Twitterでの会話からどうにも書きたくなってしまったコラボです。
普段なかなか書いてやれないアネットとナハトさんのお子様、ライニさんのコラボ!
対照的な性格の二人、書いていて楽しかったです←
*attention*
・星蘭がどうしてもやらかしたくなって書いたコラボSSです
・アネットとライニさんは対照的な性格です
・リレーの本編とちょっと時間軸ずれてます
・相変わらず無駄に長い星蘭クオリティ
・アネットの社交的さというか、マイペースさが…
・ライニさん、ごめんなさい
・ナハトさん新年早々本当にすみませんでした…!
以上がOKという方は追記からどうぞ―!
静かな、食堂。
そこに、ハイドリヒは来ていた。
暫し、この城に留まることになっているから。
基本的に部屋から出なくても生活できるような設備は整っているのだが、
飲食に関しては食堂に来ないといけない。
軽く、飲み物が欲しかったために、此処に来たのだった。
時間はだいぶ遅く、ほかの部隊の騎士たちはほとんどいない。
ばらばらといるのは、この時間まで任務に赴いていたのであろう風隼の騎士か、
外で訓練をしていたらしいノト・アークの騎士だ。
その事態に少なからずほっとしつつ、奥に踏み出しかけた、その時。
不意に、後ろから強い衝撃が襲った。
気配に気付けなかったわけがない。
しかし、敵意はなく、ついでに速かった。
避ける及び防ぐというモーションに入るより先に、突き転ばされていた。
「っ?!」
反射的に、自己防衛魔術が働く。
さすがに、悪魔の魔力を放つのはマズいと無意識に判断したのか、
ただの炎属性魔術ではあったけれど。
「うぉっ?!吃驚した……」
そんな声が聞こえる。
自分にかかる、誰かの体重。
後ろから転ばした犯人はどうやら自分の上に倒れこんでいるらしい。
驚きと苛立ちの混ざった声で、その人物に軽く怒鳴る。
「ど、どきなさいっ!」
「わ、ごめん、前見てなくて……!大丈夫か?怪我はないか?」
ハイドリヒにぶつかり、後ろから突き転ばした人物は慌てて体を起こして、
彼を助け起こそうと手を伸ばした。
ハイドリヒはその人物を見て目を見開く。
短い、ハネた赤い髪。
石榴石(ガーネット)色の瞳。
そそっかしいことで有名らしい、彼の姿がそこにあった。
「あ、お前!」
先に口を開いたのは彼……アネットで。
ハイドリヒが驚いている間にその手を取り、引っ張り起こしていた。
ぐい、と自分の腕を引っ張る力の強さに少し、驚きつつ彼の名を紡ぐ。
「アネット、さん……」
名は覚えていた。姿も。
以前、此処で、この場所で、戦ったことがある人物だったから。
あの時見せていた表情とは似ても似つかぬ、
子供っぽくて快活そうな表情ではあったけれど。
ある意味年齢不相応の明るさを纏った彼は、
助け起こしたハイドリヒの手を握ったまま、口を開いた。
「久しぶりだなっ」
にぱっと笑う、アネット。
ハイドリヒはその笑みをただ、怪訝そうに見つめた。
確かに、彼に会ったのは"久しぶり"だ。
直接会話をしたことだって、数える程……あるかないか。
それなのに、目の前の彼は、まるで遠くへ遠征していて久しぶりに帰ってきた
同じ騎士団の人間に声をかけるように、言うのだ。
"久しぶり"と。
その言葉への返答を探し、視線を彷徨わせるハイドリヒ。
しかし、結局適切な言葉が見つからなかったのか、小さく息をつくに終わった。
そして、ふと気づいたことを言う。
「この手を、離してくれませんか」
どういうわけか、掴まれっぱなしの手。
聞こえているのかいないのか、その手を離すことをしないアネット。
彼はまじまじと、ハイドリヒを見つめている。
と、不意に腕を引かれ、顔が近づいた。
自分を間近で見つめる、赤い瞳。
彼の行動の真意が理解できず、ハイドリヒは目を見開く。
「なっ?!」
「綺麗な色だなー」
しげしげと、ハイドリヒを見つめ、にっと笑う、アネット。
「綺麗な青色」
「は、離れなさいっ!」
少なからず驚き、動揺してハイドリヒは叫ぶ。
周りにいた騎士たちが何事だ?と言わんばかりに振り返っていた。
ソレに気づいて慌てて口を噤むハイドリヒ。
対するアネットはくっくっと楽しそうに笑っている。
「そんなに動揺しなくてもいいのに」
「す、するに決まっているでしょう?!なんのつもりですか!」
少し語調を荒げていう。
しかし、アネットは臆することなく答えた。
「さっき言ったじゃん。
前にあった時から、凄い綺麗な目だな、って思ってたんだよ。
それに、髪もすごい綺麗だよな」
