びょおおうびょおおう。泣き叫ぶような空っ風に、びりびりと窓が震える。
 遠雷のように空高く鳴いて地上を乱暴にかき回す季節風は、冬の間中ほぼずっと山から吹き下ろしている。

 がちゃりと扉が開く音と強風が窓をビリビリ震わせたのは同時で、それに続いたおおおーうという呻きは、がちゃりと閉じた扉に遮られ遠ざかった。
 ウインディが首だけ回すと、玄関の扉に白い布の端がはさまっている。この家の主人が帰ってきたのだが、どうにもタイミングが悪かったらしい。
 扉を開いたと同時に一際強い風が吹き、なすすべもなく閉じられてコートを挟まれてしまったのだ。この季節には良くある事だった。
 風が収まるのを待って扉が開かれる。うひぃーさむいさむいー、と首をちぢこめて、今度こそ人間が帰宅した。

 ウインディは身じろぎ、丸まった体制から手足を伸ばす。ついでにあくびと伸びをする。人間はカウンターキッチンの向こう、冷蔵庫へ食品を収めてからリビングへ来た。
 その道すがらにある篭へマイバックを放り、後は一直線。耳と頬を寒さに赤くしてコートを着たまま、ただいまーとウインディの腹に抱き付き、わしわしと背や腹を撫でる。
「あったかー」
 腹に顔をうずめた人間の顔を、ウインディは目を細めて舐めあげた。