ウツギ家にお世話になった翌朝。またいらっしゃい、兄ちゃんまたポケモンの話しような! なんて有り難い言葉をいただき、何度も頭を下げながら外へ出た。社交辞令だとしても根無し草な俺には嬉しい言葉だよ。
 ウツギ博士は一足先に階下の研究所へ出勤している。連れ歩きレポート用のプログラムを準備しているはずだ。

「失礼しまーす。あ、おはようございます」
「はい、おはようございます」
「おはよー。ってなんで敬語?」
「いや、助手さんがいたから」
「ひのー」
「ちこ」

 ヒノアラシが短い手をあげ、それに答えるようにチコリータが葉っぱを揺らす。挨拶が終わるとヒノアラシがチコリータを追いかけ始めた。テーブルやイスの間をちまちま抜けて楽しそうだ。
 助手がいるのは当然として、ヒビキの存在にはちょっとばかし面食らってしまった。トゲピーのタマゴイベントは確かキキョウシティだ。ここで会うとは思ってなかったよ。

「ヒビキくんはどうしたんだ? ウツギ博士に用事?」

 なんかイベントあったっけ?

「ううん、リョウくんに用事。昨日約束したじゃん」

 あ、バトルの約束か。そういや今日ってだけで、時間も場所も決めてなかったんだっけ。

「悪い、待たせちゃったな」
「ううん、ちょうど来たところだったよ。タイミングばっちり」
「なら良かった。次からは時間や場所決めとくか」
「そうだね。だったらポケギアの番号交換しようよ」
「おー。そーだな」

 記念すべき登録第一トレーナーが主人公かぁ。なんか豪勢な気分。
 手慣れた仕草で登録するヒビキと違い、俺がもたもたしてる間にウツギ博士が奥から顔を出した。

「リョウくん、準備できたよ。おや、ヒビキくんにヒノアラシじゃないか、おはよう。そうだ、丁度良かった。2人ともおいで」

 2人と2匹でぞろぞろ奥へ向かうと、ポケギアに記録用プログラムをインストールしてくれた。レベルと種族の欄に幾つかのチェック項目、それから備考欄のついた簡易なものは、その日連れ歩った子の記録をするものだ。
 因みにデータを送るのは週一間隔で良いらしい。ここで驚きの事実が発覚した。ポケギアにはメールと写メの機能が付いていたのだ。教えてくれて有り難う、ヒビキに博士。ゲームじゃメールっていやボールに付けるものだから、危うく知らずに旅立つ所だったよ。





 ウツギ研究所の前、芝が途切れた固い地面の上で俺たちは対峙していた。少し離れた場所にはウツギ博士、助手、ウツギ夫人に息子さん、コトネとコトネのお父さん、ヒビキのお母さんまでいる。バトルを見られるのは恥ずかしいんだけど、ほぼ負けが確定しているから気負いはあまりない。
 チコリータは頼もしいことにやる気十分で頭の葉をぶんぶん振り回し、レベルでも相性でも有利なヒノアラシの方がちょっと引け腰だった。研究所仲間とバトルすることへの戸惑いか、ウツギ研究所でのチコリータとヒノアラシの力関係か。引っ込み思案なほど照れ屋のヒノアラシはどっちも、いじっぱりチコリータは後者が理由だろうか。

 なんて考えてる俺もチコリータには逆らえていない。用意した飯は食べてくれたしバトルに出てくれるあたり決定的に嫌われたわけじゃないんだろうけど、撫でたり抱き上げたりはさせて貰ってない。
 少しずつでもいいから距離を縮められるよう、頑張らないとなあ。

 間を持て余して取り留めのない事を考えていると、ウツギ博士の息子さんが一歩前に出て右手を真っ直ぐに挙げた。きらきらした顔で審判を買って出てくれたから頼んだのだ。駆け出し同士の野良試合に審判もなにもないけど、あんなに嬉しそうにされると頼んで良かったと思う。

