わたしを壊すほどわたしを愛したあのひとは、もういない。
もういない。この世のどこにも、もう。
10月にしてはやけに温い風が頬をなぶる。二年前にバイトをしていたレンタルビデオ店に車を停め、わたしは小さな溜め息を吐いた。
毎週水曜日は午後から半休だ。
わたしはその半休を毎週、1人で過ごす。
寂しさに負けて、幼なじみを夕飯に誘ったりする日もあるが、たった一人、わたしからは連絡をしないひとがいる。
今でこそ、ようやくすべて笑い話に出来るようになった。
けれども、わたしが本当に彼女を、彼女を取り巻いていた友人を許すことは生涯ない。
笑い話にしてもいいのはわたしだけだと思っているし、出来ることならこのまま最期の息が止まるまで会わずにいたい彼女たち。
けれども、あのひとだけ。
当の本人だけ、わたしはどうやっても許した振りをしてしまう。
愛していた、彼女だけ。
まるで壊れたものを無理やり留め置こうとする、子供のような恋だった。
実際に子どもだったのだ、わたしたちは。
愛していた、とうそぶけども、真実、求めていたのはきっと、自分の必要性だったのだ。
ずいぶんたくさんの日々を過ごして、わたしは彼女と過ごした日々を忘れかけている。
けれども、たくさんの好意や、ままごとのような絵空事、狂おしいほど求めあった身体。
その事実があったことだけは、知っている。
互いにすべてが過去の遺物となってしまった。
それでよいのだと思うし、ぼんやりと結婚を考える相手も出来た。
それなのに時折、思い出したかのように恋しさが頭をもたげる。
きっとこれが未練というものだろう。
戻りたがるのはただの自己満足や、依存でしかない。
そこには愛ではなく、執着しか残らない。
ただ、ふっと。
まるで走馬灯のように過ぎたよき日々を思い出すことこそ。
視線の片隅にたこ焼きの屋台が映る。
そこに一瞬、18歳と19歳の少女が並んで笑っているような気がした。
その幻影は不意に掻き消えて、わたしはそっと、苦く笑う。
そうして、半休の素晴らしい暇を潰すため、DVDを探しにレンタルビデオ店の自動ドアを足早にくぐった。