間近で見つめる彼だが、品定めするような目つきではない。
ただただ、目の前にいる相手を見ているだけ。そんな視線。
目を合わせることなくハイドリヒが"離れてください"というと、
ようやくアネットは彼の手を離した。
「そんな警戒した顔しなくたって、何もしないよ」
楽しそうに笑う彼は相変わらずの太陽のような雰囲気を纏っていた。
***
―― 妙なことに、なった。
自分の前に座る赤髪の青年を見て、ハイドリヒは小さく溜息をつく。
少し喉の渇きを癒そうとしただけなのに、
何故深い関わりを持たない彼と向かい合っているのだ、自分は。
"一人で食事するの好きじゃないんだよ"
どうせ席も空いてるし、いいだろ?と、わけのわからない理屈に押され、
頑なに拒否するのも面倒で、そのままこの状況になったのだった。
アネットは先刻まで任務に行っていたらしく、今帰ってきたようで。
軽く食事をとってから部屋に戻るつもりだったのだという。
夜食替わりのパンを食べてから、コーヒーを飲んでいる。
半分位カップの中身を減らしてから、まじまじとハイドリヒを見つめていた。
口元に当てていたカップを置いて、ハイドリヒは"何ですか?"と問うた。
「ハイドリヒってファミリーネームだよな?」
「そうですが……それが、なにか?」
そっけなく、突き放すように返答する。
普通の人間なら、こんな反応をされればタジタジとなるものだ。
嫌われているなり迷惑がられていると察知して、離れていくもの。
しかし、目の前にいる彼に、その様子はない。皆無だ。
ふーん、とだけ言うと、首をかしげた。
「名前は?」
「は?」
「名前。お前の名前。ファーストネーム。
聞いた気がするけど、忘れちゃったんだ」
ごめんな、と悪びれた様子もなく言い放つ彼を、ハイドリヒはまじまじと見つめた。
悪気があるわけでも、からかっているわけでも、なさそうである。
だからこそ、タチが悪い。
ハイドリヒは困惑した表情で、目の前にいる彼を見つめ返す。
赤色の瞳は子供のようだ。
たしか、自分より年上のはずなのに、到底そうとは思えない立ち振る舞い。
一緒にいて波長が合う相手、とはお世辞にも言えなかった。
どちらかといえば、ハイドリヒが苦手な類(タイプ)だった。
明るく、活発で、社交的で。
目の前に壁があれば叩き壊してでも中に入り込んできそうな、彼は。
しかし、ここで突き放したところで引き下がる相手でないことは、
この数分間で嫌というほど理解している。
「……ラインハルト、ですよ」
「あぁ、それだ!」
ラインハルトかぁ、と繰り返し呟くアネット。
人の名前を連呼して何がしたいんだ、というように溜息をつく。
しばらくするとアネットは彼の名を連呼するのをやめて、笑いながら言った。
「珍しい名前だよな。ラインハルトって」
「この国の人間じゃありませんから」
「そっか。そうだったな」
なるほど、と納得した顔をする。
素で忘れていたらしい。
最早、驚きを通り越して呆れる。
さっさと部屋に戻ろう。そう思いながらカップを傾けるハイドリヒ。
アネットは飽きもせず、それをまじまじと見つめている。
「……さっきから、何ですか。気になるのですけれど」
不機嫌です、という色を滲ませつつ、アネットに言う。
アネットは軽く首を振って、答えた。
「やっぱり、物腰に隙がないな、って。
前に戦った時も思ったけど、お前強いよな。
俺ひとりで戦ったら、多分お前に負けたもん」
へらり、と笑う。
けれど、その瞳にごく僅かに灯る、戦士としての色。
ただ、幼いだけではないのだ。
戦士としての一面も、持ち合わせている。
そう思ったとき、ハイドリヒはアネットの首元で揺れるペンダントに気づいた。
それには、見覚えがあった。
以前、この場所で彼と戦った時に、自分が切ったもの。
鎖の切れたそれを彼……アネットは、"宝物"だと言っていた。
今は、直したのだろうか。
銀の鎖が首にさがっている。
ペンダントトップは白い騎士服の上でも目立つ、鮮やかな赤色。
激しく動くタイプの彼が付けておくには、相当な強度が必要なはずだ。
それを思い出し、ハイドリヒは口を開く。
「……すみませんでした」
「え?」
突然謝罪の言葉を吐かれ、アネットは驚いた顔をする。
「そのペンダント……以前、私が壊したものでしょう?」
だからすみません、と、そっけなく謝る。
アネットはきょとんとしてハイドリヒの顔とペンダントを交互に見た。
そしてにっと笑うと、言う。
「あははっ!やっぱりお前、いい奴だなっ」
「は、はぁ?!」
何故いきなりそんなことを?
