「やっぱミクですわ。性能もダントツやし、ミクあっての俺ですもん」
淡々と、しかし爛々と語るのは財前やった。
財前はなんとかP…?みたいな名前で曲を作っとるらしい。
なんやねんPて。ピー音が必要なんわ白石やろ。
前からパソコンで曲作っとるようなことは言うとったけど、まさか別名でどこかで発表するようなレベルやったとは驚きや。
ミクっちゅーのは財前が曲を作るときに使うボーカリスト?なんかちゃうな、とにかく歌う女の子のソフトウェアなんやて。
ようわからんけど、財前のPSPに貼られとるシールの子がそうらしい。
完全に痛PSPやん、とツッコむ人間はここにはおらんみたいで。
「リンやな。高音に強いし、なによりレンとのセッションがええわ」
そう反論したのは白石やった。
白石はなんか、歌ってみとるらしい。
歌ってるんやのうて、歌ってみとるんやて。意味わからんけど、こだわりなんやろうなぁ。白石はしょっちゅう意味わからんこだわり持っとるしな。
元々白石は歌上手いし好きなだけ歌ってみたらええと思うんやけど、それを告げたときの財前のビビった顔といったら。
カラオケ行くのなんかそこまで珍しくもないはずなんやけど、それから財前と白石はほんの少し仲良うなった気がする。
リンっちゅーのは、白石の携帯に付いている金髪の女の子のことらしい。
ミクと同じような感じなんやて。っちゅーかこいつらほんまキモいな。
「俺はルカやなー。低音から高音までカバーできるし、独特の色気があるやろ」
そして、ユウジ。
ユウジが小春以外を誉めるのはあまり聞いたことがない。
ユウジは「ROM専や」言うとったけど、ロムセンってなんやねん。
けど今度、財前用になんやら絵を描くようなことを言うとったな。曲を作るっちゅーくらいなんやから、ジャケ写でも作るんやろうか。
こいつら痛い割に本格的やな。
ルカっちゅーのは、やはりミクやらリンやらっちゅーのと同じソフトウェアで、ユウジの持っとるクリアファイルに描かれた髪の長い姉ちゃんのことらしい。
なんでこいつらそれぞれグッズ持っとんねん。俺の筆箱に星のシール貼ってあるのと同じ感覚なんやろか。
「ミクが一番可愛えでしょ」
「いやリンまじ天使やから」
「ルカが美人やて」
いつの間にやら見た目の話で盛り上がっとる…うちの子が一番可愛え、みたいな感じやろうか。
なんか俺ばっかりハブられててつまらんわ。
俺はユウジのクリアファイルを指差した。
「これがええんとちゃう?胸大きいし、大人の女性って感じで」
性能に関してはさっぱりやけど、見た目の話なら大丈夫やろ。
そんな感じで会話に介入してみた。
そしたら三人揃ってこっち見おって。
『にわかは黙っとれ!』
綺麗にハモりよって。
ユウジまでも嫌そうな顔しよった。
もーほんま、わけわからんわ!
おわり