お医者様コンビのSSです。
この手のネタをたまにやりたくなるのは私の悪い癖ですね←
*attention*
・お医者様コンビSS
・シリアス…のち、多分甘め。
・直接そう言う描写はありませんがメンゲレさんが酷い目に遭わされてたり…
・健気なメンゲレさんとそれを心配するジェイドを書きたかった
・ジェイドは基本笑顔で怒る子です。
・書きたいことを色々詰め込んだ結果恐ろしい長さに。
・とりあえずお医者様コンビ、素敵です(おい)
・ナハトさん、本当にすみませんでした…!
以上がOKという方は追記からどうぞー!
「ジェイドさん!これ、頼まれていた書類です」
笑顔で書類を差し出す黒髪の彼。
ジェイドは"いつもどおり"の笑顔を見せる彼をジッと見つめる。
何かを探ろうとするような、翡翠の瞳。
メンゲレはそれに、不思議そうな顔をして首を傾げた。
「ジェイド、さん?どうかしたのですか?」
「いえ、何も……」
ジェイドは彼に問われてハッとすると、ゆるゆると首を振った。
それを見てちょこり、とメンゲレは首を傾げる。
「そうですか?ならば良いのですけれど……
無理は、なさらないでくださいね」
にこり、と優しく微笑むメンゲレ。
ジェイドが研究や治療に一生懸命であることを誰よりよく知っているのは彼だった。
少々無理をする癖がある自分の統率官を、恋人を心配するのは至極もっとも。
メンゲレの様子を見てジェイドも穏やかな笑みを浮かべた。
「えぇ。ありがとうございます。
今日はもう遅いですし、部屋に戻って休んでくださいな」
"お疲れ様でした。ありがとうございます"
ジェイドはそう言ってメンゲレの額に軽くキスを落とす。
メンゲレはくすぐったそうに笑うと、
"おやすみなさい"と返して部屋を出て行った。
ぱたん、とドアが閉まる音がやけに大きく響く。
ジェイドはふぅ、と息を吐きだした。
「……やはり、何かあったのでしょうか」
彼が出て行ったドアを見つめ、ジェイドは小さく呟く。
キスをしたとき一瞬彼の体がこわばったのを見逃さなかった。
彼がそういうリアクションをとるときは大概何かあった時。
しかし、その"何か"がわからない。
何より問題なのはメンゲレがそれを自分から隠そうとしているらしいということ。
隠したいと思う何かを無理に詮索するのは気が引けた。
―― どうするのが最善だろうか。
そう考えているうちに、日は過ぎていった。
***
そんな、ある日の夜のこと。
書類の整理も終え、ジェイドは小さく伸びをする。
「お疲れ様でした」
にこ、と笑うメンゲレを見てジェイドは穏やかな笑みを浮かべた。
最近、あまり彼に触れていないな……
そう思いながら席を立ち、自分の後ろにたっていたメンゲレに歩み寄る。
「ありがとうございます、メンゲレ。
いつも僕を手伝ってくれて、本当に感謝していますよ……」
そう言いながら、ジェイドはメンゲレの唇を塞いだ。
小さくくぐもった息を漏らしつつ、彼はジェイドのキスに答える。
甘く溶けるようなキスを送りながら、ジェイドは目を細める。
少し力の抜けたメンゲレの体を支えつつ、彼はメンゲレの体をベッドに押し倒した。
「わ……っ」
「仕事も一段落しましたし……良いでしょう……?」
子供が玩具を強請るように甘い声で囁きながら、
ジェイドはメンゲレのネクタイに指をかけた。
するり、とそれを解きながら彼の服を肌蹴させようとした、その時。
メンゲレが大きく目を見開いた。
「……――!」
「っ!」
バチッと、一瞬走った電気のような魔力。
それがメンゲレの拒絶の魔力であることに気づくのに少し時間がかかった。
いつもならば、絶対に起きない事態。
確かにいつもメンゲレは軽く抵抗するがあくまでそれは建前。
ジェイドに本気で魔術をぶつけるような真似は絶対にしない。
それなのに、今は……
ジェイドは驚いた表情のままに固まる。
ごく弱い魔力だったために怪我もしなかったし、体にも影響はないが……
ただ、驚いてしまって何も言えず、固まる。
メンゲレはすぐにハッとした。
「ジェイドさ……ご、ごめんなさ……っ僕……」
揺らぐ、深緑の瞳。
何か言おうとしているようだが、その言葉は声にはならず。
メンゲレは泣き出しそうな顔をしていた。
小さく震える彼の体をジェイドはそっと抱きしめる。
その時にさえも一瞬怯えたように震えた華奢な体。
体に触れられること。
メンゲレはどうやら、それに怯えているようだった。