「ルールは1対1、どちらかが倒れるまで」

 張り上げられた幼い声は意外と様になってる。ポケモンバトル番組が好きだと言っていたし、普段からごっこ遊びでもしてるのだろうか。

「準備はいいですか?」
「うん、いいよ〜」
「いけるか、ワカナ?」
「ちっこ!」

 任せとけ! とばかりに威勢のいい返事が響いたのを合図に、少年が手を振り下ろした。

「バトル開始!」
「ワカナ、体当たりだ!」
「こっちも体当たり!」

 動き出したチコリータから少しだけ目をそらしてポケギアを確認する。ヒノアラシのレベルは9。火の粉を出されたらひとたまりもなかったが、ひとまずセーフだ。
 しかし走り出したのはチコリータの方が先だったというのにあっと言う間に距離を詰められて、うまく反応できない間に体当たりされてしまう。やっぱ素早さの種族値はひっくり返せないんだな。
 ボールに表示された体力がぐぐっと減り、ほぼ半分持ってかれた。努力値無振りでほぼ2倍のレベル差があるにしては良く耐えたなあ。

「がんばれワカナ、体当たり仕返してやれ!」
「ちぃっこー!」

 チコリータの攻撃力はさほど高くないが、防御やHPが低めのヒノアラシ相手なら、急所に2回入れば勝てる、かもしれない。
 ま、そうそう上手く行くわけないだろうけど。
 なんて思ってたら、一発入れられて逆に奮起したらしいチコリータが、ヒノアラシを吹っ飛ばすほどの体当たりを見せた。軽く宙を舞ったヒノアラシにあっけにとられつつ、ポケギアを確認する。ヒノアラシの体力は半分近く削れている。
 いくらヒノアラシの防御とHPが低かろうがこれだけのレベル差だ、たぶん急所に入ったのだろう。

「ナイスワカナ! いいぞ、その調子だ!」
「ヒノノ、体当たり!」
「よけてくれ、ワカナ!」

 体当たりの命中率は意外なことに100パーセントじゃない。変なところで外してくれる95パーセントだ。そしてなんと今回は95パーセントクオリティが発動し、見事にチコリータは攻撃をかわしてくれた。この勝負、わからなくなってきたか?

「いいぞ、その調子で体当たりだ!」
「ヒノノ! 慌てずに受け止めて、体当たり仕返すんだ!」

 勢いをつけて繰り出された体当たりを、体制を整えたヒノアラシは堂々と正面から受け止めた。そのせいか立て続けに急所という幸運は訪れず、ヒノアラシのHPはイエローゾーンに入って少しで止まった。
 急所に入っても削りきれるか微妙なラインだ。急所で乱数一発ってところだろうか。運任せだな。
 いや、今はそれよりもう一度攻撃の機会を得るために、再びの95パーセントクオリティを願うのが先だ。なんという運ゲタイム。

「頼むワカナ、よけてくれ!」
「ひーのっ!」

 べち! という音とともにチコリータが転がって、俺は思わず叫んだ。

「ワカナ!」
「ち、ちこ……」

 かろうじて立ち上がったチコリータは、聞いたことがない弱々しさで鳴いた。これが瀕死か!? とポケギアを見やればリアル襷が発動していた。まさかの残りHP1だ。
 まだ終わってない!

「ワカナ、体当たりだ! いけるか?」
「ちっこー!」

 馬鹿にすんじゃないわよ! とばかりにチコリータが走り出す。
 目を見張ったヒビキが慌てて指示を出した。

「煙幕だ、ヒノノ!」
「ひ、の〜」

 いくら素早いヒノアラシでも立て続けに攻撃は繰り出せない。その前にチコリータが体当たりを決める。それを受け止めたヒノアラシのHPがレッドゾーンへ突入する。
 普通に考えればこのターンでヒノアラシが体当たりを決めておしまいなのだが、ヒビキが命令を訂正する間もなくヒノアラシが煙幕を張ってしまう。
 煙幕は命中を1ランク下げる技。この状態だと命中100パーセントの技は75パーセントになる。体当たりは元が95パーセントだから、単純に考えて、今の命中率は70パーセントくらいか? 低めだけどやるべきことは一つしかない。