ハイドリヒが驚いた顔をする間にも、アネットは言葉を紡ぐ。
「気にしなくていいよ!すぐ直ったし。
これ、俺の妹がくれたものなんだー。
目が見えないから、魔力の質で選んだって言ってたけど、
すごく綺麗なのでさ、俺も気に入ってるんだ。
でも、お前が謝ることないだろ?
戦い中にものが壊れるのはよくあることだし。
だから、謝ることないのに、謝るから……お前、いい奴だなって」
"気にしてくれたんだろ?"と屈託のない笑みを浮かべるアネット。
確かに、気にはしていた。
しかし、礼を言われるようなことでも、
ましてや"いい奴だ"と言われるような行為でもないはず。
今まで自分が向き合ったことのない状況にハイドリヒは困惑した。
しばらく悩んで、出した答え。
―― 帰ろう。
カップも、空になった。これ以上此処に留まることはない。
これ以上困惑し、ペースを乱されないうちに、帰ろう。
そう思いながら、ハイドリヒは椅子を下げて、立ち上がる。
アネットはカップを所定の位置に返しに行くハイドリヒを見て、瞬きをした。
「あ、帰るのか?」
「えぇ。仕事も、ありますし」
事務的に言って、食堂を出ていこうとする彼の背中にアネットは言葉を投げる。
「また喋ろうな、ラインハルト!」
反射的に、振り向いた。
アネットはにこにこと相変わらずの笑顔を浮かべている。
「な……何で、名前……」
この騎士団の人間は、騎士団内でならともかく、
外部からの騎士……夜鷲の騎士を含め、名前で呼ぶことをしない。
それなのに彼は、ハイドリヒのことを名前で呼んだ。
何で、と問われるとアネットはきょとんと首をかしげた。
「名前で呼んじゃダメなのか?」
「ダメって、ことでは……」
ハイドリヒは口篭る。
ダメだという理由はない。
しかし、何故彼は名前呼びに拘るのか。
真意が、見えない。
―― 否。
真意など、ないのだろう。
ただ単純に、名前で呼びたいから呼んでいる。
アネットの様子を見ていて、反射的にそう理解する。
案の定、アネットはにぱっと笑うと、言った。
「じゃあ、いいじゃん!俺、もっとお前と仲良くなりたいもん。
またな、ラインハルト!」
「……また」
ぶんぶん、と手を振る彼に負けたように小さく息を吐くと、
ハイドリヒは軽く手を挙げそれに応じ、食堂を出ていく。
ドアを閉め、自分の部屋への道のりを歩く。
―― お前ともっと仲良くなりたいもん。
そんな言葉を、かけられて。
一層、どうしたらいいのかわからなかった。
その言葉になにか裏があると、そう思えたら、簡単な話だ。
応じる必要はない。そっけなく突き放してやればいいのだ。
相手が自分を利用しようとするなら利用し返すことだってできるはず。
しかし、彼の言葉は純粋すぎて、どうしたらいいのかがわからない。
真っ直ぐすぎる。裏表がなさすぎる。
そんな彼のことをどう扱えばいいのかわからない。
困惑、していた。ただただ、困惑していた。
「ライニ?」
不意に聞こえた、聞きなれた声。
振り向けば、旧友のカナリスが怪訝そうな顔をして立っていた。
暗い廊下でも目立つ、金色の瞳……
「難しい顔をして……何かあったのですか?」
難しい顔。自分は、そんな顔をしているのだろうか。
ぼんやりと、そう考える。
「ライニ?」
返事をしない彼を、不思議そうに、心配そうにカナリスは見る。
ハイドリヒは"なんでもない"と首を振った。
部屋に戻ると、すぐにベッドに突っ伏する。
疲れた、そう思いながら目を閉じた。
随分近くで自分を見つめていた、赤色を思い出して、小さく首を振る。
あの純粋さが、素直さが、不思議で……
―― 驚きと困惑と… ――
(眩しい位の笑顔を見せる彼が、少しだけ怖かった。
ただただ、あの真っ直ぐさに、困惑した)
2013-1-2 14:50