そのことからある程度、彼の様子がおかしかった理由を推測出来た。
「……貴方の様子がおかしいことには少し前から気づいていました」
ジェイドはメンゲレを抱きしめたままに静かな声でそう言った。
その優しい腕から逃れようとするように、メンゲレは小さく藻掻く。
自分は貴方に抱かれる資格がないのだ、というように。
しかし、ジェイドは当然彼を離すつもりはなくて、逆に彼を抱きしめる腕に力を込めた。
「……すぐに気づいてあげられなくてごめんなさい。
怖い目に、遭わされたのでしょう……?」
「……っごめん、なさ……」
メンゲレはジェイドの腕の中で小さく謝る。
震える体と、涙声。
それだけで、状況を把握するには十分だった。
何時それが起きたのか、相手は一体誰だったのか。
それは一切わからないけれど……
この優しい天使は自分を大切にしてくれる魔術医に迷惑をかけまいと、
望まぬ相手に犯されたことを隠し、一人で堪えていたらしい。
いつもどおりの笑顔を見せていたのも、そのためだろう。
笑っていないと、聡いジェイドは何かあったのだと気づいてしまうから。
どうしたのだと訊ねられたら、隠しきれる自信がなかったから。
メンゲレは涙を零しながら何度もジェイドに謝る。
ジェイドはゆっくりと首を振ってから、肌蹴させかけたメンゲレの服を合わせた。
苦しくない程度に服を正すと、もう一度彼の体を抱きしめる。
「謝る必要はありませんよ……ほら、今日はこのまま眠りましょう」
優しく、メンゲレの黒髪を撫でた。
こんな状態の彼に行為を強制するのは間違っている。
何より今は。
傷ついた心をずっと隠し、一人で堪えていた彼を慰めたくて。
ジェイドはただ、彼の体を抱きしめる。
メンゲレは泣きながら彼の胸に顔を埋めた。
反射的に彼の手に怯えてしまった申し訳なさと、
その瞬間に頭を過ぎった忌々しい記憶。
彼以外の人間に肌を許す結果になった自分への嫌悪。
全てが綯交ぜになって、胸が苦しい。
泣くのは狡いと思いつつも、ジェイドのやさしさの前で虚勢は無意味。
"大丈夫ですから"と囁く彼の暖かな声に包まれて、
黒髪の天使はただただ涙をこぼし続けた……
***
―― そんなことがあった夜から数日が経過した。
少しずつではあるが、メンゲレにも真にいつもどおりの笑顔が戻り始め、
ジェイドも幾分安心し始めていた。
大切な彼を傷つけられたことに、
自分以外の相手に彼が犯されたことに怒りがないといえば嘘にはなるが、
それをいつまでも自分が気にかけていては、彼もいつまでも引きずるだろう。
だから、忘れるとまではいかずとも言葉には、態度には出さずにいた。
このままその傷が出来るだけ塞がるようにと願うことが最善だと、
緑髪の魔術医はそう思っていた。
そんなある日、ディアロ城で茶会が開かれた。
ディナは元々かなり社交的で、頻繁にこういうパーティを開く。
一般の人間を招いてしまうこともあるおてんば王女ではあったが、
今日の茶会は国内外の貴族層の人間を集めての茶会とのこと。
ディナの結婚相手を探すための茶会でもあるとの噂だが、
当の本人は全くそのつもりがないのか、親しい女性たちと談笑している。
騎士たちもこの茶会には出席していた。
この国の騎士たちは優秀で万が一の時の警備にもなるし、、
教養のある騎士が多いため、招待客の話し相手も出来るから、という理由で。
無論、一部隊の統率官であるジェイドもそれに参加しており、
メンゲレもジェイドの付き添いとして参加していた。
「とても賑やかですね」
メンゲレは集まった客を見ながらそう言った。
中庭で開かれているパーティには確かに多くの客が来ていた。
医療部隊である彼はあまりパーティ会場などには縁がない。
「そうですね……こういうパーティには人が集まりやすい。
だからこそ、騎士という護衛が必要にもなるのですが」
何かあったとしても対応できるようにね、とジェイドは言って微笑んだ。
「さ、お茶を淹れてしまいましょう。御客様方にお出ししなくてはね?」
ジェイドはそう言って、メンゲレに促した。
今茶を淹れているのはジェイドとメンゲレだった。
彼らはこの騎士団の中でもかなり上手く紅茶を淹れられると有名で、
ディナもそれを知っていた。
だからわざわざ指名されてしまったのである。
メンゲレは笑みを浮かべ、彼に教わりながら紅茶をティーカップに注ぐ。
その途中。
「……!」
何気なく視線を投げたある一点を見た瞬間、メンゲレは固まった。
ガチャンっと派手な音を立ててティーポットが砕ける。
