よづちゃんに貰ったリクエストでシストとルカのお話です。
シリアスにするかほのぼのにするか悩んだ末のシリアスです←
シストは多分、自分が死にかけてもあんまり気にしないと思うんだよね。
そんな彼だから周囲は心配するんだろうなぁ、と。
特にルカは心配性だし、シストは大事な友人であり、部下なので、全力で心配するんです。
でも、絶対に涙は見せない。
特にシストはルカの涙、見たことなさそうだなぁと思ったりして。
そんなわけで追記からお話です!
夢を見ていた。
優しい夢。
柔らかい夢。
ずっとそこに沈んでいたいと願ってしまうような、夢。
優しい風が吹く。
花の甘い香りが漂う。
柔らかい光が降り注いでいて、微かに水の潺が聞こえた。
此処は、何処だろう。
嗚呼、でもそんなの、どうでもいい。
―― ここは、心地がいいから。
怖いことも、何もない。
悲しいことも、起こらない。
なぜかそれを確信できる世界だ。
今まで、悲しいことがたくさんあった。
自分の所為で姉は捨てられた。
自分の所為で大切な相棒は死んでしまった。
これからもきっと、悲しいことがたくさん起きる。
苦しいことがたくさんおきる。
嗚呼、嫌だな。
じゃあもう、此処から動かなければ、いいか。
そうしたらきっと、幸せなままで……
そんなことをシストが思った、その時。
―― ……、……!
何処かから、声が聞こえる。
その声は、一体だれのもの?
あれ?と思いながら、シストは耳を澄ませた。
誰かいる?
この世界に自分以外の誰かいる?
そう思いながらシストは意識を集中させた。
と、遠くにぼんやりとした影が見えた。
そちらは、黒い影だ。
この幸せな世界とはかけ離れた……世界だ。
悲しい世界。
苦しい世界。
……きっと、自分が、元いた、世界。
そう気が付いたところで、その影の方にいる人物の姿が明らかになる。
黒い髪。
鮮やかな赤の瞳。
真っ白い騎士服の上着は、シストのそれよりも少し長い。
そこに立っているのは……
昔からよくよく知っている……――
***
「ルカ……?」
掠れた声で、名を紡ぐ。
それと同時にすぐ近くで、はっと息を飲む音が聞こえた。
「シスト?シスト!」
聞こえるか。
そう問いかける声は焦っていて、シストはゆっくりと目を開ける。
しかし、何も見えない。
あれ、と思いながら、シストは声をあげた。
「ルカ?」
「っ、あぁ、俺だよ……だいじょうぶか?」
そんな声と同時に、そっと額を撫でられたのを感じた。
しかしやはり、その手は見えず、その声の主の貌を見ることも出来ない。
「……ルカ、見えねぇ、んだけど」
「そりゃあそうだ……大けがしてんだよ、バカシスト」
そんな、あきれた声が聞こえた。
手をひっこめられたら、そこにルカが居るのかどうかも、わからない。
「怪我……?」
「……任務。お前、死にかけて帰ってきたんだよ」
呟くように、ルカは言う。
それを聞いて、シストは思い出した。
―― あぁ、そうだ。
嗚呼、あの綺麗な夢も、死にかけた時に見た夢なのか。
***
今日は、一人で任務に出掛けていた。
いつも通りの魔獣の討伐。
大して、大変な任務でも、なかったと思う。
しかし…
魔獣を倒し終えて、一息ついた、その時。
背後から、突然襲われたのだ。
嗚呼、バカだ。
そう、思った。
だって、それは。
自分の相棒が、かつての相棒が、命をもって教えてくれた、教訓だったのに。
全部、殺したと思っていた。
それなのに……今、その警戒を、しなかったのだ。
口に溢れる鉄の味と、背中に走る痛みと熱。
反射的に剣を振り抜き、ふり向けばそこには先刻まで相手をしていた、手負いの獣。
ぎらつく目でシストを見つめ、吠えながらとびかかってきた。
そこから先のことは……あまり、よく覚えていない。
強いていうなら、今日は朝から少し体調が悪かった。
けれど、熱っぽいというほど熱っぽいわけでもなく。
自覚症状らしい症状もなく。
けれどもあれはきっと、警告だったのだろう。
―― あぁ、今更そんなことを考えても、遅い。
そんなことを思いながら、シストは意識を手放したのだった。
***
「……俺、どうして、生きて」
それが率直な疑問だった。
どうして?
あの時自分は、死んだと思ったのに……なぜ。
シストがそう呟くと、ルカが呆れたように溜息を吐き出したのが聞こえた。
そして、掠れた声。
「……俺も知りてえよ」
そんな声を漏らしたきり、ルカは黙ってしまった。
ルカ、と名を呼ぶが、返事はない。
代わりに、聞こえてきたのは……
微かにすすりなく、声だった。
「……ルカ、泣いてる、のか?」
「……んなわけないだろ、バカ。
無茶した部下に怒りしかねぇよ」
油断しやがって。
掠れた声でルカは言う。
怒っている、と彼は言うが、どう聞いても……そんな風には聞こえない。
怒りというよりは安堵が。
それよりなにより……恐怖が滲んでいる声に、聞こえた。
「……心配かけるなよ」
は、と小さく息を吐く音はやはり震えていて、ルカは泣いているのだろうと確信する。
そしてそれほどまでに彼を追いつめたのは、自分だとも理解する。
「……ごめん」
何も見えないこの状況ではルカが何処にいるかもわからないけれど、シストはそう詫びる。
そっと手を伸ばしてルカを探れば、指先が触れたのは……濡れた、頬。
驚いたようにルカが飛びのくのを感じる。
シストは手を引っ込めて、思った。
嗚呼、こいつの涙は、見たことがなかった、と。
エルドが死んで、泣きじゃくったあの日も、葬儀の日も、あいつは、ルカは、一度も泣かなかった。
そんな彼が、泣いている。
泣かせたのは、自分だ。
そんな罪悪感と、微かな嬉しさが、胸を締め付ける。
ごめん。
もう一度詫びようとした声は、ばさりと乱暴にかぶせられた毛布に遮られた。
―― 触れた涙、隠す嗚咽 ――
(そういえば、あいつの泣き顔はみたことがない。
見たいものではないけれど、でも…)
(大切だと思ってくれているのだと、荘わかるのは嬉しくて。
触れた指先の冷たさが愛しく感じた)
2016-9-8 19:06