夜風に巻き上げられ、紅葉が2階のベランダに届く。それを捕まえようと人間が手を伸ばし、デンリュウも真似をしたが、のらりくらりとかわされて、ベランダに敷かれた簀の子へと落ちた。
 なにがおかしいのかけらけら笑う合間に、人間は銀と硝子で美しく細工されたグラスを煽る。グラスが揺れるたび、湛えられたプラチナゴールドに細かな沫が生じてゆらゆら昇る。

 デンリュウはグラスを見つめて小首を傾げる。すると尾に灯る光りが瞬いた。それを見た人間は意味もなく笑った。
 明滅する灯りに、色付いた木々が浮かび上がる。その秋の絶景を眺めている人間は、にこにこと上機嫌な笑顔を浮かべていた。
 びゅうと風が吹き上がり、色とりどりの葉がベランダへ舞い上がってきた。今度こそ葉を捕まえようと人間はグラスを置き、デンリュウはぴんと尾を立てた。
 あっちへひらり、こっちへひらり。後一歩のところで葉は手を逃れてしまう。

「あーあ捕まえられなかった」
 笑いながらデンリュウと顔を見合わせた人間は、あーと大声で叫びながらデンリュウを指差した。
 小首を傾げた拍子にデンリュウの視界へ赤い葉が舞い落ちてきた。
 風もないのにどこから来たのか。さらに首を傾げたデンリュウに、人間はにこにこと笑って言った。

「額の紅玉んとこに乗ってたんだよ。デンリュウが紅葉と同じ色だから仲間だと思ったのかなぁ」

 なんだかポエマーなことを口にした人間は、唐突にデンリュウに抱き付いて、イタッと飛び上がった。左手首にアースを付けているくせに、すっかり帯電を失念していたようだ。
 それさえも酔っ払った人間には面白かったらしく、けらけらと笑いながらデンリュウに抱き付く。そして、
「秋はいいな、デンリュウの季節だ、綺麗だし楽しい〜」
 と酒臭い息で意味の解らない事を言った。
 デンリュウの尾の紅玉が明滅する。その度に人間は笑って、デンリュウは夜更けまで明滅を繰り返した。