してしまうつもりらしい。
「そう言えばコトネちゃんが言ってました。ボールに情報を書き込むことでそのボールにポケモンを拘束するって。もしかしてあの捕獲までの間は、モンスターボールが種族を判別し、それに合ったプログラムでポケモンをデータに変換してる時間、てことですか?」
「そうだね」
うおー、なんというオーバーテクノロジー。てゆーか、電子のデータになれるってデジモンみたいだなー。作品的にはデジモンのが後だけどさ。
「で、捕獲しデータへ変換されたポケモンは、その時にいくつかの抑止力を課せられる。親IDを持つ人間の言うことを聞くこと、住処がボールになることなんかだね。けれどこの抑止力も含め、ボールでデータに変換すると言うことは本来なら不自然な事なんだ」
「あの、話を聞いてると、まるで洗脳、みたいですね」
ゲームなら気にならない。そういう仕様だからと思うだけだ。でもこの世界ではポケモンは生きていて、勝手に閉じ込めるのはどうなんだろう。
いや、現実だってペットショップで動物が売り買いされてるけど、ううーん……。
「うーん、洗脳とは少し違うんだよ。ポケモンは人よりずっと強い力を持ってる。安全に一緒に居るためにはどうしたって抑止力が必要になる。捕獲は、そのための制約をお願いする行為なんだ」
「お願い、ですか?」
「うん。戦闘によって力を示し、ボールを投げることで制約を頼む。ポケモンはそれを拒んで逃げることもできる。ボールの捕縛率は絶対じゃないだろう?」
なるほど、モンスターボールは猛犬に着ける首輪代わりで、それを付けて飼われるかどうかの選択の余地はポケモン側にもあるのか。
「さっきの続きだ。ポケモンの本能を利用してボールに収めていると言ったけど、実は現存するポケモンの半分以上は死にそうになっても縮んだりしないと言われている。この研究は進んでないから仮説にすぎないけど、世代が進むごとに本能が薄れてるのではないかと言われているんだ。つまり電子データになれる素質を持つことと実際にデータになることはイコールじゃない」
「あー……例えばいくら野球選手になれる素質があっても必ずなれる保証はない、みたいな感じですか」
自分で言っててもよくわからん。
「ちょっとちがうね。うーん……世代を重ねる内に縮む機能が退化した、と言われているんだよ。――そうだなぁ、人が猿から進化したという説は知っているかい?」
猿がペキン原人になりクロマニョンでホモサピエンスな横スクロール画像が脳裏に浮かぶ。中学の授業だったっけか。っか、ポケモンの世界でも人は猿から進化したんだなぁ。
思考は逸れまくりだが、博士の言葉には頷く。
「人は進化の過程で色んな物が退化していった。わかりやすい例で言えば足だね。猿の足は木の枝に掴まる事ができるほど器用だけど、人間はできなくなってる。森ではなく大地で暮らすうちに歩くことへ特化した結果、使わなくなった指先の器用さが損なわれた訳だね」
「なるほど」
そういや人間の足の小指の関節って人によって数が違うって聞いたことがある。大体の人は歩くために最低限必要と思われる1つに退化してるけど、たまに2つある人がいるそうだ。まだ退化中ってコトだな。
「話を戻すよ。さっき縮む本能が退化したと言ったけど、失われた訳じゃない。人の足が退化しても無くならないようにね。意識して小さくなれないだけだから、外から働きかければ縮むことができるんだ。その縮む過程はさっきも少し言ったけど、データに変換され圧縮されるってことだ。そのデータ化されてる時にボールがデータを解析して、ボールに書き込み、同時にポケモンへ制約を課すプログラムを組み込む。その時、ボールを投げた人のトレーナーカードのIDが主人としてポケモンにもボールにも、変更不可の親IDとして認識される」
なんとなくわかった、かなあ。