その音に驚いた人々が振り向く気配で彼は漸くハッとした。
「す、すみません……手が、滑って……!」
慌ててそれを拾おうとしゃがんだメンゲレの手は小さく震えていた。
ジェイドはそれを見てすっと目を細める。
割れたカップの欠片を拾おうとした彼の手をそっと掴んで止める。
驚いた表情で自分を見る彼に小さく首を振って、ジェイドは言った。
「メンゲレ、やめなさい。手を切りますよ」
「でも……」
「……どの人物ですか?」
人に聞こえぬように低くした声でジェイドは彼に訊ねる。
その言葉の意味を理解したメンゲレは目を見開いた。
小さく震える手をそっと握って、ジェイドは言葉を重ねる。
「居たのでしょう?貴方を、傷つけた人が……」
今の彼の動揺の仕方は尋常ではなかった。
割りと冷静な部類に入るメンゲレが突然、
しかも人を見ただけでティーポットを落とすほどの"何か"。
事態を推測するのは容易だった。
おそらく、招待客の中に彼を"傷つけた"人物がいたのだろう、と。
聡いジェイドは、その事実を見抜いてみせた。
メンゲレは暫く躊躇うように視線を伏せていたが……
「こげ茶の髪に、金の瞳の男性です……ネクタイに銀の蝶のピンをつけた」
言葉少なに、彼はそう答えた。
ジェイドはふっと笑みを浮かべるとそっと彼の頭を撫でた。
「……わかりました。
メンゲレ、もう貴方は部屋に戻っていなさい」
「え……?」
「また、同じ目に遭ったらどうするのです?」
ジェイドは心配そうにそういう。
しかしメンゲレは笑顔を保ったままでゆっくりと首を振った。
「大丈夫ですよ……ジェイドさんや、僕を指名してくださった女王陛下……
他の騎士の仲間に迷惑はかけられません。
ちゃんと、僕は僕の仕事を果たしますよ」
その笑顔と、意志を持った言葉にジェイドは言い返せなくなった。
騎士としての職務を果たそうとする彼の心を無理に折るのは間違いだ。
何とか理由を見つけて部屋に戻らせようとするも、
何一つ正当な理由は見つからず……
「ジェイド!ちょっといいかしら?」
「ほら、ジェイドさん。呼ばれていますよ」
ジェイドに声をかけたのはほかでもない、ディナ。
メンゲレは穏やかに笑って、彼に行くように促す。
まさか、王女に呼ばれているのを無視するわけには行かない。
ジェイドはメンゲレを気にかけつつも、彼女の方へ行かざるを得なかった。
メンゲレは少なからずホッとした様子でその場を片付けると、
新しく茶をいれなおし、それを客人たちのもとへ届けに向かったのだった。
***
ジェイドと別れたあと、メンゲレはトレーを持って歩き回っていた。
人の波をうまく躱しながら歩いているうちに、喧騒の外れまで来てしまう。
ジェイドやディナたちがいた場所まで戻ろうとするも、人の波に飲まれ、うまくいかない。
その時、不意に右腕を掴まれた。
驚きに思わず声を上げそうになるのをこらえて、その人物を見た。
「!あ、貴方は……」
震える声で、メンゲレは呟く。
メンゲレの腕を掴んでいる、蝶のネクタイピンの男は小さく笑った。
「まさか、此処でもう一度会えるとは思っていなかった」
タイミングが良かったよ、と彼は呟く。
ほかの人間からは少し離れた場所だし、
何より当の本人は変わらぬ笑顔を浮かべているため、
普通に話をしているように見えることだろう。
そこから逃げ出したくとも、メンゲレの腕を男がしっかり掴んでいるため無理だ。
振り払うだけの腕力が彼にはない。
それに気をよくしたか、男は周りには聞こえないくらいの声で、メンゲレに言う。
「……もう一度、相手を頼めないか?」
「な、にを……」
震える声でメンゲレはいう。
事態は、彼の言葉の意味は、嫌でも理解できてしまった。
男は"無理だと言える立場かい?"と言わんばかりの視線をメンゲレに向ける。
彼はただの騎士であり、相手は貴族の男。
相手の家の程度がどれほどかはわからないが、拒めば何をされるかわからない。
下手に拒んでしまえば、この騎士団やディナに迷惑がかかりかねない。
メンゲレは悲痛に顔を歪める。
その表情に、男は満足そうな笑みを浮かべた。
「ならば、彼方に行こうか……?」
人気が少ない方へ、という意味だろう。
メンゲレはくっと唇を固く噛み締める。
逃げ出したい気持ちでいっぱいだが、周りのことを考えるとそうもいかない……
そんなことを思っていた時。
「痛っ……なんだ……!?」
不意に、メンゲレの腕を掴んでいる男が苦痛に顔を歪めた。
