ぱたぱたと軽い足音が近付いて来て、ルカリオは耳を扉に向けた。自宅の出入り口付近、扉に一番近い場所へ陣取ったゲンガーがにふわりと浮かび、実にゲンガーらしい何か企む様な笑顔になると、勢いを付けて扉から上半身を突き出した。
 閉まったままの扉の外からきゃっきゃっと幼いポケモンの楽しそうな声が聞こえた。ゲンガーは歓声に応えて、扉をすり抜け廊下へと出て行く。それを見ていた人間がにこにこ笑いながら籠をルカリオに渡して立ち上がる。ルカリオもそれに続いた。

 人間が扉を開けると、向こうには小さなポケモン達と2人のトレーナーが居た。既に今日何度か見た光景だ、何をすれば良いか解っている。
 仮装して小さな籠を持って、わくわくと体いっぱいで期待を表す年若いポケモン達。ルカリオはしゃがんで丁寧にお菓子を渡してあげた。
 次に行きたくてうずうずしているちびたちをトレーナーが引き止め、全員が漏れなく貰ったのを確認してからお礼言うんだよと促した。それぞれ元気いっぱい鳴いて、嬉しそうに次の部屋へ駆け出す。その背中に手を振って、それに気付いた何匹かが手を振り返してくれて、和やかに見送って扉を閉めた。
 出入り口付近に設置された座布団に座り直して、減ったお菓子を補充する。始終嬉しそうな顔の人間が可愛かったねと笑って、それからゲンガーを「お化け役有り難う」と撫でた。ゲンガーがむず痒いような顔をして首を竦める。ゲンガーはそれで満足な様子だったが、ルカリオは籠に目が行ってしまう。
 後でパンプキンパイがあるから、今は我慢、と頭を撫でられても浮かない顔。人間は苦笑して、魔法瓶に用意していたゆず茶を一杯、ルカリオとゲンガーに渡した。





 その晩。昼間は家々(と言ってもアパート内だけ)を回りはしゃいだちびたちは、夕飯の後にパンプキンパイを食べると早々と眠りに付いた。寝静まった面々を2匹に任せて出掛けた人間は、それ程せずに戻ってきた。起こしてしまわないようそっと扉を開けて慎重な足取りで戻ってきた人間の腕に、薄い布で出来た小さめの袋が2つある。
 首を傾げた2匹の元へやってきて「ハッピーハロウィン」と、人間は笑顔で袋を手渡した。「解いてみて」と言われるままリボンを解いて、ルカリオはピンと尾を立てた。ルカリオの好きなお菓子が詰まっていたからだ。
 無意識に尾が振られる。ぺちぺちと床を叩いてしまって、ルカリオは慌てて立ち上がった。せっかく寝たちびたちが起きてしまうかもしれない。
 ゲンガーを見遣れば、中身は同じく好物の菓子だったようで、困ったような顔をしながら袋をきゅっと握って、ふわりと中に浮かんでいた。おちびちゃんたちには内緒よと笑いながら撫でてくれる去年と変わらない優しい手に、ルカリオはリオルのような声で小さくきゅうんと鳴いた。






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 ハッピーハロウィン!
 トレーナーばっかりでルームシェアしたらこんな行事も有りじゃないか、がコンセプトでした。何グループかに別れて部屋を回ってます。ルカリオとゲンガーは大人枠なので始終お手伝いしてました。
 ゲンガーが脅かし役やってるのはちびさんたちが喜ぶからです。正しいハロウィンなんか知ったこっちゃない、楽しければそれでいい、って感じです。ハロウィンの本分からずれてますが蔑ろにしてるのではなく、祭りじゃー楽しめー! なノリだからです。