「うっすらと影が見えてるところへ、迷わず体当たりするんだ!」
「ちこっ!」

 力強くチコリータが大地を蹴りつける。煙幕の中へ迷わず一直線に突っ込んで行く。
 しかし体当たりが決まった音はせず、代わりに聞こえてきたのはヒビキの声だった。

「ヒノノ、体当たりだ」

 徐々に煙幕が薄れて行く中、今度こそどっとぶつかり合う音が聞こえた。
 ポケギアを確認するまでもない。煙幕が晴れるのを待たずに踏み入ると、ヒノアラシの近くでチコリータが倒れていた。ヒノアラシがわたわたと様子を窺っている。

「ワカナ、大丈夫か?」

 気絶したらしく返事がない。口元に手をやると息はしている。モンスターボールに戻すのは気が引けて、俺はそっとチコリータを抱き上げた。

「あ、このバトル、ヒビキさんの勝ち!」

 少年がヒビキ側の手を上げた。審判頼んだのすっかり忘れてた。
 駆け寄ってきたヒビキがヒノアラシを抱き上げて嬉しそうな笑顔を浮かべる。

「ありがとう、ヒノノ」
「ひのー」
「リョウくん、ワカナは大丈夫?」
「のびちゃってるけど、これが瀕死状態なんだよな?」
「そうだよ。回復マシンに入らなくても少ししたら気がつくから、そんな顔しなくても大丈夫!」

 いつの間にか近くに来ていたコトネが、元気付けるように明るく笑った。
 バトルに慣れていないポケモンは瀕死状態になると大抵は気を失うと聞いていたのに、いざ目にするとすごく不安になる。それはヒノアラシも一緒みたいで、ない首を懸命に伸ばしてチコリータを覗き込んでいた。

「ウツギ博士が回復マシンの準備してくれてるから、行こ?」
「ああ」





 ウツギ博士にチコリータたちを任せ、俺たち3人+1匹は研究所の一角を占拠していた。研究員より部外者の数が多いって、よく考えたらとんだ零細研究所だよなあ。





「ヒビキくん」
「ん、なに?」
「バトルしてくれてありがとう。少し度胸がついた気がするよ」

 ヒビキは人好きのする笑顔を見せた。

「どういたしまして。楽しかったよ!」
「俺もだよ。ほぼ体当たりの応酬だったのにな」
「そうなんだけど、すっごいハラハラしたよ! リョウくんもワカナも初バトルだなんて思えないほど堂々としてたからかな?」

 俺は中身と外見の年齢が釣り合ってないからそう見えるんだろうが、チコリータは意地っ張りだから弱みを見せないようにしたんじゃないだろうか。わかんないけど。

「ありがとう。でも勝負がいいとこまでいったのは手加減してもらったからだよ」

 最初に火の粉を使われてたら一撃で勝負が決まっていた。炎技は草タイプのチコリータにとって弱点だからダメージ2倍、技とポケモンのタイプが一致するとダメージは1.5倍。ヒノアラシと火の粉は炎タイプだから、つまりダメージは3倍になって、しかも命中率は100パーセントだ。勝てる訳がない。

「え? 手加減なんかしてないよ?」
「え? だって火の粉使わなかっただろ?」
「ひのこ? 覚えてないよ?」
「まじで?」
「まじまじ」

 ……そういやさっき煙幕使ってたな。

「もしかしてヒノアラシが6レベルで覚えたの、煙幕?」
「うん、そーだよ」
「リョウくん、なにか勘違いしてたみたいね」
「そうみたい」

 チコリータがレベル6で覚えるのは葉っぱカッターだ。てっきりヒノアラシも火の粉覚えてるとばかり思ってた。
 なんとなく御三家は技を覚えるレベルとかその威力とか一緒だと思い込んでたけど、よくよく考えたら進化のレベルとか違うし、同じレベルで同じような技を覚えるわけはないんだな。
 バトル中で焦りがあったとは言え、うわあ、ハズカシイ勘違い。