「だから主人の命令を聞くようになるけど、他人から貰ったポケモンはジムバッジがないと聞かなくなる。これは捕獲した時に登録された親IDを持つ人間の言うことを聞くように制約がかけられている事と、情報の上書きが禁止されてる事、そしてポケモンの気持ちに起因している」
「気持ち、ですか?」
「うん。今チコリータが拗ねてるように、いくら言うことを聞くように制約がかけられていても、ポケモンにはちゃんと意志がある。捕まる時だってそうだ、戦って自分が認めた人間だからこそ捕まろうと思う。じゃなかったら逃げる事だって出来るんだからね」
「ああ、つまり交換した人間の命令は制約だから聞くけど、自分が認めて付いた訳じゃないから、実力がないと判断したら言うことを聞かなくなるんですね」
「そう。そしてその目安となるのがジムバッジだ。ジムバッジには制約のレベルを引き上げるプログラムが組み込んである」
へえ、そんな仕掛けがあったのか。そういや初代だと能力を引き上げる効果もあったっけなあ。
「ん? あれ、じゃあバッジを獲得しても、実力を認めて従うって訳じゃなくて、制約だから従うだけなんですか?」
「そうとも言い切れないんだよね。バッジがなくても信頼関係が築かれていれば言うこと聞いてくれたりするし、性格によっては認めてなくても従ったりする。その逆もあるから難しい質問なんだ」
「ふぅん……あくまで目安なんですね」
ゲームでもなつき度と命令できる権限はイコールじゃなかったけど、生きてるならなおさら思い通りにはいかないよな。ゲームのように出来る事と出来ない事がはっきりしてるワケがないんだ。
「そうだね。さて、ここでようやくトレーナーカードの話に戻るよ。制約をかけるために欠かせない親IDはトレーナーカードに記録されていて、通常は捕獲の仕上げに書き込まれる。ここで問題だ。僕みたいなトレーナーカードを持たない人間は捕獲できると思う?」
「……制約がかかるのが捕獲の仕上げなら、それは捕獲の途中でもありますよね。だったら無理じゃないでしょうか。エラーが起こりそうですね」
「そう、親IDがないと制約がかけられないから必ず失敗してしまう。そこでトレーナーカードとは別に、研究者などに与えられているマスターカードっていうのを使うんだ。
トレーナーカードは親IDを記録した身分証明みたいなものだけど、マスターカードは全く違うものなんだ。モンスターボールのプログラムの一部にアクセスしてプログラムを弄る事が出来る、言わばマスターキーみたいなものなんだよ。だから目的別に制約の度合いや親IDの登録の不可を設定できる。――今回盗まれたワニノコを含めた3体は君とヒビキくんに渡す予定だったから、親IDの登録を許可していたんだ」
「ああ、それで変更も上書きも出来ないモンスターボールに親IDを登録できたんですね」
「そういう事だね」
「……ん? あれ? じゃあ、盗まれたワニノコの親は……」
「う〜ん、そうなんだよねぇ……泥棒が交換してくれるとも思えないし、奪えば僕らが泥棒になっちゃうからねぇ。困ったね」
軽っ! そんなんでいいのかよ。
「一応、登録を取り消す方法はあるけど、ま、泥棒が捕まってから考えるしかないね」
ふと思ったが、ここまで管理体制が整っているのなら、追跡は可能じゃないだろうか。
例えばポケモンセンターを利用したり、ジョウト以外の地域へ行こうとするなら、どうしたってトレーナーカードを使わなきゃいけない。あ、でも偽造カードを使用している可能性もあるか。
う〜ん、シルバーと言う名前も本名じゃないのかもしれないな。
「……とにかく、見かけたらなるべく取り戻す努力はしますね」
「うん、よろしく頼むよ」
俺にストーリーを変える気はない。従って取り戻す気もない。とんだ茶番だと思いつつも、必要なのだと自分に言い聞かせる。病院に戻る気はないんだ。
次話 初めてのバトルは主人公と
前話 初めてのポケモンは無条件に可愛い