その原因はといえば……
メンゲレの腕を掴んでいるのとは反対の腕を誰かが掴んでいるから。
誰か……基、ジェイドは柔和な笑みを浮かべたまま、小さく首を傾げた。
「彼に何か?」
メンゲレをちら、と見てジェイドは訊ねる。
男は一瞬の動揺を瞳に灯し、しかしすぐに平静を装って答えた。
「……ただ、話に付き合ってくれ、と言っていただけだが」
「そうですか。ならば、彼の手を掴んでいるその手を離すことですね。
話し相手をするだけならば、手を掴む必要はないでしょう?」
冷静な声でそう言うと、ジェイドはぐっと彼の腕をひねった。
そのまま、囁くような声で言葉を続ける。
「……以前手をつけた騎士を見かけたからといって再び行為を強要するとは、
一体どう言うことですか?」
ジェイドの声は低い。
彼が相当怒っていることはおそらく初対面の彼にもわかっただろう。
焦りの表情が浮かぶ。
「貴様……」
「全て、推測はついていますよ。
メンゲレに、何が起きたかはある程度聞いていますし……
貴方でしょう?以前、彼に酷いことをしたのは……」
低く、囁くようなその声ににじむ怒り。
冷たいその声に、周りの気温が下がっていくように錯覚する。
男の手を掴むジェイドの手の力が強くなった。
痛みに顔を歪める彼に、ジェイドは静かに言い放つ。
「……僕は、騎士団を辞めさせられることになろうとも……
彼に手を出すことは、許しません。
これ以上彼に執着するというのならば、こちらにも考えがあります」
男は彼の表情と本気の怒りにたじろぎ、メンゲレの手を離した。
ジェイドはそれを見て呆れたように溜息を吐くと、
メンゲレの手を優しく握って"帰りましょう"と言った。
そのまま、大股で歩き出す。
歩幅の大きな彼についていくのは大変だったが、
はぐれないようにと必死に彼の手を握り、メンゲレは彼について歩いていった。
***
ジェイドがメンゲレを連れてきたのは中庭へと続く渡り廊下。
中庭からはぎりぎり見えないだろう、というところまで来たところで、
ジェイドはメンゲレの体をきつく抱きしめた。
「ジェイド、さん……?」
「……今は、何も言わないで。このままで、いてくださいな……」
ジェイドの声は、静かなもの。
それには僅かに怒りが含まれているようで、メンゲレは泣き出しそうな顔をする。
また彼を傷つけてしまっただろうか。
嫌だ、ということができなかった自分に呆れたのだろうか、と……
「ジェイドさん、ごめんなさ……」
「貴方の所為ではないのですよ。
ただ……いつもいつも、貴方を守ることが出来ない僕自身に、
言いようのない怒りを覚えているだけです」
メンゲレにそう言うジェイドの声は小さく震えていた。
それは怒り故か、悲しみ故か……
メンゲレは自分を抱きしめる彼の背中に腕を回す。
「そんなことは、ありませんよ……
今も、ジェイドさんが来てくださらなかったら……」
どうなっていたかわからない。
メンゲレがそう言うと、ジェイドの腕の力が強くなった。
ふ、と息を吐きだした彼は静かな声で、言う。
「……こんなこと言ったら、騎士失格かもしれませんが……」
「……はい」
「僕は、本当に……貴方を守るためならば、
騎士の職を失っても構わないと思っています。
否……貴方を失うくらいなら、貴方を守れないくらいならば、
この称号も、地位も、武器も……全て捨ててしまえるだけの覚悟がある。
だから、どうか……」
―― 僕に、貴方を守らせてください。
決して冗談ではない本気の彼の言葉。
メンゲレは少し、驚いたが……すぐに、笑顔で言う。
「……僕も、騎士ですよ。ジェイドさん」
わざと、冗談めかしていったのは彼の言葉に泣き出してしまいそうだったから。
自分だって守られるだけではないのだ、とメンゲレが言うと、
ジェイドは僅かに力を緩めて、小さく笑った。
「ふふ……そうでしたね」
すっとメンゲレの体を離すと、ジェイドは穏やかに微笑んでから、
彼の唇に軽く自分のそれを合わせて、言った。
「でも、先程の言葉は本気ですからね……?」
そう言って優しく彼の頭を撫でると"行きましょうか"という。
今度はもう自分から離れないように、と念を押すジェイドに一度小さく頷いて、
黒髪の天使は泣き笑いの表情を浮かべてみせた。
―― 全てをかけてでも… ――
(愛しい貴方を守るためならば何を捨てても構わない)
(僕を守ると言ってくださる貴方の言葉に涙が出そうで…)
2013-4-16 22:32