「ねえ、リョウくんってどのレベルで技を覚えるとか把握してるの?」
「いや全然。自分が興味ある奴だけ、なんとなく知ってる程度」

 初代からのポケモン復帰組である俺は10年くらいブランクがあって『性別? ニドラン♂♀だけじゃないの? 性格? なにそれ萌要素? 特性? いまいちわからん。努力値? あー、なんか不思議な飴とかでレベル上げるよりちゃんと経験値入れた方が強くなるって噂があったなあ』な人だったのでネットで調べまくった。
 ついでにバトルフロンティアやバトルレボリューションにも手を出し始めて、結果、自分が気になったポケモンの種族値や技をなんとなく把握するに至ったわけで。

「すごいね〜僕さっぱりだよ」
「やっぱりリョウくんって勉強家なのね」
「そう? ありがとう」

 ただの廃人(初級レベル)です。という言葉は飲み込んで、素直に誉められておく。ヒビキとコトネは純粋に誉めてくれてるだろうからなあ。

「常識に疎いからわからないんだけど、技習得のレベルとか種族値ってあんまり知られてないの?」
「種族値ってなに?」

 しまった、もしかして概念全く浸透してないのか?
 余計な事を口にしたかと慌てる俺とは対照的に、ヒビキは至ってのほほんと答えを待っている。言葉に詰まった俺に苦笑いのコトネが助け船を出してくれた。

「新米トレーナーの間ではあんまり知られてないと思うよ。ポケモン塾に通ってたなら別だけど」

 よかった、知られてはいるんだな。しかしポケモン塾って何教えてるのか謎だったけど、そういうこと教えてるのか。

「ま、実地で覚えるのが一番身につくだろうし、数値化されたものが全てじゃないよな」
「そうよ! 知識が全部じゃないの。ポケモンは生きてるんだもの、数値だけじゃわからないのよ!」
「りるるりるる!」

 ぐっと拳をにぎったコトネは、まるで水を得た魚のように生き生きと力説した。マリルもぴょんぴょん飛び回る。やけに力が入ってて口を挟めない雰囲気だ。廃人となにかあったのか?
 見慣れた風景なのか、ヒビキは苦笑気味にそれを見ている。

「リョウくん!」
「りる!」
「はい?」

 あまりの力のこもり具合に、思わず姿勢を正してしまった。仰け反らなかった事を誉めて欲しいくらい熱意がほとばしってる。

「私、リョウくんを応援するわ! バトルの知識を持つこととポケモンを大事にすることは両立できるよね!」

 うん、あの、えーっと……。

「そうだね、やっぱ信頼関係がないとダメだと思うよ」
「だよね! 愛情を持って育てれば自然と応えてくれるものだよね! じゃなきゃ弱いって言われてたポケモンがチャンピオンの手持ちなワケないもの」
「りる〜♪」

 弱いポケモン? HGSSのチャンピオンってチートドラゴン使いのワタルのはずだけど……。

「レッドさんのピカチュウとグリーンさんのイーブイ、本当に強いよな。ポケモンのレベルの高さとトレーナーの腕前はもちろんだけど、あそこまで力を発揮できるのは信頼関係があってこそだって思うよね」
「そーだよねヒビキ!」

 きらきらと瞳を輝かせた幼なじみーズがガシッと手を握り合って、ねーっと小首を傾げ合う。その周りをマリルが跳ね回る。仲良きことは美しきかな。いや、どっちかってーと可愛い。子犬が3匹じゃれ合ってるみたいだ。
 つうかチャンピオンって前と前々チャンピオンの事か。まあドラゴン族は全体的に優秀だから弱いわけないもんな。

「グリーンってイーブイ使ってたっけ?」
「え? 知らないの?」

 コトネは心底驚いたらしく瞳がこぼれそうだ。ヒビキも驚いたようだけど、すぐにいつものにこにこ笑顔に戻ると説明してくれた。

「そうだよ、グリーンさんとレッドさんは最初のポケモンを進化させてないんだ。イーブイは進化するとステータスが変わるから、イーブイ用に調整したステータスで進化させるよりそのままにすることを選んだんだって」
「へええ……そのイーブイの性格と特性ってわかる?」
「覚えてる?」
「んーっとね、たしか、陽気な性格で、適応力だと思うけど」

 イーブイの種族値は特攻より攻撃が高い。陽気な性格は素早さが上がって特攻が下がるという補正がかかる。適応力はポケモンのタイプと技タイプが一致してる場合に威力が2倍になる特性だ。だから素早さと攻撃に努力値を振って強化したんだろう。努力値は進化しても受け継がれるから、進化先は限られる。
 初代のイーブイの進化先のうちシャワーズとサンダースは特攻が高めだ。つまり特殊技向きのステータスだから却下。唯一攻撃が高く物理技向きのブースターは素早さが低い上に低威力の物理技しか覚えない。イーブイだって素早くはないが、じたばたや恩返しをタイプ一致で撃てるのは強みだ。
 ……ん? 初代ってじたばたと恩返しあったっけ? つうか特性なかったよな? 性格もなかったよな?

 世代を重ねるほどに変更されてきたゲームの仕様がどんな風に反映されてるのかわからない。そういう知識をどこまで出していいのか。
 気になる事は数あれど、訊ねあぐねている内にウツギ博士から声がかかった。回復終わったかー。

「いけない! けっこう話し込んじゃった。私そろそろ行くね!」
「うん、いってらっしゃい」
「いってきまーす。2人とも頑張ってね!」
「りる〜♪」

 楽しそうなコトネとマリルは跳ねるように研究所を出て行く。元気いっぱいだ。あれが若さというものだろうか。
 なんとなく公園のベンチでお孫さんを眺めてるご高齢者さんな気分になりつつ博士の元へ向かう。御三家のボールが置かれていた装置が回復マシンでもあり、今はチコリータとヒノアラシが乗っていた。

「ひの〜」
「おかえり」

 ヒビキは足にすりよるヒノアラシを撫でた。俺はとりあえずチコリータに視線を合わせようとしゃがむ。そっぽを向かれてしまった。でも今までと違って、ツンケンと言うより元気がない感じだ。

「おかえり、ワカナ。痛いところとか、疲れたとかないか?」

 ぷるぷると首を振ってきちんと意思表示したけど、心なしか頭の葉がしょげてるような……。

「本当に大丈夫か? 具合悪くないか?」

 やはりぷるぷると首を振って否定するものの威勢が悪すぎる。そっと頭や背中を撫でてみてもされるがままだ。うん、間違いなくしょげてるね。負けたのがそんなにショックだったのか?

「ワカナ、大丈夫?」
「たぶんだけど、さっきの勝負が堪えてるのかも」
「ひのの」
 ぺちっ
「「あ」」

 チコリータの顔を覗き込んだヒノアラシは頭の葉でぺしりと打たれてしまった。軽くだったので痛くはないだろうが、びっくりしたのかヒノアラシは尻餅をついてしまっている。それに向かって「ちっこ!」と鳴いて、それきり振り返りもせずチコリータはずんずん歩き出してしまった。って俺を置いて行くなよ!

「うわ、ごめんな、ヒノノ」
「ひのー」

 大丈夫だよ、と言うように片手を上げて鳴いたヒノアラシに、気にした様子はない。慣れてんのかなー。

「ワカナ、ちょっと待って、一人で行っちゃだめだよ」
「あはは。負けた相手に心配されたのが悔しかったのかもね」

 のほほんと笑うウツギ博士をチコリータが振り返って睨んだ。図星だったんだな。

「ウツギ博士、色々とお世話になりました。慌ただしくてすみませんけど、出発します」
「どういたしまして。気を付けて行ってくるんだよ、リョウくん」
「はい、ありがとうございます。ヒビキくんもまたな!」
「うん、またね〜」

 研究所の出入り口を開けられずにぷりぷりしてるチコリータの元へ急ぐと、はよ開けれ! とばかりに俺を見上げて来た。はいはいただいま喜んで!


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